4 牛鬼再び
ウソ泣きをしているエロガッパを
時折、エロガッパは俺の方を見ながら、エキドナのたわわに実った胸に顔を埋めながらしたり顔をするので羨ましいから腹が立って仕方が無い。
チックショー! この野郎めぇ~! オノレ~!
「エナさん、そんな奴放っておいて早くキメラを呼んで下さい。早く島に行ってどうにかしないと……」
「そうね、そうするかしらね」
――シャン――。
エキドナが例の鈴を鳴らすと、数分後にはキメラが空から舞い降りた。
そういえば、家事精霊や精霊犬には名前を付けたが、このキメラには名前が無い。
どうせ付き合いも長くなるのだから、名前を付けたらどうかな? キメラに乗る前に俺は考えながらエナさんに言った。
「エナさん、このキメラの名前を付けてもいいですか?」
「そうねぇ、名前がないと呼びにくいかしら。よくってよ。素敵な名前を付けてあげてね」
「んじゃぁ、真ん中の獅子の頭が勇ましいから、【レオン】ってどう?」
「うぇ、卯月ちゃん速攻だね。俺が考える暇すら与えてくれないなんて」
「だって、聖也さんに任せてたら、変な名前が付きそうじゃない。精霊犬もクーシ―がルーシーよ。ヒーハーじゃなくって良かったけど、それでも安直すぎるわよ。レオンでどうよ?」
卯月は真ん中の獅子の頭を撫でながらキメラに問いかける。
「「「
キメラは咆哮をあげた。名前を貰った事で体中の色がベージュの色から真っ白に変わる。まるで聖獣のような雰囲気だ。顔の表情を見ると嬉しそうだ。シッポの蛇までユラユラじゃなくてビュンビュン揺れている。おい、根本が千切れそうだぞ。
「いい名前をもらって良かったわねぇ~。あなたも名前をもらってランクアップ出来たようね。さぁ、行くかしら」
こうして俺は神器:草薙剣を。卯月は薙刀を手に入れ、例の島へと向かった。
何度もキメラの背中に乗って移動していると結構慣れる。最初はスピードに耐えられず気絶もしたけれど、今回は余裕をもって上空から下の景色を楽しめている。
一本ダタラの鍛冶場である和歌山から海を臨む。海を挟んで四国や淡路島が見える。あの淡路島に向かって移動する怪しい島。聞けば島の直径が10㎞はあるというじゃないか。確実に脅威となるだろう。もはや動く爆弾だ。
キメラの空を翔けるスピードは速い。
やがて、例の島とその周りを取り囲むようにしている戦艦が見えた。
徐々に高度を下げていくキメラの遥か上空を何かが爆音をあげて翔け抜けて行く。
「うゎ――! 何だ?」
見上げてみると、音の正体は三機の戦闘機だった。 三角形の陣形を取りながら例の島へ向かって行く。どうやら弾道ミサイルの前に戦闘機で空爆を起こすのだろう。あらゆる可能性を試し、確実に不安分子をつぶしておく作戦だろう。
『エキドナよ、島の手前で止まれ。上陸の前に少し様子を見ようじゃないか』
「そうね、何が出てくるか楽しみかしらねぇ」
◇ ◆ ◇ ◆
「オォォォォォオ――――ン」
雄叫びをあげながら、海から牛鬼が姿を現す。場所は例のホバークラフトが乗り上げた入り江。陸に上がる穏やかな場所に、更なる恐怖が襲う。
哨戒艦を襲った時に、確かに牛鬼は60㎜砲弾を多量に受けたはずなのに、どうやら無事だったようだ。何も無かったかのように、島の生き残りの自衛隊隊員達に襲い掛かる。
時間軸的に言えば、島を取り巻く戦艦が島の中央の建造物目掛けて一斉射撃を行った後の事。
白煙が晴れて、島の全貌が明らかになった後、島に漆黒の門が現れ小鬼が出て来た時間帯だった。
島から大量に小鬼が溢れかえる状況の中、海へと逃げ出す者達もいる。例え海に巨大な鬼が居ろうとも、逃げ出す事を躊躇しては居られない。島にいてはムザムザ小鬼の襲撃を躱す事はもはや皆無かも知れない。それだけの相当数の、数の暴力が島の中心から外へ押し寄せてくる。
今なら残りのホバーに乗ってこの島から逃げ出せば助かるかも知れない。生き残りの自衛隊隊員達は、我先へとホバーへと向かう。
それをあざ笑うかのように、海から牛鬼が島へと向かって来た。入り江は穏やかな場所だから、海から島へは上がり易い。牛鬼は島に残された二機のホバーと、救援に来て上陸した新たなホバーを目にすると、自分の長い足を身近なホバーへと打ち下ろす。
ズド――ン!
