13 備前国-2 / 聖也

「う、うしおにの、封印が解かれてしまった。牛鬼を殺して下さい……」

「「「『うえええっ――――! 鬼? 牛鬼だって?』」」」


 俺達三人と一匹の声がハモった瞬間だった。







【牛鬼は、岡山県の牛窓。愛媛県の宇和島。島根県の石見地方に、それと他の県でも様々な伝承がある。

 姿は巨大な牛。顔は大きな口が裂けた鬼の顏をしている。足は左右合わせて6本有り、爪先はツノの様に鋭く尖っている。凶暴で残忍。人肉を好んで食べるそうだ。

 くだんと似通っているが、くだんは凶事を予言するだけの妖。決して同類では無い】






「わ、私は、濡れ女という妖です…。かつての牛鬼の手下でした……」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。大事な話なんだから、この場所で立ち話って訳にゃ行かないよ。どこか落ち着いた所へ行かないか?」

「そうねぇ、わらわはお腹が空いているから早く吉備国の美味しい物を食べたいのよね~」

「ちょっと待って下さい、エナさん。個室のある店を検索してますから~。あ~何処にしようか迷うな~」

 

 意を決して俺達の前に来た女の妖は、鬼の事より食い気を優先する女性陣を見て呆気に取られていた。  

 イチダイジ、ナンデスケド・・・・・・。


「ここよ、ここに決めた!」

「ウーツキ楽しみしているわよ」

「エナさん任せて下さい。ママカリだ~。デミカツ丼にエビ飯だ。カキオコが有るかな。デザートは吉備団子よ~♡」

「その前に、アナタ。びしょ濡れじゃない。何とかならないかしら」

「これは、いつもの私のスタイルなんですが……」

「いやぁね~。ずぶ濡れだと色々迷惑かけるじゃない? お店にも入れないじゃないの」

「あ、あ……。確かに、分かりました。これで、どうですか?」


 エキドナの指摘に女の妖は頷いた。片足を軸にクルリと回ると、ずぶ濡れ状態から脱出した。着崩れた着物もチャンと乾いて着直し、髪も結っている。片手に抱いた、赤子は…見ないようにしよう。

 確かに全身ずぶ濡れ女が居たら何かと迷惑がかかるし、目立ってしかたない。俺も思っていたんだよ。流石、エナさん。


 こうして俺達はタクシーに乗って卯月の予約した店に向かった。車内では女の妖がいたから、気まずい雰囲気だったが卯月とエナさんの女子トークでなんとかしのいだ。




 はい着きました。【ぼっけぇ~きょう亭】――。


 見た目、和風の割烹料理屋だ。卯月を先頭に店に入る。


「こんにちわ~。先程電話予約した卯月で~す」

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」


 俺達は店員に促されて店の奥に入る。部屋の大きさは六畳程度で和風。一応六人が座れる掘りコタツ仕様となっている。間隔をあけてゆったり座った。すると卯月が口火を切った。


「で、どうしようっか? 先に食べる? それとも先に話を聞く?」

「妾はお腹が空いて仕方がないのじゃ。話は後でもいいかしらね」

「そうだね、先に話を聞くと食欲が無くなりそうだしな。あの~濡れ女さんは、食事は出来ますか?」

「あ、は、はい。大丈夫です。好き嫌い無く食べれます」

「じゃぁ、オーダーしますね~♡」




 オーダーして数分後――。


「美味しい〜♡ 何、このカツ丼。普通の卵をとじたカツ丼やソースカツ丼や、名古屋の味噌カツ丼は食べた事有るけど、デミグラスソースのデミカツ丼って美味しいわね」

「そうそう、カツとご飯の間に千切りキャベツが有るから、シャキシャキ感もたまらないわ。デミグラスソースって意外とカツとご飯に合うかしら」

「カキオコって牡蠣カキのお好み焼きだったんだ。コリャ、ビールに合うなぁ。今は旬じゃないから身が小ぶりだけど、シーズンの時は大ぶりの身がプリップリなんだろうなぁ。ぷぁ~ビールが美味いよ」

「ママカリの酢漬けも、ご飯に合うわぁ。確かに、お腹減ってたら何杯でもいける気がするかしら」

「エビメシも見た目は真っ黒だけど、ほんのりカレー風味がしてるし、エビがプリップリなのよね~」

「あ〜吉備団子が来たわ。何これ、マスカットの風味がして爽やかでモチモチでマイウ〜かしらね♡」


『俺様の食えるポリポリ物が何もねぇじゃねぇか……。キュウリだ。キュウリを出せ。エロガッパが食ってたキュウリを出してケロ』


 何言ってんだ、こいつは大丈夫か? 最近ルークの出番が少ないから違う路線に向かってんじゃないのか?


