17 卯月の武器 / 聖也

 一方、岡山で会った濡れ女の話を聞く限りでは、牛鬼は凶悪で有る事は間違いない。次はどうするか?

 デザートの吉備団子を食べながら皆で相談する。


「で、どうする?」

「聖也さん、後一日だけ待ちましょう。そうすれば、草薙剣クサナギノツルギも打ち直しが終わるでしょう。慌てて現地に行っても、折角の神器が有るのに使わないのは勿体ないでしょ?神器が有れば、私達のリスクも少なくなるしね」

「う~ん、そうだよな。俺もそう思うよ」

『そうしろ、俺様も日本の神器とやらの力を見てみたい』

「じんぎって、お控えなすってくだせぇ! っていうヤツかしら」

「何言ってんですか。そのじんぎはヤクザので、こっちのじんぎは、ですよ。もう~エナさんたら……」

「あ~ら、知ってて言ったのに、ウーツキったら、そんな顏しないで~。イケズ~ねぇ」


 ダメだこりゃぁ~~! 残念な美魔女は放っておいて、深刻な話を詰めよう。


「じゃあさぁ、もう一回、鞍馬山まで行こうか? 新たに牛鬼なんて妖怪の話が出て来たんだから、ここは知恵を借りに行こうよ。それに、鞍馬から和歌山の一本ダタラの所まですぐじゃん。天狗の後に神器を取りに行けばついでの便だからいいんじゃないか?」

「そうよね、そうしましょう。じゃあ、エナさん又、キメラ呼んでくれますか?」

「いいわよ~。あの子も妾に会いたくて仕方が無いから、呼べばきっと喜んで乗せてくれるかしら」


 と、鞍馬山から岡山の吉備津神社までは大天狗の転移の術でひとっ飛びだったが、吉備津神社から鞍馬山まではそう簡単にはいかない。ここは、例のキメラに頼るしかない。


 エキドナは例の鈴を鳴らし、キメラを呼び隠蔽の術を周りに掛けて、昼間の空を駆け抜けた。そのお陰で一気に時間短縮が出来た。


 勿論、濡れ女は牛鬼から保護の為、強制連行だ。




 






 はい、こちら鞍馬山の奥の院に着きました――。


 例の千年杉の前で叫んだ。


「大天狗さま~どうか御姿を現し下さい」


 数秒の静寂の後、空より返事が返ってくる。


「もしや、その声は? 濡れ女なのか?」

「は、はい……。御無沙汰しております」

「な、なんと……」




 濡れ女の声を聞き、驚く様子を見せながら大天狗は千年杉の上から舞い降りて来た。

 そして、濡れ女は事の経由を大天狗に話した。


「牛鬼が健在じゃったとは、う~っむ。厄介な事じゃ。アヤツは狂暴で食い意地が張っておるからのう。

退治するには、一苦労するかもじゃ」

「大天狗様、牛鬼の弱点とは何でしょう?」

「う~っむ。アヤツは過去に何度も他の場所に現れ退治されとるはずなんじゃが、又しても現れるとは、アヤツの根本が何か違うモノなのかも知れぬ。弱点とは。そのモノが持つ根本じゃないかの。残念じゃが、我は解らぬ。すまぬ……」

「そうか、でもこっちには神器の太刀がもうすぐ打ち直しが終わるし、それを持ってして立ち向かえば、なんとかなるんじゃないんですか」

「まぁそうなのじゃが……。そう言えば、そこの女子。名は確か卯月と言ったな。最初の手合わせの時に思うとった事じゃが、お主は武器は持っておらぬではないか?」

「あ、はい。私は武器は持っていません」

「だろうな。それが気がかりになっておってな。そちらの西洋の妖殿達の力は我と比べると歴然の差があるのじゃが、そこの男は神器を持つことが出来る。そして卯月。お主は獲物を持っておらぬと今後身を守るのに難儀をするのではないかと?」