牛鬼の爪先は鋭利な一本爪。易々とホバーを串刺しにする。
残りのホバーを串刺しにすると満足げに口元を釣り上げて、陸に上がっていく。
逃げ場を失った隊員達は佇むしかない。島の広場の中央の門からは小鬼が涌いて出てくる。海からは巨大な牛の鬼が迫る。隊員達の絶望の声が重火器類の爆音と共に島に響く。
あの牛鬼という奇妙な生き物は哨戒艦を襲った時に、機関砲で仕留めたはずじゃなかったのか? ヤツは無敵なのか? それとも複数体いるのか?
緊迫した状況の中、アマテラスに無線が入る。
「こちらイーグル1。アマテラス応答せよ」
「こちらアマテラス、イーグル1とは?」
「こちらは航空自衛隊F-15の一機だ。防衛庁の岸和田長官から指示を受けた。此方からは三機そちらに向かっている。作戦通り各ミサイルを二発づつ搭載している。凡そ10分程度で其方に到着する模様。これより空爆を行うので付近の海上の艦隊は避難されたし」
横須賀基地から室戸岬沖の例の島まで、凡そ600㎞ある。F-15戦闘機のスピードを考慮すると20分も掛からない。
そんなに早く着くモノなのか。もしも、空爆が成功したら、津波の余波を受けるかもしれない。艦長大森の顔が一瞬安堵の顔になる。
しかし、未だ生存者がいる。どうしたらいいか、迷っている。
「了解した。しかし、島には未だ生存者がいる……」
「今更そんな事を言っても仕方が無いでしょう。今回の任務は犠牲は付き物。日本の多くの住民を巻き込むよりも、ここは少数の犠牲で済ませるべき。
岸和田長官よりそう指示が出ています。こちらは、島に到着するやいなや攻撃を開始します。
もう、後戻りは出来ません」
「わ、解った……。諸君らの健闘を祈る」
「こちらイーグル1。了解した」
「全艦に告ぐ。すぐさま島から距離を取れ。もうすぐF‐15が此方にやってくる。空爆の余波を受けないように島から距離を取れ!」
「「了解!」」
やがて無線を終えてから、ものの数分後、戦闘機が姿を見せた。
「こちらイーグル1。もうすぐ目標地点に到着する。座標を確認後、空爆を行う。
こちらとしては、もはや後戻りは出来ない。速やかに付近から退避されたし。
尚、目標地点到着予定は一分後。もう既に、座標は確認している」
「り、了解した。此方は既に距離は取っている。計画の成功を祈る」
「こちらイーグル1。高度を下げ、座標を確認。ターゲット・ロックオン。新型ドリルタイプ・ミサイル発射!
イーグル2と3はこのまま発射せず旋回後、高度を保ち各機は通常爆撃タイプを発射せよ!」
「「了解!」」
「「発射!」」
日本の誇る戦闘機F-15が新型ミサイルを島に向けて発射した。
白煙を上げて時間差で島に襲い掛かるそれぞれの六発の凶悪なミサイル。島に着弾すると時間差で遅れて豪快な爆発音をあげながら島の地表を破壊する。
島に残っている仲間の隊員達が、島の奇妙な巨大な門から出てくる無数の小鬼と、海から襲いかかる牛鬼という鬼によって惨殺されようとしている。
このまま死ぬのなら、いっそ苦しまないで一瞬で死ぬほうが……。
誰もが、このこの無残な光景を見ながらそう思った。
賽は投げられたのだ――。
やったか⁉ 誰もがそう思った。少なくとも島を破壊するまでとはいかないではあろうが、小鬼達や牛鬼に多くのダメージを与えたと思っていた。
ミサイルの白煙が風によって流され、島の風貌が現れる――。
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