14 戦艦アマテラス発進!

 岸和田長官との直電の会話の後、戦艦アマテラスは戦闘用ヘリ・アパッチ4機を搭載し、4隻の哨戒艦を伴い四国、高知沖に現れた謎の浮島に向けて出港した。




 かつて日本の誇る戦艦大和は主砲が46センチ砲を装備していた。


 分りやすく言えば、直径46センチの砲弾だ。弾丸内部を変更する事によって、貫通に特化したり、火薬の分量で大爆発を引き起こす事も可能だ。巨大な砲弾は戦争に特化している。相手を容赦なく破壊出来る。例え、大地であろうとも……。


 事態を重く見たアマテラス艦長は戦争を想定した装備を戦艦に準備させた。対空ミサイルと戦艦大和に匹敵する主砲の46センチ砲弾も特殊品を準備させた。特に爆発系を重点的に重く見た装備だ。念には念を入れ、魚雷も装備させた。もやはこの装備は戦争に行く装備としか考えられない。多くの乗務員は困惑の色を隠しながら只事では無い事態に緊張の色を浮かべていた。



 やがて数時間の後、目指す浮島が見えて来た。何も無い只だだっ広い大海原に浮かぶ数隻の漁船と、TV側が用意したのだろう大型のクルーザーと、辺りを警戒する護衛艦が4隻。それらが島を取り囲むように並んでいる。そして大型舟艇で待機していた山崎一等海佐の姿もあった。


 空には民間の用意したライブ配信用のヘリコプターも飛んでいた。どうやら続きが気になるのか危険な事は考えもしていないようだ。


 バカな奴等だ――。





「全艦停止! 全アパッチは離陸後、島を捜索する事! 

 各哨戒艦は島の警戒にあたれ!」

「「「了解!」」」


 艦長の声に答えるように、戦艦の甲板から4機のヘリが島目掛けて飛び立って行く。




 緊張感が高まる艦内にブリッジから報告が入る。


「艦長。例の浮島ですが何故か移動しなくなりました。探査班からソナーで検査したところ、淡路島へ向けての移動は無くなったとの報告を受けました」

「何、それは本当か?」

「しかし、あの島の調査は不明です。いつ何時に島が移動を再開するやもしれません」

「分かった、何か有れば報告を頼む」

「分かりました」


 淡路島へ向けて移動する浮島は、移動を停止した。このまま移動を再開することなく、停止したままならいいのだが……。謎だらけの島だ。期待は禁物だ。







 同時刻、聖也達一行は岡山の吉備津神社で大天狗からのミッションを遂行している時間帯だった。聖也が竈の四隅へ天狗から貰った梵字の入ったモリオン黒水晶を埋めた時間帯だと誰が知るだろう。


 誰も知らぬうちに、例の移動する浮島は停止を告げた。









 数分後、一台のヘリから無線が入る。


「報告! こちらアパッチ01。島の上空に来ました。島の形は円形。直径は凡そ10㎞。中央に200m級の山を確認。その山頂に建造物らしき物発見。山のすそ野に一部開けた場所を確認した。

 これより降下し、更に調査します」

「こちらアマテラス了解した。アパッチ01、無理はするな。残りアパッチ02~04は辺りを警戒しろ。異常があればすぐに報告を忘れるな!」

「「「了解!」」


 島の直径が10㎞だと? 三宅島位の大きさか? たった数回の地震で島がそんなに大きくなるものなのか?


「こちらアパッチ01。これより島に降下し、歩兵にて島を調査します」



 アパッチ01が島の上空から警戒しながら、島の平原に着陸しようとしていた。徐々に高度を下げると、やはり山頂の建造物から大型の矢がアパッチ01に襲いかかる。


 哨戒ヘリとは違い、戦闘用ヘリとその乗員はすぐさま異変に気がついた。

 襲い掛かる巨大な矢をジグザグに躱し、山頂より上空に逃げた。



「こちらアパッチ01。島の中央から攻撃を受けました。反撃の許可を願います」

「こちらアマテラス。アパッチ01の反撃を許可する。各アパッチは警戒し、それぞれ映像を送れ!」

「了解! これより反撃に移り、映像も送ります」


 アパッチ01は急上昇し、巨大な矢を放って来たバリスタの設置してある建造物に向けて小型ミサイルを撃った。


 爆発音と瓦礫が辺りに広がっていく。それは映像でアマテラスに届けられた。


 映像を見ると島中央の山の裾野から先程の攻撃の振動で出て来たのか、動く無数のモノが確認された。それらは裾野から出てくると、広場に広がっていく。うじゃうじゃと湧きうごめくモノは人型の姿をしていた。人型であって決して人では無いそれらは一体何者なのか? 


