32 帰還

 エキドナがゴリゴリのゴスロリのプロメテウスから譲り受けた【隠者の杖】を使い、島から俺達以外にをかけた。この移動する島についての記憶を曖昧なものに変えてしまうという、誠にもって都合が良すぎる魔法だ。いいのか? そんな適当で? マジか、ホンマでっか?


 隠者の杖を使い紫色の巨大な光の柱を打ち上げた後、俺達はレオンの背中に乗ってこの島から離れた。一刻も早くこの島から離れないと、後々ややこしい事に巻き込まれるからだ。いや、絶対巻き込まれるな。


 お疲れモードではあるが、プロメテウスから譲り受けた隠者の杖がいたくお気に入りになったのか、エキドナは終始ご満悦の様子だ。

 エキドナの隠蔽の術を使いながらレオンの背に乗って、俺達の家まではアッという間だ。もうすぐ着きそうだ。

 

 神器を使い、牛鬼や鬼武者と戦い、俺の肉体はボロボロだ。早く熱い風呂に浸かってキンキンに冷えたビールで祝杯をあげたいところだ。卯月も疲れ切っているだろう。

 ルークも電池切れで俺のポケットの中で寝ている。エナさんは、レオンに乗ってから後ろを振り向いたら、相変わらず恍惚の表情だ。よほど嬉しかったのだろう。今でも隠者の杖に頬をスリスリしている。大丈夫なのか? まぁ、放っておくしかないな?


 



 数分で我が家の庭先に辿り着くと、庭先で妖精犬のクーシ―のルーシーがお出迎えしてくれた。モップのような長い毛を振り回しシッポも振り千切れそうな勢いだ。


【ウォ~ン。ブアウワウ……。ハァハァ……ワンワンサミシカッタヨ~ワンワン


 玄関のドアを冥土めいどじゃない、メイドのアリスが開けて、卯月とエキドナを労いながら室内へ誘う。


 俺はルーシーに押し倒され顔中舐められ、ヨダレ塗れになっているんだけどな。 

 

 誰か~~。た、たすけて~~!


 妖精犬ルーシーの嫌がらせのようなヨダレ攻撃を30分受け、ようやく俺は家の中に避難する事が出来た。顔中ヨダレまみれになってしまった。


 早く風呂に入って寝たい。熱い風呂に入った後に、キンキンに冷えたビールを飲みたいんだよ~。


 リビング奥にあるジャグジーに向かうと、家事精霊アリスが待ち受けていた。


「聖也さん。申し訳ありませんが、只今浴室は主である卯月様とエキドナ様が使用しています。これ以上の進入はセクハラと認識し、攻撃対象とみなしますが宜しいでしょうか? 尚、撃退した後は今後の見せしめでは有りませんが、二度と行わない様に逆さ磔さかさはりつけになりますが、それでも浴室に侵入しますか?」

「はぁ~? もう既に風呂に入ってるの? ってか何だよ逆さ磔って?」

「あら、御存知無いのですか?【ずうめおかず】の漫画の【まっことちゃん】にあったじゃないですか?【ギョエ~!】の逆さ磔ですよ」

「知らねえよ。何だよ、ギョエ~!って?」

「あらっ? もしかして【グワシ!】も御存知ないのですか?」

「いや、【ひでぶっ…】【あべしっ…】はに出ていたような気がしたんだが……。もういいや、二階のシャワーで済ませるわ……。

 明日は起こさなくていいや……」


 何なんだ⁉ 【ギョエ~や、グワシ!】や、【ひでぶっ…にあべし…】聞いた事があるような無い様な……。

 いやでもな、この家は俺の家だぞ……。ってか、同居人が俺より格が上なのは分かってはいるが、改めてみると何だか惨めだな……。


 まぁ、良いか⁉ ってか良くない! 明日になったら業者呼んで、二階に俺専用のジャグジーとサウナ設置してもらわないと……。


 俺は二階の小さなシャワールームでシャワーを浴びて、疲れを癒すようにベッドにダイブした。多分、12時間は寝るな? いや寝てしまおう……。ふて寝してやる。Zzzz……。






 ▽ ▲ ▽ ▼





 ――朝だ! 新〜しい朝が来た! 希望の朝〜だ!

 

 馴れは恐ろしい。幾ら疲れたと云えどルーティンなのか、早朝に目が覚めた。今は朝の6時。

 俺はベットの上で伸びをした。途端にお腹が鳴る音が鳴る。


 〜グゥ~


 そういえば、昨夜は晩飯を食べる余裕すら無かったからな。

 卯月とエナさんは起きているだろうか? 思案していると、ドアを叩く音がする。


 ドンドン!

