16 門の中 -3
一体のキメラが、紅い帽子をかぶり大きな鎌を持った4体のゴブリン達に襲われている。キメラの足元は大鎌で切られたのか白毛が真っ赤に染まっている。歩き方も痛みが酷いのかフラフラしている。
「レ、レオン……」
「あの紅い帽子をかぶっているのは、通称レッドキャプ13。ゴブリンの中でも精鋭中の精鋭。今回はチームが分散していて13人全員集合してはイナイケド、一体一体はサイクロプス並みの力はアルノヨ。
あの三つ首の合成魔獣は、何分持つのかねぇ? フフッ、ハァ、ハッハッハ……」
「—―クッ……。レオン……。ごめんなさいね。可哀想に……。
でもアナタの目的が聞けたからそろそろ良いかしら……。どうしてこの島にゴブリンやサイクロプスや、牛だか鬼だか解らない魔物が居るのは大まかに解ったかしら。
結局、アナタに聞いても分からない。って事だけが分ったわ。
どうやらアザエルが向かった先にも、同じ角が生えた輩がいるのは予想出来るかしら。本体というか、ラスボスはあちらにいるみたいかしらねぇ。
確かに憎悪や飢えは苦しいわねぇ。妾も魔族だから分からなくはないけれど、でもアナタ、相手が悪かったんじゃないかしら。相手を見て啖呵斬る方がよくってよ。
そういえば、この世界へ召喚されて色々な知識を得たのだけれど、アナタ鬼子母神みたいね。ウーツキから貰ったスマホで観たYチューブの中の物語にあったかしら。
自分は好き放題しながら人間の赤子を食らうが、お釈迦様に1000人居る我が子を一人隠されただけで、気が狂いそうになった。っていうじゃない。まさに、今のアナタね。
まぁ、そんな事に気が付かないから魔物なのかもね。怒りの矛先を妾や島に上陸した人間達に向けるのはちょっとばかし違うのかしら?」
「な、ナニヲ…………。ううっむ…………。しかし、…………」
「レオン、もういいわ。負ける演技も疲れたでしょう。妾に付き合わせてごめんなさいねぇ。そろそろ、本気モードを出していいかしらねぇ。
一切の憐みもないわ。やっておしまいなさい!」
[[[
エキドナからの念話がレオンに届く。つい先ほどまでフラフラしていたレオンだったが、三つ首の一つの山羊頭の瞳が妖しく光る。
四本の足元を血で赤く染めてフラフラしていたが、空へ向かって山羊頭は咆哮をあげた。
「ヴェェェェ―――」
途端にレオンの身体が妖しく光る。卯月に名を付けて貰っていた為、自身の格が上がっていたのだ。名を授けてもらってから身体は褐色から白色へと変わったが、山羊頭が咆哮をあげると白い身体にオーラが立ち上がる。
「グルゥゥギャォォォォォ――――」
勢いに乗って中央の獅子頭が大音響で吠える。すると、獅子頭の口から威圧のブレスが波紋のように辺り一面響き渡っていく。
流石のレッドキャップも威圧の波紋ブレスを受けると一瞬動きが止まってしまった。
その瞬間をレオンは見逃さない。レオンの頭の一つ、オオトカゲは炎を吐き続けながら、本体の翼を羽ばたかせ炎を竜巻に取り込んでいく。
オーラを放つ前にも炎の竜巻だったが、それの比ではない程の勢いだ。明らかに規模が違いすぎる。炎の竜巻は紅蓮の荒れ狂う竜巻となりバージョンアップしたようだ。
山羊頭は辺りを見渡しゴブリン達を探しつつ、紅蓮の竜巻を誘導させる。
紅蓮の竜巻は逃げ惑うゴブリン達や、レッドキャップ達に暴風の轟音を響かせながら襲い掛かる。
襲い掛かる紅蓮の竜巻の周りは真空状態だ。逃げ延びたと思っていても、真空状態なので吸い込まれる様に竜巻の中に消えていく。
レッドキャップは自らの獲物の大鎌を地面に突き刺し難を逃れようとするが、紅い竜巻はそれを嘲笑うように彼等を巻き上げていく。
