17 門の中 - 4
その直後、マザーゴブリンは幾つもの残像を残しながら移動を繰り返し、エキドナへ襲い掛っていった。まるで分身の術のようにユラユラと幾つもの残像を残して…。
「な、何なの?これは一体……?」
エキドナの困惑を他所にマザーゴブリンは残像を残し消えてしまった。だが見えないマザーの攻撃は爆進の勢いをそのままにエキドナに体当たりを繰り返していく。
寸での所でマザーの攻撃を躱すエキドナ。
躱されることは前提で、マザーは杖や硬質化した爪の攻撃をすれ違いざまに4本の腕で執拗にしてくる。
マザーの攻撃は身体強化で脚力も上昇したようだ。大地を踏みしめる四本の強靭な足。その足によって踏み出されるスピードは目にも止まらないほどの速さ。マザーの攻撃がユラユラと残像となって見得なくなるのは、身体が迷彩化されたのではなく、移動スピードが急速に上がった為なのだ。恐るべし脚力の身体強化。緩急を付ける移動速度はユラユラと残像を残して襲い掛かるので、分身の術を使っているかのようにみえる。
かたや、エキドナは自身の
しかし、徐々にエキドナの身体の至る場所に切り傷が増えていく――。
「っち! 厄介ね。でも、これぐらいは想定内かしら。そっちがそうなら、妾も少しだけど本気を出そうかねぇ――」
エキドナはそう言うと、ゆっくりと腕を胸元へ交差するような仕草をし、両手を肩に水平に広げて己自身に気合を込める。
すると、エキドナの髪の毛が風も吹かないのにユラユラと逆立ち始めた。
少し前まで誰しも見とれる美しい顔だったが、般若のような顔に変わってしまった。瞳は緑色から妖しい
「ヴオォォ――――」
「な、なんなのよ?オマエって、一体?」
「シャアァァァァ――――。今更、なにを
アナタ、誰にケンカを売っていたのか、後悔するには遅すぎるんじゃなくて?」
「くっそ――。オノレ――。ダレガ相手であろうが、今更後には退けないノヨ――」
マザーゴブリンは驚きを通り越し、
マザーの動きがヒートアップしていく。
残像が二体から三体へ、そして十体へと増えていく。
十体に増えたマザーはエキドナを取り囲むように円になり、周回するスピードを更にあげた。
「厄介ね。でも本体は一体しかいないからどうやって探そうかしら? そうか。これしかないわね。
エキドナは鉄扇を杖に変え、地面に突き刺し呪文を唱えた。
地面から土壁が立ち上がりエキドナを取り囲むようにドーム状になっていく。
片やマザーゴブリンの勢いは止まらない。残像を含めた十体のマザーは一斉に空中へ飛び上がる。そして四方八方から下降しながらエキドナへ、手に持つ武器を思い切り振り降ろしていった。
ドーム状になった土壁の内側からエキドナは空中の気配を探る。目に見えた姿は十体ではあるが、本体は一体のみ。土壁を壊す個所に本体は居るはず。そこを集中して攻撃すれば何とかなるだろう。
――ズダン―。
エキドナの張った土壁のドームの一ヶ所にヒビが入る。マザー本体が攻撃を仕掛けて来た場所だ。言い換えると此処にマザーの本体がいる事になる。
「そこかしら。
ドーム状の土壁の外側に立ちながら、四本の内の一本の腕に武器を持ち土壁を壊さんと武器を何度も振り下ろすマザー。
するとその場所を目掛けてエキドナの尻尾の先端が、ドーム状の土壁の内側のヒビが入った場所から外へ向かって飛び出していく。
――ズンッ――。
「ギャアァァァァ――――」
エキドナの尻尾の先端は、マザーの後ろ足の根本を貫いていた。
エキドナの尻尾は串刺しにしたマザーを空中高く持ち上げ、地面へと叩きつける。
地面へと叩き付けられたマザーは、数回バウンドを繰り返すと奥の壁にぶつかって止まってしまった。
