18 天叢雲剣 / 聖也

 さて、卯月の獲物武器は大天狗から貰った弁慶が使っていた薙刀を手に入れた。デカ過ぎて移動に邪魔になるモノがエキドナの魔法でまさかのスマホにインストール出来るとは天晴あっぱれな働きだな。


 後は和歌山へ移動して一本ダタラから打ち直した神器を手に入れるだけだ。


 大天狗にお礼を言って移動する事にした。吉備の国から同伴した濡れ女は、そのまま鞍馬山に留まるそうだ。牛鬼から少しでも離れたいらしい。まぁここには天狗様がいるから、なんとかなるだろう。


 エキドナにお願いをして、キメラを呼んでもらい和歌山を目指す。


 そうだ、例のエロガッパで屁のカッパの三平にキュウリを持って行くのを忘れないでおこう。


「キュウリ、マッテルケロヨ~ン」


 又なにやら聞こえたような。最近、ストレスが溜まってるのか幻聴かな?

 気にしない、気にしない。





 和歌山へ行く前にキュウリを買う事にした。エロガッパで屁のカッパへのお土産だ。あまり役には立っていないような気がするが、ルークもキュウリは大好きだ。京野菜は一味違うというらしい。一本ダタラの住処の隣に滝があるから、そこでキュウリを冷やせば美味いだろう。


 鞍馬山から下山して、個人経営の八百屋に入った。スーパーも良いが、個人経営は農家と直に繋がりがあるから、大きな外れはないんだよね。大玉のスイカを一玉。キュウリを……。ルークもどれだけ食べるか解らないから、背中のリュックに入るだけ買っておこう。リュックはエキドナが富士山で悪戯している時に、移動用に買った物だ。今回も壇ノ浦や卯月の実家へ行く時に使っていて重宝している。

 着替えしか入っていないから、キュウリも結構入る。20本は入れたかな。リュックを背負うと結構重いな。スイカが重いんだろう。


『おい、随分と大量に買ったじゃないか。あのエロガッパの土産にしちゃあ買い過ぎじゃないか? どれどれ、俺様が味見をしてやろうじゃないか』


 ルークは俺のポケットから出ると背中のリュックの中に滑り込んだ。


「おい、全部食んじゃねぇぞ」

ポリポリポリぽりぽりぽり美味しくて止まんねぇよー


 何だよ、又止まんなくなっちゃったのかよ? 流石に20本は食わないよな。背中で軽快なポリポリ音を聞きながら、俺達は人目に付かない場所へ移動した。


 そしてエキドナにお願いし、キメラを呼び隠蔽の術を使い、昼間から和歌山へ空を翔けた。


「あぁ~京都での名物食べ忘れた――――! まぁ、和歌山でもいいか?」


 卯月が叫んでいたが、知らん顔しておこう。






 キメラの空を翔けるスピードは信じられない速さだ。京都から、和歌山の例の一本ダタラの鍛冶場まで数分で着いた。慣れは恐ろしい。俺もスピード狂にそのうちなるんじゃあなかろうか? 今回は余裕すら感じた。


 上空から一本ダタラの住処へと、エキドナの指示でキメラは難なく着地した。側に滝がある。それで、その滝で遊んでいるエロガッパがコチラを見て驚いていた様子が見えた。


「お~い、エロガッパの三平~土産を持って来たぞ~~」

「うわぁ~誰かと思ったら、お前等だったのかピョン。空を飛ぶ妖が来たから、驚いたケロよ。キュウリ持って来たか? 早くクレヨン」

「あぁ、約束だもんな。持って来たケロよ」


 あ~、又だ。変な話し方するヤツと会話すると俺までおかしくなってくる。

 早速リュックを降ろしてキュウリを出した。確かキュウリは20本買ったと思っていたが、10本程しか残っていなかった。コイツルークはそんなに食ったのか? まあ良いか、岡山ではこいつはそんなに食ってなかったからな。


 残りのキュウリを三平河童に渡し、大玉スイカを沢に流されないように置いて冷やした。


「美味ぇな~ぁ。このキュウリは美味いケロよ」

「そりゃそうだ、何しろ京野菜だからだな。所で天目一箇神アメノマヒトツツノカミ様は打ち直しは終わったのかな? 大槌を打つ音がしないけれど……」

「音は朝方からしなくなったケロよ。多分、刃を研いでいるんじゃないケロ?」

「そうなんだ?」


 エロガッパと話をしていると、天目一箇神が工房である穴から出て来た。


 全身全霊を込めた久しぶりの鍛冶はどうだったのだろうか? 疲れたのだろうな。いや、顏を見ると爽やかな晴れ渡った顔をしている。どうやら、満足しているという事は、打ち直しは成功したみたいだな。


