5 鬼ヶ島

 日本の誇る三機のF-15 の空爆によって出来た白煙が、海風によって次第に晴れていく。


 やがて、島の現状が認識出来る状況になった。

 

 空爆によって地表は以前と比べると大きく荒れ果ててしまった。大きなクレーターが幾つもある。

 しかし、突然現れた漆黒の巨大なゲートは平然と佇んでいた。


 ――何故だ? 地上の生き物は殲滅したのにゲートは破壊出来ないとは? 


 イーグル1のパイロットは空爆の後の状態に驚きの表情を浮かべ、本部へ報告した。


「こちらイーグル1、作戦は失敗。繰り返す。作戦は失敗。これより帰還します」

「了解した。イーグル1。ご苦労、帰還せよ」

「了解。これより帰還します」


 作戦本部で待機していた岸和田長官の顔が曇る。


 ……何て事だ。新型タイプのミサイルでもダメだったのか。と、なるともはや打つ手は、短距離弾道ミサイル1キロトンの爆薬ミサイルと、原子力潜水艦スサノオの大型魚雷の同時攻撃しかないのか?







 同時に空から監視していたアパッチ01も同様だ。どう報告すればいいか迷っている内に、アマテラスより無線が入る。


「こちらアマテラス。アパッチ01応答せよ!」

「こ、こちらアパッチ01」

「こちらアマテラス。空から島の映像を送ってくれ。こちらからは状況が解らない」

「了解。すぐ映像を切り替えて送ります」






 ◆ ◇ ◆ ◇





 キメラに乗って戦闘機の空爆の様子を見ていた俺達だったが、どうやら空爆は失敗に終わったようだ。島は半壊どころか平野部のみの破壊となったようだ。


『どうやら期待外れだったようだな。聖也、俺様のシッポを出せ』

「あぁ、ほら……」


 宙に浮かんでいるルークに言われるまま、ズボンのポケットからシッポを出し、ルークへと返す。


 シッポはルークに吸い込まれる様に元に戻る。そして、ルークの身体は変化する。


 ズングリムックリの姿から人型へ。体の色はグレーで背中の翼の色は真っ黒だ。

 これはルークの第2形態だ。次は体の色が真っ白になる。更には翼が増える。


 最初は様子見なのだろう。奥に潜んで居るかも知れない魔物がいるのだ。しかもインキュバスによって召喚された魔物。強さはエキドナ並みかも知れない。大丈夫か。



 空爆によって荒れ果てた地表には、その場所には似合わない巨大なゲートが佇んでいる。そして、その門が再び開くと小鬼が再び後から湧いて出て来た。


 どう見ても、あのゲートは意味不明だ。横から見ても平面でしかない。しかしだ。奥行きが有るかの様に小鬼が出てくる。正面に開いた観音開きの門の奥には、異界へと繋がっているのかも知れない。





「なによ~。下には小鬼がワラワラ沸いていて邪魔くさいかしらね~。面倒だから、一気に行くかしら。行くわよ~~。Landspout吹き上げろ!――!」


 キメラに乗ったままエキドナは呪文を呟くと、扇を広げて立て続けに扇を三度振り回す。すると地上に兇悪な竜巻が発生する。その竜巻は、地上にいた小鬼を空へと舞い上げる。そして無慈悲な力で地上へと叩きつけた。


「「「ギョ、ギョエ――」」」


 情け容赦のないエキドナの攻撃は、多くの小鬼を蹂躙していく。

 地面には屍と化した小鬼が肉片をぶちまけている。絵的には、なんとも生臭い。

 やがて、死んでしまった小鬼の体から霧の様な靄が出てきて、跡形も無く消えてしまった。


 キメラに乗って上空から島の現状を見ると何とも言い難い嫌悪感が襲う。






 島の中央に有る不似合いな大きなゲートから、又しても小鬼が沸いて出てくる。


『どうやら、あのゲートを破壊しないとダメなのか? 人間の兵器でダメなら、ならば!』


 ルークはそう呟くと、又自らの翼の羽根を1本抜いた。


『ハァ――。ウッ——!』


 抜いた自らの羽根に再び念を込める。すると、ルークの羽根が変化する。弓だ。今度は羽根が大きな青白い弓に具現化している。


 左手にその弓を持ち、門に向け構えた。ルークはキリキリと弓の玄を後ろに引っ張る。弓は大きく悲鳴をあげながら湾曲していく。すると玄と弓の間に矢が具現化した。青白い矢だ。以前に対ワーム戦で見せた紫電を発している弓矢。


 ビシュ――――!