エキドナは自ら張った土壁の魔法を解くと、ドーム状の土壁は崩れ去っていく。
エキドナはマザーを探すと、奥の瓦礫からようやくマザーゴブリンは姿を現した。姿はボロボロとなり、足も腕も4本から元の2本に戻っていた。ハァハァと息も荒い。ダメージは深刻なようだ。
「そろそろチェックメイトかしら」
「ウルサイ、この程度でヤラレてたまるか……。
「懲りないわねえ。—―
最初の攻撃と同じように地割れが起き、マザーへ向かって地面から無数の石槍が襲い掛る。前回同様に避ける気配もそぶりも見せないマザー。
「ソンナモン、何度やっても効きはシナイワ。踏みしめてヤルワ」
最初に行ったようにマザーはエキドナの石槍を踏み潰そうとした。
しかし、石槍は破壊されることなくマザーの
なんと無残な姿となってしまった。下から剣山の様に生えた無数の石槍によって、マザーゴブリンは串刺しになってしまった。
「グギャァァァァ――――。バ、バカナ、前には踏み潰せたハズナノニ…………」
「同じ事を何度もするわけ無いじゃないかしら。石槍も鉱石を変えてみたのよ。妾は
ふふふっ、最初の石槍はフェイクで本命はこのダイヤの石槍とは誰も気が付かないかしら」
「グフッ……チクチョー……。こ、こんなはずでは……。アタシは一体何の、タメニ……」
マザーは石槍に貫かれている為、話すこともままならない。どうやら虫の息だ。
「バカねぇ、最初に言ったでしょ。共存を考えなかったアナタが悪いんでしょうが。妾も人間と共存しているから分かる事だけど、案外楽しいモノよ」
「クッ……ナラバ、どうすれば、ヨカッタノカ?……」
「そんな事は簡単かしら。自分がしてほしい事を、相手にしてあげれば良いだけじゃないのかしら」
「な、ナント……そんな簡単な事でヨカッタノカ……?」
「妾も良くは知らないのだけれど、ウーツキがTVを観ながら言っていたかしら。妾も感心したものよ。
まぁ、アナタには決して分からないでしょうね。自分さえ良ければいいと思っている輩には、馬の耳に念仏だから言ってる意味すら分かりっこないのよねぇ」
「そうか、ソウダナ、ソウダヨナ・・・・・・。アタシはいつも餓えているから怒りで我を忘れてイタヨウダ……。確かにアタシも闇に落ちる前は知ってイタカモシレナイ……。
いつの間にか、決して
クッ……ハハハッ……。残念で仕方が無いが、アタシはコレマデノようだ……。
モット早く、オマエニ、いや貴女に会いたカ…ッ…タ…ナ……」
マザーゴブリンは最後にそう呟くと、自身の額の三本の角がポロリと落ちた。
そして、姿が一瞬光り醜悪な土偶の姿から一変してエルフのような美しい姿となった。
しかし、足元からボロボロと崩れるように消えてしまった。最後に穏やかな笑みを浮かべていたのをエキドナはしっかりと見ていた。
「ふぅ~元々はゴブリンもエルフのような妖精だったと聞くけど、どこでどう間違えてあんな醜悪な姿になったのかしら。アヤツも次に生まれ変わる事が出来れば良いけれど、無理かもねぇ。
さてと、妾はここからどうやって外に出たらいいのかしら。あまり、長居はしたくないのよねぇ。
そうそう、アヤツが座っていた場所に魔法陣が在ったわね。転移の魔法陣なら良いのだけど……。迷っている暇はないのかも」
エキドナは下半身蛇の姿から、人形の体型に戻ると、マザーゴブリンが座っていた場所へ歩いて行く。
ゴブリン達を召喚していた魔法陣は消えて無くなり、もう片方の魔法陣へと足を踏み入れた。
エキドナの姿が足元から消えていった――――。
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