9 鬼退治‐4 Vs 牛鬼-2
空振りに終わった牛鬼の隙を卯月は見逃さない。前のめり状態の牛鬼の首掛けて、薙刀で渾身の一撃を叩き込む。
「ウォリャャャア――――!」
牛鬼の首を狙った攻撃だ。牛鬼は頭の角で防御しようと反応した。卯月の攻撃は素早かったが、残念ながら卯月の薙刀は牛鬼の首へは届かず、牛鬼の左目から鼻先へと深い傷跡を残した。
聖也も続けて太刀を振るう。落とした中足の次の後ろ足へと、振り降ろした太刀を返す様に無心で振り上げる。
「ウォォオォォォォ――ン――」
左目と鼻先と左中脚と後ろ脚を切られた牛鬼は堪らず叫ぶ。
それは恐怖を覚えたモノの悲鳴。数秒までは捕食者として人を楽しんで襲っていたが、今度は襲われる側になってしまった。
かつて平安時代や鎌倉時代では、刀や弓矢さえも牛鬼の身体には傷をつける事は叶わなかったが、今回は神器によって容易く足を切断する事が出来た。
傷つけられ追い詰められた牛鬼。もはや逃げる事しかない。左前足を器用に動かしながら、身体を引きずるような恰好でズルズルと移動する。
「聖也さん、今がチャンスよ! 一気に畳みましょう!」
「解ったよ、卯月ちゃん。いくぜ!
うぉぉぉぉぉ―!」
逃げる牛鬼を追いかける聖也と卯月。その背後で地面を揺るがす程の大音量と共に地響きがした。
ズシン――!
体が揺れる程の揺れだ。音がした方を振り返って見れば、エキドナがサイクロプスと戦っていた方角だ。地面から無数の石槍が剣山のように生えていて、その石槍の餌食となったサイクロプスが屍となって横たわっている。
あぁ、そうか。エナさんがサイクロプスを空に巻き上げて地上に落としたのか。地上には見た事がある大きな石槍が幾つもあるから。なるほど、流石はエナさん。
もう、やっつけちゃったのか? って感心している場合じゃない。
もう一度視線を牛鬼に戻す。
牛鬼は先程のサイクロプスが地上に落ちた衝撃で、足が無い方向に倒れて立ち上がろうとしながら
横倒れになっているから、お腹がガラ空きだ。今がチャンスだ。もう一度、斬りつけてやる!
「とりゃあぁぁぁぁ――――!
「おりゃあぁぁぁぁ――――!」
時間差で卯月は右の後ろ脚の付け根を。聖也は起き上がれない牛鬼のお腹を。お尻の方から顔目掛けて神器を横一閃する!
卯月の薙刀の刃は、容易く牛鬼の足を切り落とす事が出来た。
「うわぁ、斬れたわ。爪と角はメッチャ硬かったけど、他は大丈夫みたい」
俺の攻撃は骨が無い箇所を狙ったから、いとも容易くお腹を切り裂く事が出来た。
神器を振り抜いた後は皮膚が裂け、内臓がズルリと出て来る。
「ウォォオォォォォ……ン……」
痛みに溜まらず悲鳴をあげる牛鬼。もはや虫の息。立ち上がって逃げようとするが、足が三本も無くなりお腹を裂かれて力が入らない。
「とどめだ! これで最後だ!
