8 鬼退治‐3 Vs  牛鬼

「聖也さん、危ない!」


 突如、門から現れ卯月と聖也の後を追う様に現れた小鬼ゴブリン達。子供並みの身長をしているが、醜悪で薄緑の肌をしている。下半身を隠すような腰ミノを付けているだけの身なり。

 小鬼は手には武器は持っていないようだが、長い爪がナイフの様に尖り、犬歯が剝き出しで襲いかかって来る。噛みつかれたり、爪で引っ掛かれば深い傷が出来てしまう。どうやら、キメラの威圧の咆哮から逃れたモノが聖也と卯月を追っている。


 聖也の後方から現れた小鬼に向けて、卯月の薙刀は一閃する。振り抜かれた薙刀の刃先は、まるで豆腐を切るような手応えだった。小鬼の身体は二つに斬り落とされた後は霧となって消え失せる。


「聖也さん、気を付けないと……」

「あ、あぁ、卯月ちゃんありがとう……。でも、よく斬れたね……。俺なんか、躊躇してしまいそうだよ」

「何言ってんのよ聖也さん。相手は異界の魔物なのよ。この期に及んで戸惑っていたら、死んでしまうわよ。

 聖也さん、あなたは神器に選ばれた人なの。この国を鬼から救えるのは聖也さん、あなただけなの……。人型だから戸惑うのは解るけど、頑張って……」

「わ、解ったよ。情けない事いってごめん。そうだな、俺がこの草薙剣でなんとかしないと……」

「そうよ、そのとおりよ。まずは、あの牛鬼からね」


 そう言って卯月と聖也は牛鬼の前に歩み寄った。牛鬼は自らの巨体を自慢するかのように悠然と佇み、二人の様子を伺っている。


 二人を見つけた牛鬼は嬉しそうな表情を見せると、六本足を蜘蛛のように器用に動かし移動する。やがて、右の長い前足を振りかざし、二人に向かって振り下ろす。


 ――ズドン!――


 遠慮も戸惑いの無い牛鬼の攻撃を躱し、卯月と聖也は二手に別れて左右に飛んだ。

 空振りに終わった一本爪は地面に深々と突き刺さっている。


 両前足が地面に突き刺さっている場面を見たら好機!と思うだろう。聖也もそう思い神器を振りかざし牛鬼に飛び掛かろうとした。


「聖也さんダメよ! アレは誘い。罠よ! わざと動けないフリをしているの」


 卯月の静止の声に聖也は踏み込みを留めた。

 すると、牛鬼はゆっくりと地面から右足を引き抜く。そして二人を凝視する口元がニヤリと笑う様に口角が上がる。


「うぇっ、マジか! ありがとう卯月ちゃん。でも、あの時に踏み込んだら、どうなってたの?」

「そりぁもう、牛鬼の顔が突っ込んで来て、頭をカジられていたかもよ」

「マジか! で、どうすりぁ良いんだよ?」

「大丈夫よ。聖也さんは空手の有段者でしょ。相手の隙を見て、ここは左右に別れて時間差で攻撃しましょう。

 私達は鬼を斬る武器を持っているから、一撃とはいかないまでも、ダメージを与える事は出来る。 

 聖也さん……。私達、生きて、この国を救いましょう……」

「あぁ、そうだよなぁ。こんな所でクタバッてたまるか!って〜の〜!」


 聖也が喋り終わらない内に、牛鬼は再び長い一本爪を振りかざす。

 今度は縦方向じゃなくて、横に薙ぎ払う様に左右同時の爪を二人同時に向けて襲い掛かる。

 咄嗟に屈み、牛鬼の横薙ぎの攻撃を頭上ですり抜ける。ヒューン、と風切り音が頭を霞める。聖也は躱す事が出来たが、卯月は薙刀で爪の攻撃をいなした。


 ギュイーン――。


 牛鬼の爪先と卯月の薙刀の刃先が合わさると、耳に着く金属音の様な音が響く。


「うわぁ、天目一箇神様が打ち直してくれたから、絶対斬れると思ってたら、斬れないじゃないのー。どうなってるの? もしかして、鬼だから神器でなきゃ、断罪出来ないの? それとも爪だけが異常に硬すぎるのかも?」