「聖也さん〜起きてる?朝ご飯の用意出来てるわよ~」

「あぁ、分かった。すぐ行くよ」

「じゃあ、下で待ってるわよ」


 心配する暇も無かった。卯月は俺と違って体力は有るし、大食いだから元気なんだな。

 

 階段から下に降りると、既に卯月とエナさんは先に食べていた。

 待ってねぇじゃんか。食ってるし……。まぁ、いいけどね。


 テーブルの上のメニューを見ると、卵かけご飯に焼き鮭。茄子の味噌汁と冷奴。だし巻き玉子焼きと漬物。更に納豆まで有るぞ~。


 ナイスだ!これぞ、日本の朝の食卓。冥土めいどアリス、いい仕事するじゃないか。グッジョブだぜ!


 俺はアリスを見ながら、左手で拳を作り親指を立ててみた。

 そんな俺には見向きもしない。


 トホホッ、このツンデレメイドめ!




 TVをつけると例の浮島のニュースが流れていた。島に居たゴブリンや牛鬼、更には現地に居た俺達の事は何も発表は無かった。

 漁師や調査隊や救助隊の自衛隊員などについては、原因不明の行方不明としてあげられ、捜索活動が未だに続いているようだ。


 忘却の魔法、恐るべし。隠者の杖って凄いんだな~。





 昨日の事を振り返る――。


「卯月ちゃん、俺今更思うんだけど……鬼って本当に昔に居たんだね」

「そうよ。だって私の実家の伝承でもそうあったから」

「だね。昔の戦国時代に生きた武将達は、鎧を身に纏っていただろう。あの兜を思い出せば、二本の角の様な形が多いなぁと思っていたんだけど、やっぱ鬼を真似ていたんじゃないんだろうか」

「そうね、当時は命を賭けた戦いばかりだから、鬼の様な力があれば勝てると思って姿を真似ていたんじゃないかしら」

「でもさぁ、鬼の由来を思えば何だか心苦しくなっちゃうよなぁ。

 あの神器も弁慶が壇ノ浦で見つけ、義経の未来を危惧したってさぁ、大天狗も同じ思いだったんだろ。何だか、あの時の義経の変わり様は鬼武者になったから、よほどの憎しみが湧いていたんだろう」

「そうよね~。幾ら戦国時代といえ、親兄弟で殺し合うのも堪らないわ」

「妾と戦ったマザーゴブリンも可哀相だったかしら。飢える辛さは、堪らないかしらね。妾は今ではこんな美味しいものを食せるのだけども、今後このような美味しいモノが、食べられないなんて考えただけでも狂いそうかしら。

 飢えという渇きの怒りや、裏切りや確執に対する憎悪だったり、理不尽な呪いによる怒りと憎しみが入り乱れていたなんて思えば悲しいわねぇ」

「まさに、あの島はだったわけだよね」

「そうねぇ。でもね、妾の居た神世紀の時代も似た様な事があったらしいから、今も昔も変わらないかもね。神世紀の時代も頭に角が生えた人型は居たかしら。奴等は戦闘民族でもあったわ。やたら好戦的で争いが絶え間なかったのよ。遂には魔界へ落とされる始末だった。

 まぁ、魔界は妾もアザエルもいたから他人事ではないかしら。アザエルの様に堕天使は、神に謀反を企てたのが原因だから天界を追われたのよね。

 人間が全ての悪を産むのっていうのは考えモノかしら。完全なる善というものは、実は神界においても存在しないモノなのよ」

「へぇ~そ~なんだ~~!」


 珍しくエキドナが正論を語る。


 大食いでゴーイングマイウエイを突っ走る天然エナ姉さんにしては、全うな答えを論じている。

 うっかり聞き損じているとされそうだ。ヤベェぞ、エナさん。

 卯月を見るとうっとりとした表情でエナさんを見ている。大丈夫か⁉



 命を賭けた戦いが終わり、ようやく俺達の日常に戻った気がしたのだった。

 





 しかし、北の大地で密かにナニカを企んでいるモノが居るとは、当時の俺達は気が付く余裕は無かった――。







                         鬼のく島:編  了。


                         次話につづく

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


・ここまでお読み下さり、ありがとうございます。三種の神器を捜す旅から始まり、鬼の哭く島編へと突入。そしてようやくラスト。

 マザーゴブリンや義経の鬼武者。そしてミノタウルス。それぞれが、飢えによる渇きの憎しみだったり、兄弟の確執の妬みによる憎悪だったり、親の行いの呪いを受けていた怒りと、なんとも苦しい憎しみと怒りが詰まっていました。(;'∀')


 彼等の魂はうまく救われたのでしょうか?


・さて、次話から幕間を数話挟んで新たな物語へと突入します。



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