「う~ん、そうなんですけど。私の武器っていわれても……」

「それでじゃな。最初の手合わせの時の技などを思うと、お主の武器は薙刀が良かろうと思うのじゃが、どうじゃな?」

「あぁ~薙刀なら実家で習っていたので問題は有りません」

「そうじゃろう、そうじゃろ。中々の武の才が有ると見た。それでじゃ、お主にコレを譲ろうと思う。是非とも使ってほしいのじゃが」

「これは?」


 卯月は大天狗から3mぐらいの長い桐の箱を渡された。蓋を取ると中から刃が覗き見えた。出してみると薙刀だった。


 切っ先は反り返り刃の腹も10㎝ぐらいあり、刃渡りも80㎝はくだらない。想像する一般的な薙刀の刃だった。黒光りする刃先からは何やらオーラのようなモノが出ている。


「こ、これは?」

「これは、かつての武蔵坊弁慶が使っていた薙刀。名は岩融いわどうしという」

「えっ~~~~! 滅茶苦茶、業物じゃないですか? 酒呑童子を退治したという伝説を持つ童子切安綱だけではなく、三条小鍛冶宗近と思われる人物が鍛えた薙刀じゃないですか?」

「よく知っておるな。その通りじゃ」

「そりゃ~こう見えても私は歴女ですから。エッヘン」

「おぉ~卯月ちゃんスゲェ~」

「でしょ~? でも良いんですか、大天狗様、私がこれを貰っても」

「あぁ構わんとも、ここに眠って置いても宝の持ち腐れでしかない。牛鬼まで出て来ておるから、この国の未来を託せる者に使ってほしいんじゃ。ただな…………」

「ただ?」

「ただ…………」

「ただ?」

「ただ…………。

 長いんじゃよ。持ち運びが大変じゃろうな」

「「「確かに!」」」


 俺達は大天狗が持って来た薙刀を見た。卯月が手にしてみると、普通のサイズよりも遥かに大きい。これでは移動する時に邪魔で仕方無いだろう。普通のサイズでさえ、大きいのだ。


「これって、小さく出来ないんですか?」

「すまぬが、我はそんな器用ではない」

「う~ん、これじゃ使えないじゃないですか。持ち運びが出来ないなんて……」

「大丈夫よ。妾に任せるかしら」

「エナさん、どうするんですか?」

「ふふん、ウーツキ、妾が創造クリエイトのスキルを持っているの忘れたかしらねぇ。どれ、その長~い薙刀とやらをこちらへ、それとウーツキは自分のスマホを出すかしらねぇ」


 卯月は言われた通り、薙刀とスマホをエキドナに渡す。エキドナは渡されたモノを地面に置くと、例の鉄扇を杖に変えるやいなや、地面に突き刺す。


「—―Storage収納!」


 エキドナの呪文と共に魔法陣が現れ、薙刀とスマホを包む様に輝き始める。

 一瞬の煌めきの後、スマホに吸い込まれる様に薙刀が消えてしまった。


 笑みを浮かべながらエキドナはスマホを拾い上げて卯月に渡す。


「これで、ウーツキのスマホに薙刀のアプリをインストールしたから、必要な時にタップしたらいいかしらねぇ。仕舞う時も、タップしたら収納出来るからねぇ」

「はい、エナさん。やってみますね。あ〜、有った薙刀のアプリ。これをタップしたら……。うわぁ、あ~~凄い! 本当にスマホから薙刀が出て来た――!」


 マジか? ホンマか? エナさん、凄いじゃないか? 残念な大飯ぐらいだと思ってたら、見直しちゃったじゃないか。


「エナさん、ありがとうございます」

「フフン! どうよ。もっと褒めるがいいかしら」


 褒められると、たわわに実った胸を張るエキドナ。実にケシカラン……。


 その様子を見ていた大天狗の口が思いっきり開いていた。久々見た、アゴンゲリオン参号機のビーストモード並じゃないか? おい大天狗さんや、口を閉じないとあごが外れちゃうぞ。今更だけど、コイツ予想の斜め上をいくんだから、一々驚いていたらきりが無くなっちゃうんだよ。







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