11 牛若丸 / 聖也
「天狗様、どうして草薙剣の封印が解かれると鬼が出るんですか?」
「それはじゃな、あの太刀は
そもそも鬼というモノは、人の心に巣食う邪な感情じゃな。人を
心が卑しくなれば、行動もそれに伴って変わり、性格や顔の表情まで変わる。人間とは何とも哀れな生き物じゃないか。そのような負の感情が集まると思念体となって、第三者の意識に纏わりついてしまう。つまりは、日本の鬼というのは、思念体が憑りつき、人が別人格となって姿形を変えるのが鬼化するということじゃ……。
更に、そのループが繰り返される事によって、更なる狂気が拍車を掛けて恐ろしい姿が具現化されるということじゃのう。頭には角が生え、口が裂けているモノの姿を見れば、何もしなくても恐ろしく感じるであろうよ。
光と影。陽と陰。草薙剣と鬼は、真逆の位置関係にあるが故に、お互いがお互いを引き寄せるのかも知れぬ……。
その事は、
自分も兄である
「じゃぁ、鬼が出てくるって思念体の元凶は何処に?」
「それだと雲を掴むようじゃが、それだと対策も何も出来ぬ。我が思うには、かつての鬼の復活かも知れぬ。例えて言うならば、大江に居た酒呑童子はかなりの強者ではあるな。アヤツが復活でもすれば大変な事になるじゃろう。しかしながら、アヤツは神格化され神社に祀られているから、それはないだろう。京都の鶴岡に酒呑童子の首が祀られている場所があり【首塚大明神】として祀られている。
なんでも、酒呑童子を切った源頼光は討ち取った首を京へ持ち帰るが、老ノ坂で道端の地蔵に「不浄なものを京へ持ち帰るな」と忠告され、一同はその地に首を埋葬した。酒呑童子は死に際に今までの罪を悔い、死後は首から上に病気を持つ人々を助けることを望み、大明神として祀られたとされている。そのため、首塚大明神は首から上の病を治す力があるとされているそうだ。
我が気になるのは、
「岡山の温羅って?」
「お主等は桃太郎の話を知らんのか?」
「そりゃ、桃太郎の昔話は知ってますよ」
「桃太郎伝説の元となった温羅の伝説は大まかにこうじゃ……
――その昔、
温羅は異国より空を飛んで吉備国に渡ってきたとされており、その容貌は恐ろしいものだった。髪は赤く燃え盛り、身長は4メートルを超え、目には狼のような獰猛さを宿していた。
また温羅は途轍もなく強い腕力を持っており性格は凶悪で、力の弱い女や子供を次から次へとさらい好き放題に暴れていた。
恐れおののいた人々は温羅の城へ近付くことすら適わず、都へ出向いて助けを求めた。そこで武勇の名将である
この吉備津彦命は後の桃太郎の事じゃな。
そして格闘の末、吉備津彦命は温羅の首を切り落とし、無事に討伐に成功した。
しかし、切り落とされてなお温羅の首には生気が宿っており、目を見開いては唸り声を上げ続けたそうじゃ。
不気味に思った人々から相談された吉備津彦命は、温羅の首を犬に喰わせ骸骨にしたがそれでも声は鳴り止まなかった。
次に吉備津宮の釜殿の地中深くに首を埋めたが、それでも声が鳴りやむことはなく、吉備津彦命は打つ手が無くなり困り果ててしまった。
そんなある日、吉備津彦命の夢の中に温羅が現れ「我が妻の
お告げの通りに吉備津彦命が神事を行うと唸り声はおさまり、こうして吉備国の地にようやく平和が訪れたのじゃ。
吉備津彦命が行った神事は「
これが大まかな話じゃな。一応神社に祀られてはいるが、これは封印にしか過ぎない。隙あらば、復活を狙っているのかも知れぬ。
そこでじゃが、警戒には念を入れ過ぎても足りぬのじゃが、お主等に頼みがある」
「大天狗様ともあろう方が、頼みとは?」
「ふむ、先程言った吉備国の温羅の様子を見て来てほしいのじゃ。万が一とも言うであろう。もしも温羅の結界が解放されれば、とんでもない事になるかも知れぬ。アヤツは神社に祀られてはいるものの、神格化はしておらん。封印されているだけじゃから、封印の上書きをしてきて欲しいのじゃ」
「封印の上書きっていっても、どうするんですか?」
「なに、簡単な事じゃ。この石を吉備津神社の釜の下の四隅に埋めてくれるだけでいい。さすれば、アヤツをより強固な結界に閉じ込める事も出来るであろう。神社には人間しか入れんから、他の妖の邪魔は入らんだろう。どうせ暇なんじゃろ?」
なにやら大天狗に誘導されているようだが、俺達でも出来る事はしておかないと後悔するかもしれない。仕方がない、やれる事はやろう!
「まぁ、暇といえば暇ですけど……。卯月ちゃんも行くだろ?」
「当然よ~。岡山といえばキビ団子とママカリね。エナさんの好きな団子があるわよ。それにママカリって興味あるの。あんまり美味しいからお隣から、
「なにそれ? 早く行かないと」
「エナさん慌てないで下さい。ここ京都から岡山まで結構な距離がありますから、時間が掛かりますよ」
「時間の事なら気にせんでよいぞ。とは言っても、片道切符じゃがな」
「どうゆう事ですか?」
「この奥の院の小さな社から、吉備津神社の奥の院にある小さな社は通じておるのじゃ。とは言っても、此方から向こうへは行けるが、向こうから此方には行けぬのじゃよ。千年前だと行き来は可能だったが、今では一方通行になってしまった。
そこの社を潜れば一瞬じゃぞ。一瞬で着くのじゃ!」
「おぉ~凄いじゃないですか。転移ですね。まるでファンタジーの世界みたいですね。ドラQのルーラみたいじゃないですか~」
いやいや、悪魔や妖がそばに居るんだから、既に肩までどっぷり浸かってるファンタジーじゃないんかよ……。
「そうと決まったら早速いくしかないかしら~。レッツラゴー!」
「行きましょう、アラホラサッサ~」
いや、なんだこのコンビは? 女性陣は残念な方向に向かってるぞ……。
『転移か、久しぶりだな』
「それじゃ、行くわよ」
「待ちなさいよ、妾を置いてきぼりにしないでほしいかしら」
「じゃ、大天狗様行ってきます」
「あぁ、頼んだぞ!」
こうして俺達は奥の院の小さな社を潜った。小さい社を潜った瞬間、視界が暗転した。京都から岡山まで一瞬で移動してしまった。転移! 素晴らしい~。
「なにやら楽しそうで羨ましいのぅ~。我もいつかは混ぜてほしい所ではあるが、こればかりはどうにもならぬしな。残念であるのぅ」
大天狗の寂しそうな呟きが風と共に消えてしまった。
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