うぉりゃあぁぁぁぁ――――!」
横たわっていても必死に逃げようとする牛鬼の首を目掛け、俺は大上段から神器を振り下ろした。
神器は牛鬼の首の根元に鋭角に入り、首の骨をもろともせずに斬り抜いた。
「ウォォオォ・・・ン・・・」
胴体から首が落ちた後に、牛鬼のくぐもった悲鳴が聞こえた。
首が切断された牛鬼は、黒い
「ハァハァ、やったわね、聖也さん……」
「フゥフゥ~……。あぁ、遂にやった……。正直、俺はどうなるか、分んなかったんだよ。この草薙剣って凄い力だ。今でも信じられないよ。
でもさぁ、これで終わりじゃないんだよな。霊感零の俺でさえ、まだ何かいる気配がプンプンするもんな」
「そうね、恐らく牛鬼は前哨戦じゃないかしら。私も嫌〜な気配を感じるのよ。
ルークがあの小山のお城みたいな所に行っているから、まだ大物が複数体居るんじゃないかしら? メチャクチャ嫌な予感というか、気配はまだ漂っているわ。
それにね、この弁慶が使っていた薙刀から、まだまだ終わりじゃ無いぞ!って波動が伝わるのよね」
「あぁ、確かに……。この草薙剣からもそんな波動が流れているのがそれとなく分るよ。うぇ、牛鬼だって苦戦したのに、これ以上の魔物が居るなんて考えたくないよ。
仕方が無い。じゃあ、エナさんと合流しないといけないな」
「そうね。エナさんはもう既に
「あぁ、そうしよう」
鬼という存在。牛鬼は神器によって倒された。脅威が一つ無くなった。
聖也と卯月 Vs 牛鬼。
聖也と卯月 辛勝。
◆ ◇ ◆ ◇
「グオゥゥゥゥ――――!」
「「「ウギャギャギャギャギャーー」」」
キメラの威圧の声を聴くと
キメラは羽ばたきをしながら辺りを走り周る。それだけで小さな竜巻を発生させ、小鬼達を巻き上げてダメージを与えている。更に、それらを踏みつけながら手あたり次第、小鬼達を
このままではキリがない。小鬼達の人海戦術。やがてキメラも数の暴力に負けてしまう。
その様子を見ていたエキドナの表情が曇る。目の間には巨人サイクロプスが居るというのに、余裕すら感じている。
キメラの戦闘を有利にさせようとエキドナは、小鬼達が湧き出る漆黒の門の扉を封印しようと魔法を放つ。
門を囲む四方八方から土壁が立ち上がり、二重に門を封印して岩の塊にしてしまった。長くは持たないかも知れないが、一時的に無限に湧き出る小鬼達を抑える事が出来た。
少しでも小鬼達の数を減らしておかなければ……。
キメラであるレオンはエキドナの意思を感じ取り、門の周りにいる小鬼達へ向かってオオトカゲの顔を向けた。
オオトカゲの口が大きく開くと、口からは炎の柱が横に向かって吐き出される。まるで火炎放射器。顔の位置をズラしながら辺りにいる小鬼達に向かって情け容赦のない火炎攻撃を放つ。
数回翼を羽ばたかせると小さな竜巻も発生する。その竜巻に火が巻き込まれて、炎の竜巻となって辺りの小鬼達を一掃していく。
レオン Vs 小鬼の群れ。
◆ ◇ ◆ ◇
「こちら、アパッチ01。信じられない事が起こっています。
単眼の一本角を持つ
例の牛鬼も二人の男女によって斬り倒されました……。
小鬼の群れも、三つの頭を持つ奇妙な魔獣が、口から火炎放射の如く火を噴きながら小さな竜巻を……。
とてもじゃないが、上空から見ていても信じられません……」
アマテラスの艦長はアパッチ01らの無線を聞いて驚いた。
確かにアパッチ01から送られてくる映像は共有されていて、みんながモニターを食い入るように見ている。
日本が誇る巨大な戦艦アマテラスと多くの哨戒艦との一斉射撃や、空軍のF-15戦闘機の空爆でも耐えた牛鬼達を倒したというのだ。
信じられない……。彼等は一体何者なんだ? 味方なのか、それとも新たな脅威となりうるのか?
短距離弾道ミサイルの発射まで後もう4時間程度――。
出来ることならば、牛鬼達を倒した彼等に
誰もがモニターを観ながら、そう思っていた。
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