28 ミノタウルス - 3

 振り抜いた魔槍レーヴァテインの刃先からは、灼熱の紅い業火の刃が迸る。


 それはゴブリンキングの放った四つの竜巻を飲み込むと、その竜巻を離散させてしまった。更に勢いは止まらない。竜巻を放ったゴブリンキングに襲い掛かる。


 その攻撃によって、ゴブリンキングの右側の二本腕の肘から下が、業火によって切り刻まれて二本腕が焼け落ちてしまった。


 炎の魔槍レーヴァテインの特性によって、傷口が炎によって燃え上がる。


「—―ギョ、グェェ――」


 ゴブリンキングは叫び声をあげながら、燃え盛る右の肘元を左に持った大鎌が切り落とす。侵食する炎を消す為とは云え、自らの腕を切り落とした。


 すると、切り落とした腕から新しく腕がユックリと生えてきた。


『ってか、なんて再生能力だ。これは一気にいかないと、何度でも再生して来そうじゃねぇか。面倒だ。非常に面倒だ』

 

 恐るべしゴブリンキングの再生能力。再生させた腕を振り回し、再びルークへと襲い掛かっていった――。




「チッ!何故だ? アザエルを圧倒する力があるはずなのに……。どうしてゴブリンキングがこうも苦戦してしまうのだ? 何故だ……?」


 かたや安直に構えていたミノタウルスであったが、どうやら雲行きが怪しくなっているようだ。


 ミノタウルスは焦る。角が多数持ちの鬼族は角の本数に応じて強さが変化する。仮にもこの三本の角を持つゴブリンは上位種。レッドキャップの集合体であるゴブリンキングという最上位種のゴブリンだ。それが、予想外にも苦戦している。

 もっと戦いを優勢に進めていられた筈なのに……。どこで誤算が生まれたのか? ミノタウルスが知る由もなかった。



 レッドキャップがゴブリンキングに成り損ねたには訳がある。そもそも本体を13に分けてしまったのが大きな誤算だ。しかも、聖也と卯月の場所に送られた5体は鬼武者の妖刀村雨によって1体太刀に吸収されている。これでは完全体に成れない。

 不完全体になってしまった。これはミノタウルスにとっては大きな誤算。


 ルークにとってこれは好機。このまま押し切れるのだろうか。




 隠し玉であったレッドキャップ13。完全体のゴブリンキングとなって己の右腕となり、破壊の限りを尽くそうと目論んでいたミノタウルス。どうやら目論見が外れ余裕どころか焦りが出始めて来た。


 切り落とされた右腕から新しく腕を生やしたゴブリンキングは、ルークに果敢に挑み続けている。


 しかし、その様子を横目で見ながら、ミノタウルスはルークの前に歩み出る。


「チッ! 下がっていろ。お前では相手にならん。

 アザエルよ、中々の強さではあるな。しかし、我は呪いを受けてはいるが神の子として生を受けた。よっていくら貴様が堕天使だとしても我を打つことは不可能だ。

 これを見るがいい。

――ウッ! ハァ――――」


 ミノタウルスは両手を胸に交差させると両腕を高く広げた。黒ずんでいた全身の肌が怪しく光り純白の姿となった。

 更に額に二本の角が増えている。耳の上に牛の様な二本の角の間と額に新しく生えた二つの角。合計四本の角が生えている。かなりの上位種の鬼だ。


「良いかアザエルよ。もう一度だけ言う。我と共に行かぬか。クソつまらぬこの世を我が手にして、快楽を楽しもうではないか。まずは手始めに、この小さな島国を破壊した後に全世界に恐怖を振りまき、神界へと躍り出ようではないか?