 やがてルークの手から解放された矢が飛んで行く。空気を切り裂き、紫電を纏った矢が漆黒の門に向かって一直線に。


 ズゴ――ン――!


 門に当たったルークの紫電の矢は、爆音だけ残して消えてしまった。門は何も無かったかのように佇んでいる。


 やがて門は再び開くと、例の小鬼達が涌いて出てくる。


『どうやら、外側からダメなら内側からどうにかしないとダメなのか?』


 ルークはそう言い己の翼を一度羽ばたくと、島の巨大なゲートへと急降下した。



 かたや破壊されたホバーの辺り、生存者がいた付近では、牛鬼が一体だけ彷徨さまよっている。







 彷徨っている牛鬼を無視して、ゲートの前に降りるとルークは島の山に佇む建造物へと視線をずらす。何か気配を感じたのか。ルークが見上げると建造物から何かが動く。


「ギウオオォォォォォオーーンーー」


 島の中央の山頂にある、城の様な建造物から雄叫びが聞こえた。


 城の方から何かが外に飛び出して来た。それは山頂から飛び出すと、門の近くに佇むルークがいる平原に向かって飛び降りて来た。


 その姿は、地上に近づくと姿が露わになる。


 ――ズシン――!


 地響きを辺りに響かせるとソレは天に向かって再び吠えた。


「ギュウオオォォォォォ――ン――」


 10mを超す巨体を現したのは、頭に一本角を生やした単眼の魔物だった。

 その名をファンタジー世界ではサイクロプスと呼んだ。


「ギュウオオォォォォォ――ン――」


 もう一度天に向かって咆哮する。空気がピリピリするような咆哮が辺りに響く。


 海上にいて待機する戦艦の乗務員達の鼓膜を脅かす程のレベルだ。威圧、恐怖、絶望を強制的にさせるような圧倒的な聴覚レベルだ。

 巨大な体躯を持ち、一本角を生やした単眼の生物を見れば、視覚によってその認識を改めさせられてしまう。



【サイクロプス。

 ギリシャ神話に登場する単眼の一本角を持つ鬼の巨人。性格は粗野で乱暴な人食いの怪物】








「こ、こち、こちらアパッチ01……。例の島は異常事態になっています。先程のF-15 戦闘機の空爆によって生存者の確認は出来ません。恐らく……。全員戦死したかと。

 そ、それよりも、空爆によって大量の小鬼ゴブリン達は一旦、居なくなったのですが……。数分後から、あの門から幾らでも湧いて出てきます……。


 そ、それと、急にどこからか現れたのか翼を持つグレーの人型が確認出来ました。


 その近くに、宙に浮くライオンに翼が生えた奇妙な生き物の背中に、人らしきモノが三名座っています。


 あっ、今、その三名を乗せた生き物が島へと降りて行きました。

 そ、それだけでは有りません。島の小山の建造物から巨大な鬼が……。

 海からも奇妙な姿をした牛のような姿の鬼が……」




 F-15 戦闘機の最新のミサイルの空爆でもダメだったのか……。後は、短距離弾道ミサイルと原子力潜水艦スサノオの大型魚雷の同時攻撃しか無いのか?

 もはや、その最後の一手しか残されていないのか?

 

 戦艦アマテラスの艦長大森は、指令室の大型モニターを観ながら呟いた。


「な、なんて、事だ……。全艦、距離を取って警戒態勢のレベルを上げろ。戦闘機の空爆でも事態は好転しなかった。後は弾道ミサイルと大型魚雷の同時攻撃しかない。私達は、この未曽有の事態を最後まで見届ける必要がある。日本の未来を……」

 

 諦めの眼差しは船内の大型モニターから目が離せないでいた。


 島の門からは無数の小鬼ゴブリン達。

 海からは身体が牛で顔が鬼の牛鬼ウシオニ

 島には一本角を生やし単眼の巨人な鬼サイクロプス


 そして、空から舞い降りて来た新たなUnknown未知の生物達は敵なのか、味方なのか?

 

 凶悪な魔物達の供宴凶演が始まろうとしていた――。   








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