16 牛鬼

 戦艦アマテラスの主砲を筆頭に、島の周りを囲む護衛艦と哨戒艦の一斉射撃は凄まじい現場となった。あれだけの数を浮島が被弾すれば只事ではすまされない。山は削れ平野も穴だらけとなっているに違いない。島の現状を早く見たい。しかし、大量に砲撃した為、白煙が中々収まらない。堪らず大森は無線をとった。


「こちらアマテラス、アパッチ01応答せよ」

「こちらアパッチ01。どうされました?」

「白煙が凄くて島の状況が確認出来ない。上空から映像を送ってくれ。それと前回のホバーにいた生存者と先行した隊員達は無事か、確認してくれ」

「了解。島の中央の白煙は晴れそうに無い為、島の外周を低空飛行で確認します」


 やがてヘリから前回のホバー周辺の映像が届けられた。ホバー自体は損傷はないみたいだ。その機体の周りに人影が見えた。


「こちらアパッチ01。入江付近にあるホバー周辺に生存者が確認されました。このまま、監視を続けます。うっ、あれ? 何だ、あれは?」

「どうしたアパッチ01?」

「何かが海にいます。10mはあろうかと思える魚影の様な影が見えます。

 入り江近くで待機しているホバー3台。すぐさま避難してください。何かが、海から出て来ます。逃げろ――!」

「何だ? 取り合えず皆、この島から距離を取れ。急げ! 急ぐんだ」




 やがて、上空のヘリから見えたモノは姿を現す。海の波間から太い足だけを現し、海に浮かび待機しているホバーに襲いかかった。襲い掛かる太い足の先は爪先が尖っていて、その爪がホバーを串刺しにする。串刺しにされたホバーから海へ払い落とされていく乗員10名。

 混乱しつつも波に吞まれながら海上を漂うしかない。突如、襲い掛かったモノが海上に姿を現し吠えた。


「オォオオオォオオオオ――――ン!」


 大絶叫と共に姿を現したモノの姿は、大きな牛の化け物。凡そ十メートルはある。正確に言えば、体は巨大な牛。顔は口が裂けた凶悪な顔の二本の角を持つ鬼の顏。足は左右合わせて六本有り、先端は爪先が尖っている一本爪。姿を見るだけで卒倒してしまいそうだ。


 海から現れた化け物は海上に浮かぶ隊員達を襲う。成す術もなく、彼等は海から覗いた凶悪な巨大な鬼の口に噛みつかれていく。そして数回の咀嚼そしゃくの後、喉の中へと吸い込まれていった。


「「うわぁ~た、助けてくれ――」」


 逃げ遅れた2台のホバーも餌食となってしまった。化け物の周りには生存者は皆無だろう。更には、近くにいた小型哨戒艦に向かって長い爪を振りかぶり襲い掛かる。


「このままヤラレて堪るか。取り舵いっぱい。全速前進! 砲門は化け物に照準を合わせろ! 砲撃だ! くっそ、60㎜の弾丸を受けて見ろ――! 発射!」


 逃げる哨戒艦から機関砲が唸りをあげて、後方から襲う化け物に弾丸の嵐を浴びせた。


 相手との距離が近いから当たればタダでは済まないはずだ。しかし相手は今まで見た事が無い異形の怪物。果たして此方の攻撃が有効なのかは分からない。死体が浮かんで来れば良いが、生き延びていきなり襲って来るかも知れない。

 先程のホバーが襲われる瞬間は、アパッチからの映像と各艦のデジタル望遠鏡からの映像で、恐怖を各艦全ての乗員へ植え付けた。次は、自分達の番かも知れない。誰もがそう思った。


 哨戒艦は全速力で逃げた。一目散に逃げた。そして母艦であるアマテラスの付近へ近づくと、ようやく安堵の溜息が出た。



 状況を見ていたアマテラスの船長は叫んだ。


「探査班はソナーで、海中の様子を探れ。ヤツは生きているかも知れん。海中を移動している巨大な生物がいたら報告するんだ。魚雷班は、小型のモノをいつでも発射出来る用意をしろ! 銃撃班は機関砲の準備だ。探査班からの指示を待て! 急げ!」

「「了解!」」


 島を取り囲む各戦艦の乗員達の背中を、緊張と不安が冷たい雫となって濡らす。




 10秒……。20秒……。30秒が過ぎ、探査班からの報告が上がる。


「海中を移動する生物の反応は確認出来ません……。ふぅ~……」


 艦内無線の声の語尾に溜息が流れると、それを聞いた乗員達も同様に溜息がこぼれ落ちた。助かったのか。しかし、安心してはいられない。島自体が異常事態だから、島のどこかで又、同じような怪物が出てくるかも知れない。


「全員、戦闘態勢を一時解除だ。しかし、油断はするな。いつ同じような事が起きうる可能性があるやも知れん。警戒してあたれ!」

 

 艦内の無線を切って大森艦長は呟く。


「何なんだ、あの化け物は一体、何なんだ? だ、誰か知っているか?」

「か、艦長、あの化け物は【百鬼夜行や百怪図巻】で昔、見た事のある牛鬼です」

「う、うしおに? 鬼なのか? この時代に鬼が出るのか? 鬼に、この世代の武器が通じるのか? どうすればいい? どうすればいいんだ――」


 未知との生物とは鬼のような存在らしい。頭に角が生えていて凶暴で残虐。人を襲って食らう妖怪。信じたくないが、目の前に現れて仲間を襲っていた映像を観ると、否定は出来ない。アマテラスの艦内に沈黙が走る。





 数秒の沈黙の後、無線が重い沈黙を破った。


「こちらアパッチ01。アマテラス応答せよ」


 緊迫した船内にアパッチ01からの無線連絡が入る。


「どうした? アパッチ01」

「こちらアパッチ01。島の白煙が晴れた。これより上空から島の中央へ向かい、島の映像を送ります」

「了解。十分に注意せよ」

 

 残り最後の攻撃用ヘリが一斉射撃の後の島の状況を教えてくれる事となった。


 誰もが思っている。あの一斉射撃の後なら、山は崩れ平野部は穴だらけになっているだろうと。

 しかし、送られた映像を観ると、自分達の浅はかな考えが吹き飛んでしまった。


 


「なんだ? あれは――――!」


 一斉攻撃の後の映像は確かに平野部は荒れ果てていた。いかにも爆撃を受けたような跡が広がっていた。焼け焦げたような煙も至る所で上がっている。最初に見た数少ない木々は無残にも薙ぎ倒され近代兵器の恐ろしさを語っていた。

 しかし山の建造物は無傷だった。崖の部分は崩れている所は数か所あるが、城の様な建物は真っ黒に変わり、島の中央の平原には神社の鳥居の様な大きな漆黒のゲートが以前から存在したように新たに構えていた。


 不自然な漆黒の鳥居のゲートだけが島の平原に佇んでいる。

 

 そしてその門がユックリと観音開きで開き始めた。


【ギギィ――――!】



 扉が開く音と共に、地獄の門が今! 開かれた――――!



 開かれた門からは、今まで以上の小鬼の集団が雄叫びを上げながら出て来た。


 「「「ウギャギャギャギャ~」」」










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