15 救出作戦

 攻撃用ヘリ4機の内3機を失った戦艦アマテラスの艦内に動揺が走る。


「何があった? アパッチ01応答せよ」

「島の中央の山の建造物に、お、おにが…鬼が……」

「島の中央にも鬼だと? そんなバカな訳が……。落ち着け、アパッチ01直ちに退避せよ! 帰還しろ!」

「了解、これより直ちに退避します。あっ、生存者発見! 今、島の上空から見て西の方角、2時の方向に入り江あり。入り江の辺りに大型ホバーが2台見えます。もう1基あったはずなんですが……。入り江付近にホバーの残骸らしき物が見えました。

 先程島の上空を旋回した時点では確認出来ませんでしたが、その周辺に隊員らしき姿が凡そ30名見えます」

「よくやったアパッチ01。これより生存者救出に向かう。アパッチ01はそのまま上空にて待機だ」

「りょ、了解!」


 戦闘用ヘリに乗った仲間を目の前で失ってしまった事で、生き残ったヘリに乗った隊員達や、今までの映像を観ていたアマテラスの艦内の隊員達の思いはそれぞれだ。


 早く、一刻も早くこの場から逃げ出したい。

 目に見えない恐怖感からくる思い……。


 仲間の仇を討ってやる。

 復讐心に狩られる思い……。


 何が、どうなっているのか?

 事態の収拾に頭がパニックになっていて混乱している思い……。

 

 隊員達の思いはそれぞれだった。


「アパッチより生存者が確認された。これより生存者の救出に向かう。各哨戒艦と護衛艦は辺りを警戒する事!」


 母船の傍には4艘の護衛艦が島への上陸の合図を待っている。今回も救出用大型のホバークラフトの中には戦車も数台用意してある。


そして小型の哨戒艦6隻が島を取り囲み、緊張感が一気に舞い上がる。


「これより上陸せよ!アパッチ01は上陸現場の上空から監視し映像を送れ。異常があれば報告する事! 開始!」

「「了解!」」







 諦めていた。仲間からの連絡が途絶えて数日が経つ。


 誰だっていい。生存者がいれば、島の状況が大まかには解る。島で何が起こっているか、未だ不明なのだ。しかし、小鬼の存在が気にかかる。


 救出用大型のホバークラフトが入り江に向かう。


 向った先には、前回の調査団のホバーが2台ある。傍には迷彩服を着ている隊員達の姿が見える。しかし様子がおかしい。入り江に立って、直線に横並びになっている。島に向かって銃を撃っている姿と海へ逃げようとしているが、動けない様に見える姿。こちらを向いて何か叫んでいる様にも見える。しかし、ホバーからの騒音で何も聞こえない。


「こちら救出班。生存者の姿を発見! 上陸後、生存者を救出し退避します」

「こちらアマテラス了解した。島の奥には行くな。油断は禁物だ」

「了解! 間もなく上陸します」

 





 先頭を行く1台のホバーが、前回の上陸で使った2台のホバーの後ろに着けた。

島に上陸して生存者の元に辿り着く。


「大丈夫か、一体何があった? なぜホバーに乗ってこの島から離脱しない?」

「どうして、やって来たんだ? この島に上がったら、もう二度と出られないと言うのに、どうして……。陸にも居るが、海にも怪物がいるんだ」

「何言ってるんだ。そんな訳が……」


 折角救援に来たというのに、生存者は意味不明な事を言っている。確かに島には未確認だが訳の分からない小鬼がいて人を襲っているのは確認出来た。その未確認の生物とは未だ何なのか確認が出来ていない。銃を撃っても撃っても減らないのだ。


 一人の生存者が海を指差した。


「アレを見て見ろ……。島の怪物ゴブリンをみて、ホバークラフトに乗り合わせて逃げようとしたんだ。そ、それが、海の中にいる怪物が現れて……。ホバーが一突きで串刺しになった。それで。海に投げ出された人は…………」