「お疲れ様です、天目一箇神様。打ち直しは大丈夫でしたか?」

「おお、お主であったか? オデも久しぶりだで熱が入ったズラよ。玉鋼も最高の品であったから神器も生まれ変わったであろうよ。

 ほれ、この通りである。鞘を抜いてみるがよかろう」

「は、ありがとうございます」


 俺は天目一箇神が打ち直した草薙剣を受け取った。鞘を左手に持ち、右手で柄を握り引いた。スルリと刀身が現れた。その姿は以前のような赤錆に塗れた姿ではなく、純白の姿をしていた。重さも感じられない程の重量だが存在感は凄い。

 軽く二、三度振ってみるも信じられない軽さだ。逆に心配になって来た。


「天目一箇神様、なにか切ってもいいですか?」

「そうだな、まんだ試し切りもしてねぇから、あの樹を切ってみるがええだヨ」


 天目一箇神は少し離れた大木を指差した。結構太い樹だ。大人二人が両手を繋いだ大きさだ。

 これを切るのか? いや切れるのか? 天目一箇神の方を見ると、頷いた。大丈夫だ、やってやる。この太刀を信じよう。


 俺は大木の前に行き、太刀を上段に構える。


 そして、気合一閃、神器を振り下ろした。


「おりゃあぁぁぁぁ――――!」


 するとどうだろう。まるでバターを切る様な感覚で樹が切れた。太刀を振り抜いた後、数秒の後、斜めに切りぬかれた樹が音を立てて崩れ落ちた。それを見ていた皆の口が開く。


「聖也さん、すご~い」

「セイヤーやるじゃないかしら」

『思った以上だな』

「す、すげぇ――! これが、神器か? 凄すぎる」

「それが神器の力じゃ。武術を習っていなくとも、太刀を信じて振り下ろせば何でも斬れるズラ。但し、むやみやたらと鞘から抜くでないぞ。力も永遠ではないからのぅ」

「そうなんですか?」


 その様子見ていた卯月が慌てた。


「天目一箇神様、私の薙刀を見て下さい」


 卯月はスマホから岩融を取り出し、天目一箇神に見せた。いきなり何も無い所から薙刀が現れ驚く天目一箇神。あんぐりと口が開いている。

 やがて我に帰り、薙刀を手にする。


「う~っむ。これは、かなりの業物であるな。よくぞ、人の手でこれだけのモノを打つとは素晴らしいズラ」

「この薙刀は鞍馬の大天狗様から譲り受けたモノなんです。何でも昔、弁解が使っていたとかで……」

「おお、オデが零落して山に籠っておった時に聞いた事があるズラ。【弁慶の岩融】は童子切安綱を打った次の作だとな。これが、それとは……? しかし、お主の身体には合っておらぬズラじゃが」

「そうなんですよ。だから、天目一箇神様にチョチョッと直してもらおうか~な~?って思ってまして。どうですか?」

「う~っむ。神器と違ぉてぇ~時間は掛からぬが……。解った、乗りかかった船じゃて、途中で降りる訳にはいかんズラ。お主の身体に合ったサイズにしてやるわぃ。刃も大きすぎるし、柄も長すぎるであろう。使い回しに困るであろうしな」

「ヤッター! ありがとうございます。よろしくお願いいしま~す。時間は、かかりますか?」

「う~っむ。一刻程で有れば可能か? 鼠殿ルークから頂いたヒヒイロカネの玉鋼も僅かに残っておるから、刃先に打ち込めば大丈夫であろう」

「やったーあれっ? 一刻って何分だろう? 江戸時代だと2時間だし、古代で言えば14分ぐらいかな? まぁ、いいか。待ちます、待ちます。折角の機会だから自分のサイズに合えば嬉しいなぁ~♡」

「では、行ってくる。すまぬが、【つるべ火】よもう一度、炉に火を入れてくれぬか?」

「まかせろー」


 天目一箇神は、卯月から薙刀を受け取ると、つるべ火と共に工房へと入っていった。








                        鬼ヶ島の章  一旦了。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・色々と話を膨らませ過ぎて、長くなりそうなので此処で一旦、章を区切ります。

 次話から、「鬼退治の章」となります。


 卯月の実家にあった神器の封印が解かれ、鬼が目覚めてしまいました。錆び付いた草薙剣を一本ダタラに太刀の打ち直しを頼みましたが、何とか打ち直しが無事に終了しました。卯月の新たな武器の薙刀も打ち直しが始まって……。


 移動する謎の浮島にはどうやら複数の種類の鬼達が居そうです。

 どうやって鬼を退治するのでしょうか? ルークは?エキドナは?卯月は?聖也は?どういった立ち回りをするのでしょうか? (;´∀`)




次回予告

・打つ手を見いだせない戦艦アマテラスの大森艦長の元へ、それは日本の秘密兵器とも呼べる原子力潜水艦スサノオからの無線が入る。


 日本政府の対応は、もはや躊躇しては居られない状態まで追い込まれている。

 スサノオ艦長、そして防衛庁長官の岸和田から告げられた作戦を聞いたアマテラス艦長大森は愕然とする。その作戦とは……。


 どうぞ、お楽しみ下さい~。ってか、ストックがもう無いです。ネタが浮かばない。ヤバい…(>_<)

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