12 オーガ ‐2 / ルーク

『まずは、一体。さぁ、鬼退治の始まりだ! テメェら、覚悟しな!』


 身の丈10mの巨人であるサイクロプスを、幾ら第三形態へ変わったとは云え2mの背丈しかないルークはいとも簡単に倒してしまった。ルークからしてみれば、自分の身長の5倍からなる程の見上げるような巨人。普通なら、たじろいでしまう。しかし、終わってみれば瞬殺も同然。


 残り3体のサイクロプスは、仲間が瞬殺される現場をみて動けなくなってしまった。


「な、なにが……。どうして、サイクロプスが一瞬で、訳が分からない。ヤツは、一体何者なんだ……」


 ゴブリンやサイクロプスだけでは無い。オーガも同様に驚いている。





 かたや、グレーから真っ白な姿に変貌を遂げたルークの勢いは止まらない。


『オラオラオラオラオラオラオラ――。これでも喰らえ――――!』


 魔剣レーヴァテインを縦横無尽に振り回すと、炎の斬撃がゴブリンとサイクロプスを襲う。炎の柱が魔物目掛けて横薙ぎに走り抜けていく。


 ルークの放った炎の斬撃の柱が魔物達を襲う勢いは止まらない。ゴブリン達を襲っても勢いのついた攻撃は、この空間の壁に設置してある一台のバリスタまでも破壊してしまった。


 巨大な矢を撃つ発射台がある場所の戦闘は、ルークの放った炎の斬撃が外に漏れ出す。その火柱が建物の中から外に向かって立ち上がる。





 純白の姿となって右手に魔剣レーヴァテインを持つルークの前では、雑魚キャラは成す術もなく圧倒されていく。

 炎が横から走り抜けて行く斬撃は、立ちはだかるモノを瞬時に飲み込み焼き尽くす灼熱の炎。


 残りの3体のサイクロプスと4~50体のゴブリン達。そして3mの巨大な矢を撃つバリスタさえも、跡形も無く焼け落ちてしまった。灼熱の温度は一体何千度あるのだろうか。恐るべし魔剣の威力。




 ルークが姿を変えて魔剣を手にして最初のサイクロプスを倒した時、オーガは瞬時に居場所を離れた。それが幸いとなったのか、3体のサイクロプスと多くのゴブリン達が殲滅される様を傍観しながらでも、ひとり無傷でいられた。


「クッソ~。なんて破壊力だ。ゴブリンはともかく、頑丈な体を持つサイクロプスまでも簡単にやられるとは……。クゥ~!オノレ……」

『なんだ、まだ生き残りがいたのか? それともビビッて逃げ回っていたのか?』

「クゥ~オノレ!」


 余裕を見せていたルークに向かい、咄嗟に距離を詰めて大剣を振り下ろすオーガ。


 オーガの振り下ろした大剣は、ルークの魔剣レーヴァテインに容易く受け流される。


「クソ――! こうなれば、パーサーカー狂戦士に成らねば……。

 ウヌヌッ……」


 オーガは覚悟を決めたように呟くと、大きくバックステップを行いルークとの距離をとった。


 そして持っていた大剣を地面に突き刺した。さらには両手を自分の顔の耳の所へ爪を立てて口元へ一気に引き下ろす。

 左右五本ずつの赤い線が口元へ引かれている。線から赤い血が滴り落ちる。


『何やってんだ? 気でも狂ったか? そういえば、テメェは元々狂ってたな。今更か?』


 オーガの顔の傷は、やがて赤い血脈となって浮き上がる。それは顔から全身へと向かって浮き上がる。


「—―Go Berserk狂え――」


 ――ドクン――。

  

 オーガの血脈が全身へ浮き上がり駆け巡ると、オーガの体が一回り程大きくなった。全身の肌色が黒く染まり、赤い血脈が体中に浮き上がる様は、まるで別人。額の二本の角も大きく伸びている。先程の雰囲気とは別のオーラを纏っている。それは怒り、憤怒に似た狂気のようなオーラ。

 


『何だ、随分と雰囲気が変わったじゃねぇか。そうか、モードチェンジしてパーサーカーになったのか。面白いが、テメェに構っている時間は無ぇんだよ!』

「…………」


 オーガは、目の間に突き刺した自分の大剣を引き抜くと、ルークへ雄叫びをあげて大剣を振りかざし斬りかかっていく。


「ウオォォォ――!」


 オーガが最初に放った攻撃は刀身から見えない斬撃が迸る。それは地面を切り刻みながら破壊の終焉はルークへと向かう。


 ルークはオーガの放った攻撃を魔剣にて斜め方向へと受け流す。まともに打ち合えば、お互いのエネルギーがぶつかり合い途轍もない衝撃がこの空間を覆うのを分かっているのだろう。柔よく剛を制す。まるで卯月の古武道の動き。


 ルークが受け流したオーガの斬撃は地面を大きく削りながら後方の壁を破壊する。

 


 すぐさまオーガの身体が一瞬ブレてルークの視界から消える。


「ウオォォォ――!」

『来い!』


 ――ギユィ――ン――。


 姿が消えるぐらいに瞬発力が上昇したオーガであったが、ルークは真後ろへ魔剣を振るう。居るはずもない後ろから斬りかかるオーガ。

 二人の打ち下ろした剣はぶつかり、力の均衡は保たれたまま刃を合わせた状態で向かい会っている。


『モードチェンジして中々のスピードとパワーだが、所詮テメェはオーガだ。エキドナの足元にも及ばねぇじゃないか。ここまでだな』

「オノレ~、キサマは何者だ?」

『我が名はメフィスト・フェレス=ルーク・アザエルだ』

「ア、アザ、アザエルだと?————」

『如何にも、我が名はアザエル。なんだ、知らなかったのか。かつて天界から地上に降り、そして魔界へ落とされたモノ。

 魔界ではメフィストと呼ばれ、Ribellion叛乱とも、呼ばれていたな』

「ムッ、ムゥ~。ア、アザエルだと……」

『テメェに構っている時間は無ぇんだよ。テメェの後ろにいるヤツに早く会いに行かねぇとな。じゃあな』


 ルークはそう呟くと鍔迫つばぜり合いの状態から力任せにオーガを押し出した。


 ルークの押された力によって、かなりの後方へ飛ばされるオーガ。


 折角パワーアップしたというのに、鍔迫り合いの状態から吹っ飛ばされるとは思いもよらなかったのだろう。転倒こそしなかったものの、歴然とした力の差をオーガは覚えた。


 ルークは離れたオーガに向かい魔剣レーヴァテインを二度振るう。


 それは交互に。

 それは交差するように。

 それは、十字架のように重なりあう炎の斬撃。


 逃げだす事もままならないオーガを、炎の十字架が襲い掛る。


「…………」


 オーガは断末魔をあげることすら叶わぬまま。炎の中に消えてしまった。






 狂戦士パーサーカーへモードチェンジしたオーガであったが、ルークの魔剣レーヴァテインの威力の前にあえなく玉砕してしまった。二人の力の差は歴然。オーガは相手の力量を読み違えた結果、無様な結果となってしまった。




 貫禄勝ちであったルークは、自らの変身を解きグレーの姿となって辺りを見渡した。魔物の気配は消え失せてしまったようだ。


『取り合えず、このフロアは制圧できたが、次のフロアにはどうやって行けばいいのか……。転移の魔法陣が何処かに有るはずだが……』


 ルークは周りを見渡すと翼を広げ、来た道を戻り始めた。


 目指すは、この場所へ飛ばされた場所の魔法陣。


 もう一つの魔法陣は、次の場所へと繋がるであろう事を祈って……。






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