3 卯月の薙刀 / 聖也

 キメラに乗って例の滝の前に降りると、エロガッパで屁のカッパが居た。


「お~い、又お土産を持って来たケロか~? 早くクレヨン~」

「何で一々お前に土産が要るんだ。こっちは急いでいるんだよ。又今度来る時は、いっぱい持って来てやるから今回は我慢しろよな。で、一本ダタラは何処?」

「がっかりだけど、解ったケロよ。一本ダタラは、そこで冷えたスイカ食ってるケロヨン~」

「ありゃ、本当だ。って事は、卯月ちゃんの薙刀の打ち直しは終わった。って事だよな」

「あ~ぁ、お前等が此処を去って、すぐに一本ダタラは出て来たピョンよ」

「あらまぁ~、そんなに早かったの?」


 俺達は冷えたスイカを食べている一本ダタラの側に行った。美味そうにスイカを食っている一本ダタラ。確かに鍛冶は暑いから水分補給をするにはスイカは良いのかも知れない。


「いっぽん、あっ、違う。天目一箇神様。私の薙刀は無事に打ち直しが終わりましたか?」

「おぉ、心配するでない。神器の後の仕事としては、簡単に終わってしまったズラ。薙刀自身の刀身の大きさと、柄の長さも一回り小さくして、お主に合うようにしておるぞ。

 刃先も研ぎ終わり、結構な切れ味になっておる。草薙剣同様とまではいかぬが、かなりの切れ味になっておるズラよ。その樹を試し切りにしたらええズラよ」

「ありがとうございます、天目一箇神様。じゃあ、やってみますね」


 卯月は天目一箇神から薙刀を受け取ると、まるで使い慣れたかの様に、自由自在にブンブン振り回す。


「何だか、ず~っと前から使っているような気がする。柄も手に馴染むし、何だろ?不思議な感覚だわ。じゃあ、試し切りしてみるわね。いくわよ~。

 おりゃあぁぁぁぁ――――!」


 卯月は樹に向かって気合一閃。刃渡りが薙刀という形状な為、あまり大きな樹は切れない。人の胴回り程の樹に向かって薙刀を振り下ろす。


 シュ――――! 

 

 静かな音が微かにした瞬間、樹が崩れ落ちるのかと思いきや、何も変化が無い。


 あれれっ? 手応えはあったんだけどな? 空振りの三振だったのかなぁ?


 卯月が困惑していると天目一箇神が側にやって来た。


「おぉ~お主の武力は凄まじいモノよの~。幾らオデが打ち直した業物だと言えど、これは賛辞を送らねばのぅ~」

「――エッ?どういう事ですか?」

「こ――いう事ズラよ。ふぅ~~」


 天目一箇神は卯月が切り降ろした樹に息を吹きかけると、その樹が斜めに滑り落ちた。


「おぉ~……。す、凄い!」

「ウーツキ、やるかしらね」

『これ程とは、伊達に鍛冶神と名乗って無かったようだな』

「ありがとうございます~天目一箇神様。これって、凄い~。凄すぎます~」

「いんや~。業物はオデが打ち直したんで、これぐらいは当たり前ズラよ。こんで、お主も身の周りを固めるがエエだよ。しかし、幾ら武器が優れていようとも慢心するでなかれよ。コデはあくまでも、武器でしか無い故にな」

「はい。肝に銘じます。ありがとうございます」


 卯月にお礼を言われて天目一箇神も満更ではないようだ。単眼で一本足の妖の姿ではなく、人型の形を保っている。度重なる鍛冶に満足したのだろう。


 大仕事をしたのが解るような疲労が天目一箇神から伺える。満足感は確かに伝わって来るのだが、何やら違和感がある。


 どうした? おい、体が透けていくぞ。大丈夫なのか?


「天目一箇神様、身体が……。大丈夫ですか?」

「おぉ、これか……。どうやら、オデの使命が尽きたのであるのだろう。

 オデは、嫉妬心から己を呪い天津神から零落してしまったハグレモノ……。

 長きを生きて、ようやく生きる為の意義が此処に有ったのだと気づいたのは、お主等の御蔭。感謝だ。だた感謝に尽きる。この姿に戻り、最後に鍛冶を行えたのは、もはや本望ズラよ。えにしよのぅ~。

 最後に神器と人の最高傑作と呼べる業物まで打ち直しが出来た。もう、オデも思い残す事は無くなったズラよ…………。

 これはオデの、最終の最高傑作かもしれん…………。

 其方達に、感謝…………」


 感謝の言葉を述べながら、天目一箇神の姿は霧の様に薄くなって行く。

 消える。と思っていたら姿がハッキリしはじめる。元に戻っている。


 いや、消えないんかい? 戻るんかい?


 「あぁ、そう言えば、ただもう一つだけ、心残りがあるのだが……。

 過去に零落した時に自棄になって打ち直した『村雨ムラサメ』という太刀を見かけたら問答無用に刀身をへし折って下され……。あれは、邪気の塊……。どうか、破壊を……」


 そう言いながら、天目一箇神の姿は段々と身体が薄くなっていき、そして霧の様に消えてしまった。


 やっぱり、消えてしまった。消えるんかい!


「天目一箇神さま~。ありがとうございます……」

「一本ダタラよ~、なんでオラより先に逝っちまったケロ~。オラは又独りぼっちになったピョン~。うぇ~ん~~」

「大丈夫かしら~。ヨシヨシ、泣くのを止めるかしら」


 泣く三平河童を優しくなだめるエキドナに、事もあろうかエロガッパはエキドナのたわわに実った胸にダイブした。そして俺に向かってシタリ顏をする。


 いやぁ~。これはアカンでしょ。いくら何でもエロガッパさんや、お前さん首と胴がオサラバするんじゃないかケロよ?


「うぇ~ん~~」

「おぉ~、ヨシヨシ」


 くぅ~、その手が有ったのか! 俺もいつかその手を使ってやるぜ。でも、一か八かだな。下手をすれば首と胴がオサラバするかもしれないから、ブルルッ……。


 やはり止めておこう……。くそぅ~エロガッパめ~~! やるな!








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