鬼退治の章

1 原子力潜水艦スサノオ

 島を攻撃した後、暫くすると海風も吹き、白煙が消えた。


 生き残った最後の一機のアパッチの上空から見た映像と、本艦に装備してあるデジタル望遠鏡からの映像が、大型モニターに映し出される。それを見て皆が息を飲む。


 鳥居に似た漆黒の大きなゲートがユックリと開くと、攻撃前に見た小鬼が門からワラワラと湧き始める。


 その様子を見ていた全ての乗務員達の表情は曇る。言葉も、溜息さえも出ない。


 もはや残された手立てはないのか……。


 絶望の未来が脳裏をよぎる。









「こちら、原子力潜水艦スサノオ艦長・大文字だ。戦艦アマテラス応答せよ! 繰り返す。こちら原子力潜水艦スサノオ、アマテラス応答せよ!」


 意外な無線からの呼び掛けが艦内の重い沈黙を破る。一瞬返答に戸惑ってしまった。日本の原子力潜水艦は公表されていない。秘密裏に開発、そして密かに実験的に航海中なのだから。能力は今までの潜水艦の予想を遥かに超えた複合技を持っている。潜水深度も今まで以上に長時間海中を潜る事も出来る。隠蔽機能もステルス並だ。現状のソナーに探査される事も無く、静かに確実に相手の側に気付かれる事無く忍び寄る事も可能だ。


 攻撃能力も高い。日本の戦艦や潜水艇ですら装備出来ない大型の魚雷も装備出来る。もはや、戦争を想定した潜水艦。日本の軍事力は、もはや世界に引けを取らない所まで来ている。


 懐刀と言える禁断の原子力潜水艦。その艦長からの無線がアマテラスへ届いた。


「こちらアマテラス、何故にスサノオが?」

「こちらスサノオ。数時間前に、防衛庁長官から指令が届いた。

 現在、横須賀基地に一旦停泊中で武器食料と艦のメンテナンスを行い、そちらに合流する。

 尚、そちらの状況は防衛庁からの今までの映像とデータを加味し、魚雷は島を破壊出来る大型のモノを用意する。尚、横須賀基地からは別動隊で短距離弾道ミサイルを発射する予定だ。島の爆破の余波を考慮して各艦被害を出さぬように距離を取り、監視されたし。

 こちらスサノオが攻撃目標地点に到着した時点で、何が有ろうとも魚雷の発射を行う。

 島の移動速度とこちらの移動速度。日本の津波の最低被害状況を考慮しつつ、並びに弾道ミサイルの準備と着弾位置を逆算すると、今から24時間後の8月15日、フタマル・マルマル20時00分を決行とする。尚、スサノオが目標の座標に到達する前に事前に連絡を入れる予定だ。 

 そちらも、今回の異常事態に困惑されているが、監視のより一層の強化を図られよ。以上、何か質問は有るか?」


 なんて事だ。秘密裏に開発されていた日本の原子力潜水艦が公の場に出てしまうとは。

 このスサノオが公表されれば、海外の政府に対する政治的な駆け引きも出来なくなるだろう。

 いや、そんな事はどうでもいい。


 アマテラスの持つ魚雷よりも破壊力のある大型魚雷を搭載するスサノオは、海軍の筆頭花形だ。もはや出し惜しみしている暇はないのだろう。日本の危機が迫っているのだ。


 アマテラス艦長の大森は改めて事態の深刻さを理解した。



「こちらアマテラス了解した。島はもとより、その島に巣食う怪物も異常な為、十分過ぎる程の装備をして参戦せよ。こちらも異常が有れば連絡する。次回の連絡まで此方は緊急事態の状態で全力を尽くして監視防衛する。又、連絡を請う。以上だ」

「こちらスサノオ了解した。横須賀基地を出港した時点で改めて連絡する。予定はあくまでも予定だが、24時間後の8月15日フタマル・マルマル20時00分。此方としては全力で急ぎ其方に行く予定だ。では、又……」

「こちらアマテラス了解した。異常があれば報告する」


 なんて事だ。ついに原子力潜水艦まで来てしまったのか?


 全てを諦め、大森は防衛庁の岸和田に直電を入れた。



「こ、こちら戦艦アマテラスの大森です。例の島は……。私達の常識は通用しません。未曽有の危機を持っています。

 既に此方からの行動や映像は全て確認済みだと思うのですが……。中距離弾道ミサイルの前に、航空自衛隊からの空爆を提案します」

「例の島の状況は此方でも共有しているから、君の言わんとするとは解っている。

 解った。F-15を三機スクランブル発進させよう。ミサイルは広範囲爆撃タイプと、新型タイプを装備させよう。丁度、開発チームからドリル侵攻型で地中にめり込む新型が開発されたそうだ。もしも、新型が巧く行けば島の進行速度も遅らせる事が出来るかも知れない。

 大森君、君は現場に留まり状況が変化したら報告を頼む。それと、原子力潜水艦スサノオを其方へ向ける事にした。スサノオの魚雷の準備が出来次第、中距離弾道ミサイルを発射する予定だ。本来なら警告地点より早く島の壊滅をしたかったのだが……。君も覚悟を決めたようだな。」

「スサオノから只今連絡が有りました。解りました、長官。引き続き警戒にあたります」

「そうか、スサノオから連絡が来たか。ならば、想像も出来るであろう。事態は急速に動いている。大江戸総理も心配されている。今回の出来度は未曽有の脅威を秘めているからな。早急に事態を収束したい処だが……。確かに、未知の生物がいるあの島は、予断は許さない。しかし、我が国は核を保有していない。いや、もし核を持っていようとも、日本近海に核爆弾を落とす訳にはいかない。広島や長崎の過去の惨劇を思い出すと、二度と起こしてはいけない。

 我々に出来る手段は、中距離弾道ミサイルに大型一キロトンの弾薬を詰め、スサノオからの大型魚雷との連携かつ同時攻撃しか残されておらん。

 取り合えず、どうなるか解らんがF-15のスクランブル発進をかける。その後の状況を逐一送ってくれ」

「はっ、解りました……」


 一キロトンの弾薬だと……。確かに、三宅島程度の大きさなら十分かもしれないが、問題はその後だ。島を破壊できたとしたら、その余波を被り津波が起こってしまうだろう…。

 しかし、このままでは、その上を行く被害も甚大だ。


 しかし、急にあの島は移動を停止した。原因は解らないが、このまま再び動かないでくれればいいのだが……。


 恐らく、何をやってもダメなのかも知れない。口には出さないがアマテラス艦長の大森は、信仰する神は居ないが祈りを呟いた。




 神様、どうぞお助け下さい……。




    





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