9 上陸作戦 α-2

 哨戒ヘリのパイロットがミサイルの発射ボタンを押す瞬間、山頂から再び放たれた巨大な矢に、哨戒ヘリは避ける暇も無く無惨にも撃ち抜かれてしまった。


「し、しまった――。うぁ~~~」


 空中で爆発し炎上落下する哨戒ヘリコプター。

 落下する場所は仲間達のいる広場。






 空中で爆発するヘリコプターの数秒前、空から降ってくる3m級の巨大な矢が平原で待機している自衛隊の側に飛来する。


 ――ズシン――。ドス、ドス、ドス、ドス――。


 ヘリを狙った矢と、平原で集合し待機している人の集まりを狙った矢は、時間差でそれぞれを襲う。上空高く打ちあがった巨大な矢は、放物線を描きながら地上にいる獲物を襲わんと落下して来る。空中と地上。共に隙をつかれて気が付けば後の祭り。

 まるで罠に掛かったように追い詰められてしまったのだ。



 そして数秒の後、降り注ぐ巨大な矢と仲間のヘリが、爆発炎上しながら地上に落下して、多くの仲間を阿鼻叫喚地獄に誘ってしまった。


 万が一を考慮しまで用意した、戦車からの砲弾は一発も発射すること無く、巨大な矢の餌食となり無惨な鉄屑てつくずになってしまった。


 巨大な矢と、自分達のヘリや戦車や装甲車の爆発に巻き込まれる事無く、数人が生き残るが、山の麓から出てくる小さな人型に襲われていく。


 手にした機関銃を撃ちながら悲鳴だけが小さくなっていく。



 かたや、大型舟艇で無線連絡を受けていた山崎艦長は事態の異常さに驚いていた。無線越しに聞こえる音声は、叫び声と機械の爆発音だけだ。


「こちら山崎。哨戒ヘリSH-60K応答せよ。SH-60K、応答せよ」

「…………」

「こちら山崎。山口、山田、山根――。応答せよ…………」


 姿が見えない無線の彼方を祈る様に問いかけるが、返事は一向に帰って来なかった。


「一体島で、何が起こっているんだ………?」


 例の島の上陸作戦を行うも、予想だにしない結果になってしまった。


 大型舟艇間のブリッジから無線を繰り返すも、島に上陸した部下からの返事は帰って来なかった。


「何故だ、どうしてこうなった?」


 安易な行動では無かったはずだ。上空からは哨戒ヘリ。地上からは戦車と装甲車。それに付き従う隊員達は、自分の選りすぐられた部下だ。失敗する要因は無い。もしも有るとしたら、それは得体の知れない相手。急に沸いて現れた島に居た未曽有の住人なのかも知れない。何もかも情報が足りなさ過ぎる。


 念には念を入れたはずだが、もう少し慎重になれば良かったのかも知れない。しかし、件の島は移動している。早く手立てを打たないといけないのも事実。


 俺は、迂闊な判断をしてしまったのか? 50人の部下は、どうなってしまったのだろうか。くっそ~。


 山崎の後悔の念が己の胸を駆け巡る。


 しかしここで落ち込んではいられない、部下を失ったのは悔しくて悲しくて心苦しいが、島は移動している。早く、早急に手を打たなければ、本州が大変な事になってしまう。


 ここは、本部に連絡を入れなければ…


「こちら、山崎。アマテラス艦長・大森総監、応答願います……」


 山崎は、大型戦艦アマテラスの大森に無線を入れた。









「信じられない、例の浮島は一体どうなっているのか?」


 山崎から無線を受けた数分後に、大森は溜息を付いていた。


 調査隊のライブ配信での映像を再生してみても、見た事も無いモノ達が襲っている音声だけだ。

 血塗られた画像もあったが、信憑性に欠ける。この現代にそんな生物が生存するのか?

 今回の任務にて襲撃される場面は、軍事衛星からの映像で確認されたが、いかんせよ解像度が悪い。悪すぎる。デジタル加工しても、何かピントが合ってない様なピンボケ画像しか見えない。


 哨戒ヘリが攻撃され爆発炎上し落下する映像は確認出来た。平野に集まる隊員達の逃げまどう大まかな行動も把握出来た。又、隊員達を襲う、謎の生物の数の多い事も確認出来た。


 後は、どう処理するだけだ。又、この島を調査するのか? それとも有無を言わさず、大型ミサイルで島を攻撃するのか? 潜水艦で移動する島を海底から攻撃し、移動を阻止するのか? 大森は頭を悩ませていた。


 どうすればいいのか? 即決は出来ない。命の多さを天秤に掛ける訳にはいかない。


 そんな折に、首相官邸から直電が入った。


「防衛庁の岸和田だ。今回の任務についてだが、こちらでは例の島の内容を既に把握している。

 聞けば移動する島の危険性は大だ。地底に根を張っていない浮島だけに、どこに向かうか解らない。幸いにも、進路はおおよその動きは掴めている。

 日本の国を危険に晒す訳にはいかない。コチラとしても淡路島に衝突する浮島は放っておけない。直ちに大型ミサイルで島を攻撃すると共に、海底から潜水艦によって島の海底部を同時攻撃する案が可決された。

 大森君、君も戦艦アマテラスと共に現場に急行し、魚雷と主砲の準備をして攻撃に参戦する事を命じる」

「岸和田長官、ちょっと待って下さい。確かに今回の作戦は失敗したかも知れませんが、まだ生存者がいるかも知れないんです。せめて、生存者の救出を待っていただけませんか?」

「何を言っている。そんな猶予が有ろうか? 事態は一刻を争っているんだぞ!」

「それでも、ど、どうか……。せめて、三日、いや一日だけでも、上空からアパッチを飛ばして見れば、今回の哨戒ヘリよりは確認が確実に出来ると思います。それでも生存者の確認が出来なければ、私もアマテラスと共に島の爆破作戦に参戦します。どうか、お願いします。長官!」

「—―、う、ううむ。仕方がない。確かに、防衛庁のスパコンスーパーコンピューターでの島の移動速度と、島と淡路島の距離を算出すると、今の時点で七日と計算されている。島に攻撃した時の余波などを考慮すると、三日、いや余裕をもって一日だけ猶予を与えてもいいだろう。しかし、事は急を有する! 一分一秒を無駄にするな。移動する島の座標が警告地点に来たら、こちらは攻撃をする。

 日本の国の国民と、島の生存者の命を天秤に掛ける訳では無いが、私としては多くの命を守りたいのだ。解るだろう」

「解りました、長官。これより私は準備を行い、島へ向かいます」

「解った。無理をするなと言いたいが、時間がない。その事を肝に命じよ!」

「はっ、了解しました」


 厳しい判断をした岸和田防衛庁長官。確かに移動する島が、日本の国に衝突する危険性をおびているのは、何としても回避したい。


 まだ生存しているかも知れない自衛隊隊員達の事を思えば救出はしたい。一本のわらに縋る思いで、部下や仲間達を救いたい。


 時間が無い。自らを奮い立たせる様に、戦艦アマテラスのデッキで大森艦長は艦内にげきを飛ばした。


「これより、戦艦アマテラスは例の島へ向けて出港する。呉駐屯基地には既に連絡を入れている。呉より攻撃用ヘリAH-64 アパッチ4基が此方の甲板に到着し次第、出航する。今回は、救出が最優先。最悪、攻撃も伴う。各部主砲の砲弾と魚雷の管理と点検は確実に行う事。以上だ!

 全員、各配置に着け――!」

「「「了解しました‼」」」


 戦艦アマテラスの艦内に緊張感が伝播した――。








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