10 鬼ノ城 

 戦いが終わったエキドナは、キメラレオンに向かって歩いて行く。


 俺達も戦闘が終わったから合流しなければいけないな。単独でいれば、新たな魔物が出て来た時に上手く対応出来ないかもしれない。


 エキドナは強い。神話に出てくる女帝とまで言われる強さを持つ。本当ならエキドナとサイクロプスとの戦いを観たかったが、そんな余裕は無かった。目の前には牛鬼がいたから俺達は必死だったのだ。


 ルークの事も気になるが、アイツは余力を持って戦っているから心配はないだろう。今はグレーの姿だが、真っ白な姿になるとオーラの圧が跳ね上がるから大丈夫だろう。


 しかしエキドナは小山の城を気にしているようだ。


「エナさん、ルークから念話かなにか、連絡はありました?」

「いや、無いのよねぇ。なにかしら、いや~な、予感しか湧かないかしら」

「じゃあさぁ、レオンに乗ってあの城に行きましょうよ。ここから歩きじゃぁ、いくら何でも無理じゃないですか?」

「そうね、じゃぁ行ってみるかしら」


 俺達はレオンに乗って小山の城へ向かおうとした瞬間、小鬼達が湧いて出る門から音がした。エキドナが土壁で封印した岩の塊からだ。


 ――ビシッ――!


「みんな、伏せて! 妾が二重に張った土壁の封印が破られる。

 Protect Earth Wall土壁のバリア――!」


 小鬼達が湧き出る漆黒の門をエキドナは土壁で結界を覆った。扉を閉じる様に二重に土壁を張ったが、どうやら漆黒の門の方が力が強いようだ。エキドナの土壁を内側からこじ開けるように、内側から外へと力が解放されていく。


 途端に漆黒の門を覆う土壁に亀裂が入るやいなや、爆音と共に辺りに土壁の岩石を撒き散らす。まさに岩石の砲弾だ。


 エキドナの張った土壁のバリアのお陰で、俺達は岩石から身を守る事ができた。

もしも、エキドナの結界が無ければ、とてもじゃないが無傷では済まされないだろう。


 エキドナの封印が破られた後から、例の鳥居の様な門から再びゴブリン達が湧き出した。


「どうやらすんなりと、ここから移動出来ないみたいかしら。あのゲートって、一体なんなのかしら? 小鬼達が涌いて出るのは鬱陶しいのだけど、あの門からの妖気は何故かしら、懐かしい様な気がするのは気の所為かしら? う~ん、どう言えばいいのかしら、一筋縄ではいかない様な気がするのよね。

 そうね、ウーツキとセイヤーはレオンに乗って一足早く小山の城に行く方がいいかしらね。残っていると巻き添えを食らうかもねぇ……。

 レオン、二人を早く!」

「「「ウオォォォォォーンー任せてー!」」」


 エキドナの声に素早く反応するレオン。コイツはエキドナに造られた合成魔獣。

 だからこそエキドナとの意思疎通が出来ている。以心伝心とはこの事だろう。


 レオンは俺と卯月の前に駆け込むと膝を折り俺達を背中に誘う。


「エナさん、俺達は一足早く城に向かいます。どうか御武運を……」

「まぁ、セイヤー、貴方誰に向かって言っているのかしらねぇ。妾は、エキドナ

かつては魔界の女帝と云われた存在なのよ。その力を目に焼き付けておくがいいかしらねぇ。とは言っても、側にいないから見えないかしら」


 エキドナは余裕の表情で俺に言った。





 俺と卯月はレオンの背中に乗り、小山の建造物に向かった。岩石を溶かして固めて無理矢理造った城のような佇まいだ。地震によって浮き上がった島の小山に人工の建物が昔から在るかのように堂々と鎮座している。違和感があるが、堂々とした佇まいに圧倒されそうだ。

 そして、城の門は大きく開け放たれている。恐らくルークもこの門から中に入ったのだろう。


 魔物の気配は無いみたいだ。俺達はレオンの背中から降りた。


「レオン、どうする? エナさんの所に行くか、それとも俺達について来るか?」

「「「ギュウオゥ――ン――勿論、エナさんの所へ!」」」


 三つの頭から答えが出る。三つの声がハモった後、レオンは俺達に背中を見せて来た道を引き返すように空を翔けた。


「そうだよな、レオンもエナさんの事が心配だよな? でも、だから【ナンクルナイサ~】って言いそうだよな」

「なんだかんだ言っても、だから大丈夫でしょ? 聖也さん、行きましょう」

「あぁ、そうだね。ここからが本番かも知れないな。気を引き締めて行こう」





 俺達は城の様な建物の麓から上を見上げた。結構な高さな建物だ。恐らく50mくらいは有るのだろう。頂上の天守閣か、地下の最奥にはラスボスがいるのだろうか。




 俺達は城のような建物の門を潜って中に入る。


 城の門の中へ一歩入ると光も無い漆黒の闇だった。床を見ると底なし沼の様に思えてしまう。入って来た門を振り返ると、そこはすでに閉ざされていて光も無かった。


「う、卯月ちゃん、て、手を繋ごうよ。この暗闇の中で逸れたら、俺は二度とここから出られない気がするよ……」

「そ、そうね。私も、こんな場所で迷子になんかなりたくないわ……」


 暗い。一歩先を歩くのも躊躇する程の暗さ。足元を掬われるかも知れない怖さと云うのは、こんな薄氷を歩くような心境だろう。

 目先が真っ暗だといっても、立ち止まっていては居られない。何も始まらないから動くしかない。


「卯月ちゃん、何か、感じるか? 敵がいる気配があるかなぁ? こんなに暗くちゃ、何処へどう行けばいいのか、分んないよ」

「大丈夫よ…聖也さん。私も、こんなに真っ暗で足元も見えないのは怖いんだけど……。どうやら変な気配は無いから、前に進むしかないかな……。

 あっ、あそこ、地面が光っているわ。何だろう? 行ってみましょう。どうやら魔法陣みたいだけど」

「そうだな、行ってみるか? 行けば分るさ、迷わず行けよ!って誰かが言ってたしな。迷ってる暇があったら、行くっきゃないか」

「じゃあ、1,2,3で、あの魔法陣に乗りましょう」

「分かったよ」

「「じゃあ、1,2,3!」」


 俺達は、真っ暗な闇の中に浮かぶ魔法陣へと合図を決めて飛び込んだ。


 二人同時に魔法陣の上に飛び乗ると、足元から光が起こり、俺達を包む様に光が立ち上がっていく。そして、その場から俺達二人の姿は消えていた。


 

 軽い浮遊感に似た感じがして、辺りが急に明るくなった。足元の魔法陣は点滅を繰り返し、そして消え失せてしまった。


 俺と卯月は辺りを見渡す。この場所は、辺りが薄暗いが周りが見える。広い通路が見え両壁に松明の様な灯りが灯っている。


 通路の両壁に有る松明の灯りを頼りに通路を歩く。まるで誘導させるかのように、あかりりのともる先を目指して歩いた。






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