「海に落ちた人はどうした?」

「く、食われた…………」

「食われたって? 何に、サメか?」

「ち、ち、違う、サメじゃない。鬼だ……。海の中にいる巨大な鬼に、みんな食われた」

「そんなバカな?」

「みんな、その時の事を見たんだ……。だ、だから、怖くて……ホバーには乗れない。それに島には小鬼がいる。数が多すぎて、もうダメだ……」

「それでか?……。はっ、すぐに仲間に知らせなければ、来るな――!全員、旋回し、島から離れろ――」


 すぐさま、ホバーに戻り操縦席の無線で仲間に作戦の中止を告げる。


「おい、何やら様子がおかしいぞ。旋回して上陸は一旦中止だ。入り江の手前で様子を見よう」


 先行した1台のホバーのおかげで、多くの被害を被る事は避けたようだ。上陸する一歩手前から双眼鏡で生存者の様子を見る。無線からはノイズが入って聞き取れない。


 どうやら、一旦上陸すると引き返す事出来なくなってしまうようだ。


「艦長! 先発隊の様子が変です」

「どうした?」

「ノイズが混じっていますが、来るな。とか言っていますが……」

「んっ? 言ってる事がおかしい。ちょっと待て。アパッチ01応答せよ、こちらアマテラス」

「こちらアパッチ01。どうしましたか?」

「至急、生存者がいた付近の映像を送ってくれ」

「了解!」


 送られてきた映像には、背の小さいモノから逃げまどう生存者達の姿が見える。姿形から見ると、やはり小鬼のように見える。手には棍棒のような物を持っている。襲われると生きたまま食われているようだ。


 生存者は備えていた小銃を乱射して相手を倒してはいるものの、如何せん相手の数が多すぎるようだ。このままではジリ貧だ。なにか手立てを打たなければ……。


「こちらアマテラス、アパッチ01応答せよ。仮に弾薬が残っているようなら、生存者を襲っているモノ達に警告を与える為に、攻撃せよ!」

「こちらアパッチ01。弾薬はまだ残っています。これより警告の攻撃を行います」


 アマテラス艦長の判断で、アパッチ01は残りの小型ミサイル2発と、ありったけの銃弾を打ちまくった。ミサイルは着弾すると爆音を上げて辺りの木々を吹き飛ばす。




 どうする? 生存者の確保は難しそうだ。このまま見捨てるのか? 島にいる者達からは連絡がつかない。目と鼻の先にいると言うのに。どうする。今の状況を整理すると上陸は危険行為だ。戦闘用ヘリを3機失ってしまった。嫌な予感がする。下手をすれば、壊滅状態になるかも知れない。それだけは、避けたい。


 仕方ない。生存者に当たらないように、島の中央へ攻撃するか? 中央の山頂には建造物らしき物があると報告を受けている。巨大な矢を撃ち出す設備も健在だろう。

アパッチ2機を払い落とした巨大な鬼が居るとの報告も受けている。 一旦、そこを攻撃し様子を見よう。アマテラスの艦長大森は決意した。



「島を取り巻く哨戒艦と護衛艦、全艦に告ぐ! これより島の中央山脈の建造物への一斉攻撃を行う。各艦ロケット砲とミサイルの準備を急げ! 但し、全弾薬を使ってはならぬ。何が起こるかは解らないからな。くれぐれも、入江付近の生存者達に被害を浴びせないように照準は中央の建造物に合わせろ。 

 アマテラスも主砲の準備をしろ」

「「了解!」」


 各艦の乗員たちはすぐさま攻撃の準備を整えた。護衛艦や哨戒艦が搭載しているミサイルでも十分届く範囲だ。やがて各艦より無線が入る。


「「こちら準備完了!」」

「「こちらも準備完了!」」

「艦長、アマテラスの主砲も準備が完了しました」

「うむ。それでは一斉射撃開始! ってっ――――!」


 大森艦長の号令で、各艦から白煙を上げたミサイルが、島の中央部の建造物へと飛来する。凡そ3分という短い時間の間に、これでもか! という情け容赦のない破壊力を秘めたおびただしい数の弾丸が島の建造物目掛けて襲いかかった――。







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