10 頼りになる相談相手 / 聖也

 一本ダタラは天目一箇神アメノマヒトツノカミの姿を取り戻し、神器である天叢雲剣アマノムラクモノツルギ。別名、草薙剣クサナギノツルギの打ち直しをしてくれる事となった。


 打ち直しに必要な時間は三日間。俺達は当然暇になった。何をして暇をつぶすのか相談した。


「そりゃ~もう、グルメロケよ。和歌山ラーメンは、こってりからアッサリ系まで色々とあるらしいわよ。生シラス丼や三食DONド~ン丼や鯨のハリハリ鍋も外せないわね」

「う~ん、なんだか食い倒れみたいな事になってきちゃったな。大阪の道頓堀じゃないんだから……。それも良いけど、又鞍馬山に行ったらどうかと思うんだけどな。どうよ?」

「う~ん、そうね。あの天狗様は色々とヒントや手助けをしてくれるから、他の神器の行方も知っているけど惚けているのかも知れないわね。じゃあ、行きましょうよ鞍馬山に。でも、ラーメンと三食DON丼を食べてからにしましょう」

「まぁウーツキったら、それ美味しいの?」

「モチのロンです。エナさん!」

「じゃあ、行くわよ! モチのロン! で、大三元、ドラドラで。どうよ~」

「又、意味不明な事言ってる。ってエナさんそのロンは麻雀ですね。よく麻雀の役を御存知ですね」

「妾は博識だからかしらのぉ~。おぉ~ほっほっほ……」

「流石、エナさん!」


 ダメだこりゃ~。


 こうして又俺達はグルメロケよりも、先に鞍馬のグテングテン、いやテングドンに合う事になった。

 あれっ? 俺もおかしくなって来ちゃったな。大丈夫か、俺?



               



 そんなこんなで、ハイ着きました。京都――。


 まいどおおきに~じゃない、まいどお馴染みの鞍馬山。勝手知ったる庭の如く、奥の院へと遠慮も無しにズンズンとやって来た。

 例の千年杉の前で、卯月は上に向かって叫んだ。


「グテングテンの、天狗様~。あ~しまった、何で、グテングテンって言っちゃたのかしら? どうしよう~。怒られるわ、きっと……」


 どういう訳か、卯月は天狗様に向かってグテングテンと叫んでしまった。何、言ってんだよ、いくら何でも酷いんじゃないか。確かにグテンの中にはの文字は有るけれど、こりゃぁ~怒られますよ。


 すぐさま、空より声がする。


「おぉ~その声は、いつぞやの女子おなごではないか?~~。すぐ降りて行こうぞ、待っておれ~」


 卯月の叫びに対して反応が早い。反応が早いのは怒っているのか、待っていたのか、どっちだ?


 それは直ぐに分った。赤ら顔の鼻がデカい天狗様は上機嫌で俺達の前に現れた。


「ふぉふぉふぉ……。どうやら、お主等は一本ダタラを味方につけたようじゃな」

「天狗様は何で知っているんですか?」

「そりゃあ~我も昔はアマツカ……。ゲフンゲフン。まぁ、それは何だな。我の神通力でお見通しというものだ。所で、今回はどうした?」

「実は神器の打ち直しで三日間暇になったんで、天狗様に他に情報があれば、聞こうかと思ってやってきました。天狗様と一本ダタラの関係や、草薙剣がどうして烏山神社に奉納され封印されていたのか? 是非ともお聞きしたいと思っているんですが、教えてくれますよね?」

「それは良いが、話せば長くなるのでな~。そこらあたりに座るが良い。

 まぁ、薄々は感じ取ると思うが、アヤツ天目一箇神は、天之御影アメノミカゲをライバル視すぎておったからのう。鍛冶の頂点に立とうとする気持ちが強すぎるあまり、足が一本になり、目も片方失ってしまった。奇妙な姿となったが、鍛冶に掛ける想いは強すぎた。

 如何いかんせん、腕は良かったのだが、あの姿じゃ……。鍛冶の依頼も少なくなり誰からも依頼が無くなってしまったのじゃ。

 その事があって、天之御影アメノミカゲを妬み、自分の姿を呪い、あのようになってしまった。今回の神器の打ち直しは、アヤツにとって最後のチャンスだったのだろうな。恐らく良い成果が出ると思う。お主等も期待するが良い」

「そうか~天狗様がそう言うんなら、期待してもいいんですよね。それで、牛若丸とあの神器の関係はどうなんですか?」

「牛若丸は幼少の頃、我がここ鞍馬山で育てておったのじゃ。足場の悪い奥の院で修業をしていたから、アヤツ牛若丸の健脚は培われた。源平合戦での成果は出たのであろう。我の自慢の弟子でもあった……。

 壇ノ浦の合戦で武蔵坊弁慶が偶然にも、入水した天皇と共に草薙剣を救い上げたのは、我も驚いたものだ。まさか、神器の太刀が巡り巡って牛若丸に行きつくとは誰が想像できたものだろうか? 

 

 岩手に逃げ延びて鬼を成敗した時に、太刀からの波動にて解ったのだろうな。


 その太刀草薙剣は邪なるモノを断罪する太刀なのだと……。


 牛若丸は思ったのじゃろう。兄弟の争いが激しくなる中で、己の心に邪が巣食うのではないかと。自分も兄を憎んで邪悪な鬼になるのではないかと。

 家臣である弁慶はそんな牛若丸の気持ちが分っていたのだと思うぞ。もしも主君である牛若丸が鬼になると断罪するには、この神器:草薙剣しかないと思ったのじゃろう。

 気になる弟子のその後の動向を見ておったからのう。弁慶の想いは我に伝わり、そして神器をあの神社へ奉納したのじゃ……。

 簡単に奪われない様に寄木細工まで作り、そして鍵まで用意して巫女達によって守らせたのじゃ。こんな日が訪れる事が無い事を祈りながら……。


 これが、大まかな経由じゃな……」




 遠くを見ながら話す天狗の表情は穏やかでもあり、寂しそうでもあった。

 悠久の時を生きながら、時折人間に干渉したり見守る内に、同情めいたものを持ち合わせているのかも知れない。感傷に浸っている天狗は、どこか人の良い好々爺こうこうやにみえる。


「そうか~。私の家系にはそんな過去があったのね。びっくりしちゃったわ。神器を守る為とはいえ人成らざるモノが見えたり、武道に励まされていたのは、この為だったのね。おばあ様は何も言わないから……。でも天狗様のお話で全てが繋がり納得したわ」

「霊感が有ろうとも、心が弱くては妖には勝てぬ。武道によって心技体を練りぬかねば、神器を守る事は出来ぬであろう。

 先祖代々神代家が守っていた神器の封印は解かれたが、使える様に解放される日は近い。即ち、鬼がこの世に出てくる日も近いと言うことじゃ。もしかして、鬼はこの世の何処かに、既に秘かに潜んでおるのかもしれんぞ?


 そちらの御二方も、どうぞ力を貸してはくれまいか」


 そういって天狗は、エキドナとルークの方に姿勢を正して問うた。


「鬼ねぇ、恐らく妾の知っているいる鬼ならどうにか出来ようけど、ウーツキが困っているなら妾は容赦しないかしらね」

『そうだな、他の人間はどうでも良いが、コイツラが困るのは見逃せないな。それに俺は…………』


 ルークの語尾が気になるが、コイツラも力を貸してくれるそうだ。相手は人外だ。

 神器:天叢雲剣こと、草薙剣の打ち直しがどれほどの力を持っているのか、俺がそれを果たして扱えるのか、不安で仕方がなかった……。









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