紅蓮の竜巻は意思を持ったように残りのゴブリン達を追いかけて取り込んでいく。
竜巻の暴風に飛ばされ、その竜巻の中で身を切り裂かれ、そして燃やし尽くされていく。
成す術もなく逃げ惑う残りのゴブリン達を、紅蓮の竜巻は一体残らず全て喰らいつくした。
[[[ヴゥオ――――ン――]]]
レオンの勝利の雄叫びが空に向かって響く。
門の中の壁に映し出されたモニターの様な画面を観ながら、マザーは歯噛みをする。
どうして、こうなった?レッドキャップは確実にあのキメラを圧倒していたはずだ。それが何故急に?もしかして最初から実力を隠していたのだったら……。
マザーの額に汗がひと筋つたい落ちる。
「ナ、ナニヨ、どうして……。レッドキャップは精鋭のはずなのに……。何でこんな事が……。クッソ~~オノレ、オノレ……チクショー……」
「何を喚いているのかしら。こうなる事は最初から分かっていたハズじゃなかったのが、分からなかったのかしらねぇ。
でも最後にもう一つ聞くわ。他の魔族について教えてくれないかしら?」
「そんなもの、知るはずもナカロウ。アタシは此処から出られナイノダ」
「そうなの? ならもうアナタの戯言も聞き飽きたかしら。
そろそろ死んでくれないかしら?」
「クソクソクソクソクソクソクソ、このままヤラレて堪るかっての――」
マザーゴブリンは唸りをあげて自らの首飾りを外す。外した首飾りを地面に落とすと、首飾りは大きな輪となり妖しく光りはじめた。
一定の大きさになると妖しい紋様が浮き上がる。その紋様は魔法陣となった。
その魔法陣の中にマザーは飛び込み、雄叫びを上げる。
「ヴォォォォォ――」
魔法陣の中のマザーの姿が徐々に変化していく。
まず初めに足が増えた。四本足となり、腰から下は動物のようになってしまった。ケンタウロスのようなしなやかな四脚ではなく、サイのような太く短い丈夫な足。
更には腕も肩の付け根から二本増えている。まさしく異形の姿――。
その姿を見たエキドナの一言。
「な、なんて、不細工なのかしら……」
魔法陣の光が収まり、変化を終えたマザーが出てくる。バカにされた屈辱なのか憤怒の形相をしている。
「バカにするんじゃない。踏み潰してヤル。Ph
怒りを露わにしたマザーは身体強化で体を黒く硬質化して、新たに増えた腕と前からあった腕の爪先は大きく伸びている。前から持っていた杖を握りしめ、そして振り上げエキドナに襲い掛かる。四つ足での歩み寄る速度は凄まじい。
猪突猛進。猪の如く一直線の猛烈なダッシュ。一直線の動きだから避けやすいが、避けるタイミングがズレると爆進してくる勢いが強い為、弾き飛ばされるか、踏み潰されるだろう。
しかしエキドナは難なくマザーの直線的な動きをひらりと躱す。
マザーゴブリンは勢い誤って最初に座っていた椅子に衝突ながらも、その向こう側の壁までも破壊して瓦礫に埋まってしまった。
「アハハハッ、何よ。自滅だなんて笑わせてくれるのも程々にしてくれないかしら。期待外れも良い処かしらね」
片やマザーゴブリンは埋もれた瓦礫の中からユックリと姿を現す。ダメージは無いみたいだ。
「フン。怒りで熱くなり過ぎたワ。この姿をよくも笑ってクレタワネ。好きでこんな姿になった訳じゃないけど、この姿を見たカラニハ、お前は終りダ。覚悟シロ。
ウオォォォオ―――」
マザーゴブリンは吠えた――。
その直後、マザーゴブリンは幾つもの残像を残して移動を繰り返し、エキドナへ襲い掛っていった。まるで分身の術の様に……。
「な、何なの?これは一体……?」
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