 どうだ、楽しい提案だとは思わぬか?」

『何勝手な事をほざいていやがる。自分勝手も甚だしいじゃねぇか。確かに、テメェは母親が呪いを受けて生まれたからそんな姿になったのは気の毒だと思うぜ。

 だがな、テメェのやってる事はただの憂さ晴らしじゃねぇか。そんな詰まんねぇ事で俺様を巻き込むんじゃねぇぞ。

 この世界も俺様は、結構気に入っているんだからな』

「ほぅ~我の誘いを断るのか⁉ では、仕方が無い。貴様を切り刻み、そして貴様の血肉を喰らい我の力のいしずえにするとするか。

 これでも喰らえ――!」


 ミノタウルスはそう言いながら大きく息を吸い込んだ。すると口元が紅く輝き始めた。

 すぐさま口を大きく開き、何かを吐き出した。


 それは火球。ミノタウルスの口元から出た小さな火球は大きく変化しながらルークへ襲い掛る。それは拳大から2m級へと大きく勢いも強くなっている。


 咄嗟に火球を躱すルーク。標的を失った火球は、勢いのまま壁にブチ当たると大きな衝撃音を辺りに響かせた。


 ミノタウルスは攻撃の手を休めない。間髪入れずに次から次へと口から火球を吐き出している。

 単発ではなく、連続して吐き出される火球は、まるで流星群さながらの勢いだ。もしも当たればただでは済まされない。

 ルークは翼を使い器用に避けてはいるが、何時までかわしきれるか時間の問題だ。


『クソッ。同じ火属性持ちか。ならば、火力の強い方が競合いに勝つのなら、力自慢といこうじゃないか。

喰らえ!AgniアグニSaint Fire Lance爆炎ノ浄化


 流星群となって襲いかかる火球を前にして、ルークは自分自身に気合を込める。


 魔槍レーバテインは一際輝くと、振るわれた穂先から灼熱の斬撃が迸って行く。

 ミノタウルスが吐き出した火球を全て飲み込まんとする勢いだ。

  

 ミノタウルスの流星群の様な幾多の火球と、ルークの放った灼熱の斬撃がぶつかり合い、辺り一面が火の海と化す。




「チッ。貴様も火属性持ちだと忘れておったわ。ならば、我と力比べをするか?」


 ミノタウルスは両手に持った巨大な戦斧を構え、ルークに向かって走り出す。





――チッ。コイツの馬鹿力だけは勝てそうもないかもな……。

 仕方が無い、奥の手を出すか……。


『来い――! アイギスの盾。そしてメデューサよ、力を貸せ――!』


 ルークが左手を真横に伸ばし、何も無い空間から盾を取り出す。キラキラとした縦長の楕円の盾。その真ん中には大きな窪みがある。やがてその窪みに人の頭が現れる。その人の頭はユックリと顔を上げる。

 よく見れば女性の顔立ち。整った顔立ちの割には髪の毛がドレッドヘアになっている。注視してみればその編み込んだ髪の毛は髪の毛では無く、蛇の群れとなっていてウネウネと動き、辺りを警戒していくる。

 そして、その盾に組み込まれた女性の両のまぶたがユックリと開かれた。


 紫色の妖しい瞳が辺りを見回す。


 すると大鎌を構え、隙あらば攻撃しようとしていたゴブリンキングと目が合った。


 ゴブリンキングは、ルークの取り出した盾に一瞬目を奪われたが、視線を外そうとして、両手にした大鎌をルークへ投げ放とうとした。


 しかし、動きが止まってしまった。


 単なる動きが止まってしまった訳では無い。足元から石化が始まってしまった。石化はやがて全身へと伝わり、ゴブリンキングは動かなくなってしまった。

 ゴブリンキングの石像が、一体出来上がってしまった。


 死して尚、石化の邪眼を持つメデューサ。如何にゴブリンの王としても、その石化の邪眼には勝てなかった――。



【メデューサ。

 元々美少女であったメデューサは、海神ポセイドンとアテナの神殿の1つで交わったために、アテナの怒りをかい、醜い怪物にされてしまう。

 これに抗議したメデューサの姉たちも怪物に変えられてしまう。姉のステンノーとエウリュアレーは不死身であったが、メデューサだけはそうでなかったため、ペルセウスに討ち取られたとされる。

 アテナはその首を、自分の楯アイギスにはめ込んだという曰く付きの盾が現在ルークの持っている盾だ】



「くぅ~オノレ、この期に及んでポセイドンと関係のあったメデューサを出すとは……。

 しかし、我は呪われたとは云え神の子。メデューサの石化の邪眼など効かぬわ――!

 ポセイドンの前に、その顔を叩き割ってくれようぞ!

 これでも喰らえ――!」


 ミノタウルスはメデューサを見つけると憤怒の形相に変わり、手にした巨大な戦斧をルークへ向かって投げつけた。

 巨大な戦斧は回転しながらスピードをあげてルークへと襲い掛かる。


 かたやルークはアイギスの盾をしっかりと構え、戦斧の勢いに耐えようとしている。


 最強とうたわれるアイギスの盾。その盾に斬り込んでいく巨大な戦斧。


 勝つのはどちらだろうか—―?




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