 卯月がフェイントをかけて薙刀を幾度か振りかざすが、ことごとく牛鬼の長い一本爪に弾かれてしまう。


「くぅ~巨体なのに、六本足は蜘蛛みたいに器用に動き回って、攻撃がやりずらいわ。やはり左右同時に攻撃をしないとダメみたいね」


 牛鬼単体ならばいいけれど、妖しい門から小鬼が次から次へと湧いて出てくる。

 キメラレオンが対応していてくれるが、それでもその隙を逃れているヤツラも多数いるのだ。

 周りの気配を感じながらも、目の前の強敵をどうにかしないといけない……。


 焦る二人だったが、未だ決定打は出せない状況だ。


 卯月は後ろから迫る小鬼をひらりと避けると、小鬼は牛鬼の足元に転がり込んだ。

 すると牛鬼は警戒したのか、そのまま腹ばいに伏せる。巨大な体が上から小鬼を押しつぶす。


「グゲゴ……」


「うわっ、迂闊に腹に踏み込んで斬ろうとしたら、腹で押しつぶされるのかよ。

 くっそ~どうしたら?」

「だ、大丈夫よ、聖也さん。わ、私が囮になるから、聖也さんは牛鬼の爪の上の足を狙って斬って……」

「そうは、言ってもな……」

「大丈夫、私を信じて聖也さん。それと、自分を信じて!」

「分ったよ、卯月ちゃん」

「じゃ、私が踏み込んだら、聖也さんは真ん中の足を狙ってみて。

 大丈夫! 出来る。出来る。必ず出来る。いや、やらなくちゃいけないのよ。

 オリャァア―――!」


 卯月の気合が合図となって、卯月は牛鬼の前に躍り出た。

 薙刀を大きく振りかぶり牛鬼の首元を狙う。薙刀が牛鬼の首に吸い込めれていく。


 とったか?


 卯月の薙刀が牛鬼の首に届くと思われたが、咄嗟に牛鬼は体を低くして薙刀に自分の角を合わせに来た。


 ギュイーン――――。


 左右のどちらかの爪で防御すると思っていたが、まさかの角を使って防御する事に卯月は驚いた。頭の角は爪同様に硬い。いくら弁慶の使っていた薙刀を天目一箇神が打ち直したと言えど、斬れないモノはやはり有る。


 動揺する卯月に対して、牛鬼の凶悪な顔に笑みが浮かぶ。


 卯月の態勢が崩れると、それを狙っていたかの様に牛鬼の右前足が上段から。そして左前足が横から卯月を襲う。


「せ、セイヤさ――ん。今よ! 今が、チャンスよ」


 卯月が作ってくれたチャンス。この機会を逃すとニ度目はないかも知れない。


 聖也は神器を握り直し、牛鬼の側面に移動して一気に斬りかかる。


 狙いは牛鬼の右の中足の爪の上。


 俺は草薙剣を上段から振りかぶり、牛鬼の足を狙い太刀を一閃する。



「おりゃあぁぁぁぁ――――!」


 ズシャ――。


 太刀を振り抜いた後から軽い音がした。


 聖也は牛鬼の爪とは太刀を合わせていないから分からないが、爪の上は硬くなかった。豆腐を切ったような感触だった。


 牛鬼の足元には関節の下の爪らしき長い足が一本転がっている。切られた切断面からは人間の様に赤い血が噴き出したりはしない。ドロリと、大量の赤い液体が静かに流れだす。


 すると、卯月を前足の両方で攻撃しようとしていた牛鬼はバランスを崩した。踏ん張っていた中足と後ろ足の四本の内、一本が切断された事で態勢が前にズレてしまう。

 当然ながら、卯月に対する攻撃も空振りとなってしまった。


 空振りに終わった牛鬼の隙を卯月は見逃さない。前のめり状態の牛鬼の首を目掛けて、薙刀で渾身の一撃を叩き込む。この時を逃したら、次は無い。


「ウォリャャャア――――!」

 






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