「ホラホラ、アナタもご飯なんて久しぶりでしょう? 遠慮なくどんどん食べてね」

「あっ、はい。ありがとうございます」

「どう、美味しいでしょ?」

「はい、美味しいです……。私、こんな、美味しい物を楽しく食べたのは、いつぶりでしょうか……。

 うぅぅうっ……。わ、私は、濡れ女という妖です…。かつての牛鬼の手下でした……。

 この手にした赤子を人に【抱いてくれ】と頼み、受け取った人を動けなくして、その隙に牛鬼が人を襲うのが、当時の行いでした。

 やがて、子供連れの夫婦が目についたので、いつもの様に襲いましたが、やはり親の前で子供を襲われたり、逆に子供の前で親が襲われるのを見ていると、なんだか、苦しくなってきて……。散々、人を襲っておきながら今更こんな事をいうのは、おこがましいのですが……。私も妖になるまでは人間の女でした。

 私は、牛鬼から逃げました。逃げて、数百年海底で眠っておりました。

 それが、最近の高知沖の海底地震で、あの牛鬼の凶悪な気配が復活したみたいなんです……。どうやらあの島にいるみたいです。何故だか分かりませんが地震によって隆起した島は、かつて平安時代に退治されたはずの牛鬼や、他の鬼を呼び寄せているのかも知れません。海座頭の念話から貴方達の事は聞きました。どうか、お力をお貸しください。オネガイシマス」



 高知沖の地震から島が出来たっていう話はTVのニュースで観たし、調査隊が行方不明だっていうのもニュースで観た。あの島は妖の島だったのか?


「ところで、牛鬼ってどんなヤツなの?」

「牛鬼は巨大な牛の体に口の裂けた凶悪な顏をした鬼。左右合わせて六本ある足の先は尖った一本爪を持っています。当時討伐に来た武者達の弓矢は刺さらないし、体も硬く丈夫なので刀でも擦り傷程度しか付かないのです。人間をバリバリ噛んでお腹が満たされるまで食らいつくします」

「巨大って、この部屋より大きいの?」

「はい、この部屋より大きいです」

「「ええっ――! そうなの?」」


 俺と卯月はハモった。六畳の部屋よりデカいって、そりゃ驚くわよな。常人としては姿と大きさで驚く。かたやルークとエキドナは平然としている。魔界の住人としては姿の大きさは気にならないみたいだ。


 おっかない相手だな。今回もルークとエキドナに丸投げしようか?


「海座頭は言っていました。西洋のアヤカシの力を借りれば、なんとかなるだろうと……」

『ああ、任せろ。俺達には神器の太刀がある。あの島には、よからぬ奴等が居るみたいだからな。恐らくインキュバスの野郎の召喚した魔物が居るのだろうよ。神器の打ち直しが終わったら速攻でぶった切ってやるぜ』

「ありがとうございます。あの悪の根源で狂暴な鬼を殺してください」



 なぜか、自信満々に濡れ女と会話するルークであった。

 おい、ルークさんやお前、あの神器持てるのかよ。どうするんだ?


 神器の打ち直しが始まって今日で二日目。今晩も岡山の街に泊まって、散々街中を食べ歩きするんだろうな。


 明日は、鞍馬山に戻って大天狗に報告だ。その足で、一本ダタラの所で神器の打ち直しの仕上げ待ちだ。上手く神器が再生している事を願うのは、どうやら俺だけなのかも知れない……。





「すいませ~ん~! ここ、ホルモンうどんと、干し肉有りますか~?」

「お客様、誠にすみませんが、ホルモンうどんと干し肉は県北の方に行かないと……津山市周辺に行かないと食べれないのです」

「えぇ~そうなの? Yチューブに出てたのに残念! そずり鍋も?」

「はい、左様にございます……」


 おぃ、まだ食べるのか……? 今、シリアスな話をしてたんじゃないのかぃ……。 












※「ぼっけぇ~きょうてぇ」とは、岡山弁で「凄く怖い」と言う意味です。若者は使いません。を掛けたつまんねぇ洒落でおます。岡山県民しか解らんですね。^^;


※ご当地B級グルメを食べる機会があれば、一人前を食べるのではなくて、複数人でシェアして食べるのがいいでしょう。クセがあったり味の好みがありますのでねぇ。^^;

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