11 オーガ ‐1 / ルーク

 解放された門を潜り、ルークは小山の城の様な建物の中に足を一歩踏み入れた。


 建物の中は暗闇だ。後ろを振り返ると、後ろの門の入り口からの仄かな灯りがあるだけだ。前を見る限り建物内は闇に染っている。ヌメリと纏わりつくような漆黒。人の目では決して歩こうとは思わない程の暗闇。

 しかし気にならない様にズンズンと暗闇の中を歩くルーク。やはり、堕天使や魔物には闇の濃さは関係ないのだろうか。


 やがて、目の前に灯りが見えた。地面から湧き上がるような灯りは、二つの魔法陣。紅色と藍色に輝く光は地面から天井へと淡い光を放っている。

 

『――ッチ!二択か。面倒な事を。ハズレなら、何処に飛ばされるんだ?まぁいいだろう。このクソつまんねぇ策に乗ってやるぜ』


 ルークは藍色の魔法陣の中に足を踏み入れた。瞬間にルークの身体が足元から消えていく。





 ルークは魔法陣によって転移させられた。


 違う場所で足元から徐々に姿が現れる。頭まで姿が完全に現れると、ルークは両手を広げ伸びをする。


『フンッ!、何処へ飛ばしたんだ?ってか、又しても暗闇か?さっきよりはマシな場所みたいだが、ここはどこだ……?』


 ルークの転移させられた場所は薄暗い。それでも転移前とは違い、仄かな灯りがある。

 壁に点在する松明たいまつのような灯りが頭上から足元を照らしている。

 その灯りが誘導灯のようにも見えてくる。


『ふん、何考えてんだか?』


 ルークは、松明の灯りの誘いにのって歩いて行く。何が待ち受けているのだろう。


 不満を呟きながらルークは彷徨っていた。



 



 ルークは薄暗い闇の中を歩いていると、またしても又二つの魔法陣が見えた。


『っち、又か?また二択か?面倒だ。どっちでも良いんだが、右にするか』


 ルークは地面に浮かび上がる二つの魔法陣の内、右手を選ぶ。


 選んだ魔法陣から転移させられた場所は、天井が高く広い広場だった。辺りを見渡すと、外からの明かりがこちらを照らす。大きな解放された窓の様な空間が有り、この建造物の中に外からの光が入ってくる。光の入る方へ行くと、テラスの様な広場だ。その場所から外が見えた。外には鳥居のような門が見え、その゙門からゴブリン達が湧き出ているのが見えた。


 このフロアは何やら騒がしい。ルークは己の羽根を一本抜き獲ると、紫電の剣に変えてそのまま騒ぎの元へと歩みよる。


 騒ぎの原因は島の広場に居たゴブリン達が何かを運んでいるようだ。

 見ると、ルークを襲った巨大な矢だ。自衛隊のヘリを襲った3mの矢だ。それを10人ほどの小さなゴブリン達が運んでいる。


 運び先は巨大なバリスタ。その大型弩砲バリスタの元には巨人が待ち構えていた。巨人は10m級のサイクロプス。この城から飛び降りて来たサイクロプスだ。あの3mの巨大な矢を放つのは巨人でなければ撃てない。10mのサイクロプスなら当然矢を放つことが出来るであろう。


『ん⁉ 何だ?バリスタが5台か、そうか先程の矢は此処からサイクロプスが撃ってきたのか? なるほど、サイクロプス1体がここから下に飛び降りてきたから、残りのサイクロプスは後、4体居るのか。っん⁉』


 バリスタの方に歩み寄るルークに向かって何かがルークの後ろから襲いかかる。


 後ろ姿のルークの右肩から袈裟懸けに斜めに斬撃が走る。


 しかし、ルークは気配を感じたのか後ろを見ずにヒラリと躱す。


「っち!上手く躱しやがる」

『ダメだな。ダメダメだ。後ろから襲うならもう少し気配を殺さないとな。テメェは殺気がプンプン溢れているじゃないか。やはりオーガがいやがったか。ゴブリン達やサイクロプスを使って一体何がしたいんだ?』