 その姿をアマテラスのデッキから見ていた一人の乗務員は叫ぶ。


「あ、あれは、ゴブリン小鬼だ――!」

「なんだ、ゴブリンって?」

「ファンタジー映画に出てくる小鬼だ。まさか、映画の世界の生き物が、なんで現在に居るんだ……?」



【ゴブリン。ヨーロッパの民間伝承に登場する伝説の生物である。元々は森などに住み、時折人里に現れては悪さをする妖精という存在。ゴブリンたちは口先だけで臆病、頭もあまり回らない、しかし自分たちより弱い者いじめは大好きで欲深い。木立に住み、幼い子を食べるという小鬼】






 各アパッチからの映像をアマテラス艦長は凝視する。

 

 ゴブリン小鬼だと? 一体なんなんだ? 


「もう少し、ズームが出来ないか? これじゃ判別が出来ない。どうにか出来ないか?」

「高度を下げると巨大な矢が襲ってきます。そういえば、調査用のドローンを搭載していますから、これから投下し映像を送ります」


 アパッチ02からの返答に皆の視線が画像に集中する。ブリッジの指令室に有る大型モニターが分割され色々な角度から島の状況が観える。


 皆が息を飲んで見守る映像はドローンからの画面。ゆっくりと降下しながら映し出した映像は自衛隊隊員達が見慣れた武器だった。それは前回の調査団の持ち物。重火器と呼べる武器。それを構えている小鬼の姿達。小銃やバズーカー砲や小型ロケットランチャーを上空のヘリに向けて発射し、ニヤリと笑う瞬間だった。


「危ない! 逃げろ02。今すぐ離脱しろ」


 見慣れない島からの映像を注視していた為、アパッチ02の反応が遅れた。下からの攻撃を躱す事無く、アパッチ02は前回の調査団の武器によって成すすべもなく撃ち落されてしまった。


「各ヘリ、高度を上げろ! その場から退避だ」

「くっそ~! あいつら……。ロケットを打ち込んでやる」

「そうだ、02の仇だ! やってやる」

「やめろ、退避しろ! これは命令だ。各機、撤退だ!」


 攻撃を受け撃墜されたアパッチ02は地上に落下すると爆炎を上げた。その爆炎の煽りを受けて小鬼達も被害を被っている。更に残りのアパッチからのミサイル攻撃が島に襲い掛かる。


 ヒートアップする残りのアパッチの乗員たちにアマテラス艦長の声は届かない。


 訓練ではテキスト通りの行動に徹していたが、これは実演だ。目の前で、仲間がやられてしまった事に対する怒りと恐怖が混乱状態を起こしている。


 上官からの命令は絶対だ。

 しかし、彼等には声が届かない――。パニックが耳を塞いでいる。





 攻撃用ヘリからの無数の銃弾や小型ロケットが一斉に火を噴き、島の異形の住人ゴブリン達を蹂躙じゅうりんした。




 残り3機のアパッチからの攻撃が一旦止むと辺りは白煙に包まれた。


 やったのか? 


 白煙が晴れるまで気が抜けない。緊張感が一気に高まって行く。


 皆の視線が裾野の平野部へと集まると、一陣の風が吹いた――。


 それは白煙を吹き飛ばし、攻撃用ヘリからの猛攻撃を受けた凄まじい惨状だった。

 小型ロケット弾にて地面は荒れ果てていた。横たわる何か解らない死骸が散乱していて、肉が焦げる嫌な匂いも漂っている。


 画像を見ていたアパッチの隊員達が歓喜の声をあげる。


「やったぞー! 仲間達の仇を討っ…た………」


 地上の惨劇を上空から眺めていたアパッチの隊員達は油断していた。白煙が吹き飛んだ地上を見ようと高度を下げたヘリが二機、島の中央の建造物の中から出て来たモノに払い落とされた。


「「うわぁぁぁぁぁぁぁ…………」」


 一基だけ他のヘリより上空にいたアパッチ01はその様子を見ていた。


「霧のようなモノが山頂の建造物から広がったと思ったら、—―テ、て、手だ! 巨大な手が、アパッチ03と04を払い落とした……。

 そんなバカな、何なんだ、一体、何が居るんだこの島には?………」








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