「ふん。そんな事は、お前は知らなくていいんだ。どうせ、お前は、此処で死ぬ運命なのだからな。ファハハッ……」


 ルークを後ろから襲ったモノは片刃の巨大な剣を肩に掛けて悠然としている。その姿はまさに二本の角を持つ鬼。

 2mのルークに対し、その鬼は3m。筋骨隆々とした体つき、更には頭には二本の角が生えている。

 ファンタジー世界では、ゴブリンやオークを従え、悪の限りを尽くす存在。そいつの名は、オーガ。


「お前等、全員集合だ。まとめて掛れ!」


 オーガの一言で奥の方から足音が響く。

 4体の10m級のサイクロプスが多くのゴブリンを従えてやって来る。





【オーガ。

「オーガ」は英訳で「鬼」とされるように、二本の角と牙を持つ日本の鬼に似た姿が多い種族。多くが「オーク」よりも小柄でありながら屈強な体と強い戦闘力を持ち、知性的でありながら“血に飢えた戦闘狂”や狂戦士パーサーカーのような描かれ方がされている。北ヨーロッパ伝承の人喰い悪魔。角を持った鬼のような姿をしている】




[[[ギュウオォォォォ――!]]]


 オーガの一声で、4体のサイクロプスと多くのゴブリンが殺意を剥き出してルークの元へと集まって来た。


『面倒な奴等だ! お前等に構っている暇はねぇーんだよ。オラァ――!』


 目前からサイクロプスとゴブリン達は束になってルークへと襲い掛かる。それをルークは紫電の長剣を横に薙ぎ払った。振り切った紫電の長剣から発せられた稲妻は地面と平行に飛んで行く。稲妻は横薙ぎに魔物目掛けて走り抜ける。


「「「ウギャギャギャ…ギャ、…ギャ、ギ・・・・・・・・・」」」


 横一列になって先頭を走るゴブリン達の数十体は、ルークの放った稲妻によって黒焦げに変わり果ててしまった。


 それを間近で見ていたサイクロプス達の表情が曇る。足が止まってしまった。


 その様子を見ていたオーガが叫ぶ。


「えぇ~い、何をしている!早く掛からぬか!殺してしまえ! 」


 オーガの咆哮に似た叱責に、サイクロプス達はお互いの顔を見て頷くと、ルークへと再び襲い掛かる。自らを奮い立たせようと咆哮をあげながら、足で踏み潰すかの様な勢いだ。


「グュゥォォォォ――ン――――!」

『フン、そんな叫び声をあげても五月蠅せぇだけだ。もっとも、テメェは話せれなかったんだっけ?』


 ルークは踏み込んで来た一体のサイクロプスの左足の足首を紫電の長剣で払う。


 ――ギュイ――ン――――!


 金属の硬く弾けるような音がした。ルークの振るった剣先は、サイクロプスの足首を切断したかと思われたが、傷一つ付ける事無く剣先を弾き返した。


『クッ!そうか、忘れてたぜ。テメェは体が頑丈過ぎるほど硬かったんだな。

 ならば――。ハァ――――!』


 ルークはサイクロプスから一旦距離を取り、自分自身へ気合いを込め始めた。

 両手を前にゆっくりと突き出し、円を描くように両腕を回す。そして、両手が肩一直線に並んだ時、両手の掌を顔の前で合掌した。


 バシーン——!


 大きな音と共に、真っ白なオーラがルークを足元から頭まで包み込む。


 すると今度は、グレーな体から真っ白な体へ変化した。頭のてっぺん、髪の毛から肌の色まで真っ白に変わってしまった。体には白く薄い羽衣はごろもの様な布を羽織っている。言い換えれば、真っ白で光り輝いている程眩しい


 ルークの第三形態だ。ルークのオーラが跳ね上がる。この状態は過去に3度変化した事がある。最初はインキュバス。次にワームにゴーレム。そして、エキドナとの対戦に。時間制限が在るのだろう、長くはこの状態を維持出来ない。

 しかし、ルークの身体の変化に周りの魔物達は驚きを隠せない。


『来い、魔剣レーヴァテイン!』


 右手を掲げるルークの呼び掛けに呼応する様に、右手にいつの間にか燃え盛る魔剣が握られていた。


 ルークは背中の翼を一度羽ばたくと、サイクロプスの足元に飛んで行く。狙うは先程と同じ足首。魔剣レーヴァテインを軽く足元目掛けて振り抜いた。

 振り払われた長剣はサイクロプスの足首を容易く切断する。足首を切断された事によってサイクロプスはバランスを崩す。何が起きたのかも分からないまま、前のめりのまま、前傾姿勢で地面に向かって倒れ込む。


 サイクロプスの顔が地面に近づいてくる。ルークの魔剣の範囲内へ近づいてくる。


 その首目掛けてルークは魔剣レーヴァテインを一閃する。


「ギュァ・・・・・・ウ・・・・・・」


 サイクロプスの首が胴体と離れ地面に落ちた。



『まずは、一体。さぁ、鬼退治の始まりだ! テメェら、覚悟しな!』









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