8 上陸作戦 α-1

 やがて、山崎一等海佐の指揮する大型舟艇と数隻の護衛艦と哨戒艦は、目標の島が肉眼で見える距離まで近づいた。


「全艦停止! これより、例の島に上陸作戦を開始する。作戦名は【プロジェクトα】まずは哨戒ヘリコプターSH-60Kにて上空から先導してもらう。

 各大型ホバークラフトには戦車と装甲車を配置し、乗員はすぐさま準備する事! 

 尚、各護衛艦と哨戒艦はホバークラフトが島に上陸するまで護衛に集中する事。

 全員インカムを使って情報の共有化を図れ。

 上陸したら、各戦艦は島を囲む様に待機し、小型ミサイルと70㎜砲で攻撃出来る準備をする事。以上だ!」

「「了解しました!」」


 山崎のげきに隊員達の緊張感があがっていく。これはいつもの演習では無い。実演なのだ。一瞬の判断で負傷者が出るかも知れない。それに、この島は情報が無さ過ぎる。【チーム・大林】のメンバーだけでも27人も行方不明なのだ。最初の行方不明の若者や、漁船の乗組員達も数えれば何人いるだろう。生死の確認すら出来ていない。


 ライブ配信から流れ出た映像を見る限りでは、生存者は皆無かも知れない。


 移動し本州に衝突しようとする島は、今すぐにでも大型ミサイルで破壊した方が良い。しかしそれは安易に決定は出来ない。島での生存者の確認と、一体島で何が起こっているか。などの確認が最優先なのだ。


「SH-60K発進します」


 一足早く大型舟艇の甲板から哨戒ヘリが飛び立っていく。その騒音の中、ホバークラフトにて待機している隊員達の鼓動が早鐘を打つ。


「これよりホバー01。一班の山口。戦車と隊員20名にて発進します」

「了解!」

「ホバー02。二班の山田。装甲車と隊員20名にて発進します」

「了解!」

「ホバー03。三班の山根。隊員達の食料三日分及び生存者の医療物資を乗せた大型トラックと隊員10名にて発進します」

「了解! 全員無事を祈る」


 大型舟艇の船尾が開き、三台の大型ホバークラフトが勢いよく海に向かって出航した。


 そして哨戒ヘリの後を追う様に、大型三台のホバークラフトは勢いよく島を目指して駆け抜けていった。







 やがて哨戒ヘリは島の上空に着いた。上空から島を一周するが、肉眼で目視出来る範囲では生存者も確認出来ない。熱センサーでも変化が見られない。 


 高度を下げないと無理か?


 ヘリのパイロットは高度を徐々に下げる。すぐさま目に入るのは島の中央の山。

 その山の頂には岩で創られた城のような建造物が佇んでいる。急に降って涌いたような島に、人工物である城のような建物は、あまりにも不自然だ。島の上空を旋回しながらパイロットは思案していた最中、無線が鳴った。


「こちら、ホバー01。SH-60K応答せよ」

「こちらSH-60K。ホバー01どうした?」

「只今、島の周辺まで移動した。どのルートが最短で最適か上空から支援されたし」

「了解。こちら上空から見ると、2時の方向に入り江が確認された。そちらから上陸するのが最適だと思われる」

「了解! これより2時の方向の入り江に向かう。ホバー02、03も後続するように」

「「了解!」」


 こうして例の島に海上自衛隊隊員50名が上陸を決行した。


 3台の大型ホバークラフトは入り江から上がり、戦車を先頭に装甲車が続き、大型トラックと歩兵部隊が周辺を警戒しながら島の中央へと進んで行った。


 島に上陸し上空の哨戒ヘリに先導され、まずは戦車が先頭に行く。大所帯が移動するには道が無ければそれだけで時間が掛かり過ぎてしまう。多少の木々などは戦車のキャタピラで踏み潰してしまう。その後に装甲車や物資を積んだトラック。更には歩兵部隊が扇型に散開して上陸するという、念には念を入れた上陸作戦だ。


 そして見晴らしが良い開けた場所を選び、そこを中心に周囲を捜索し生存者の救出を図るのが今回の作戦だ。未知の生物との接触によって戦闘になる場合も懸念されるが、今回に限り人命が最優先される。それは他人であろうと自分自身であろうとも最優先事項だ。


 見晴らしのいい広場に集まった隊員達は、上空を飛ぶ哨戒ヘリの次への指示を待った。


「こちら山口。SH-60K応答せよ。次の指示を待つ」

「こちらSH-60K。只今島の中心地を旋回中。島の中央には山が確認された。山の頂には何か建造物が確認出来る。少し降下して確認する。しばし、待て!」

「こちら山口。待機します」


 哨戒ヘリのパイロットは高度を下げ山の頂の建造物に近寄った。するとその付近で、何か動くモノがあった。


 なんだ? 何かいるのか?


 不穏な空気が漂う島に、副パイロットは熱センサ―を照射した。すると低空飛行していた為か、何かが熱センサ―に反応した。モニター上に移る赤い点はそれも一体では無い。山の建造物に100程度。山のすそ野の近くからおびただしい数の反応があった。


「うぁ、何だ、こ、これは、これは直ぐに上昇しなければ……。ぜ、全軍、退避しろ。そこにいては危ない。密集していると狙われる。は、早く海岸のホバーに戻れ――! 急げ!」


 焦る副パイロットは叫ぶ。操縦桿を握る主パイロットは危険を察知してヘリの上昇を行った。



 そのヘリが居た空間を何かがすり抜けて行った。

 

 それは、大きな矢。3mはあろうかという巨大な矢が空を飛んでいた。まるで山頂からバリスタの様に固定された兵器が、空に浮かぶ物を追撃しようとしているようだ。


 ヘリは上昇し一矢は避けたが、次から次へと連続して襲い掛かって来る巨大な矢。空中をジグザグに回避しているがここは一旦、距離を取らねば撃ち落されてしまう。パイロットは回避と共に攻撃する事を選んだ。


「くっそ、何が起こっているんだ。こっちには小型ミサイルが4発搭載している。こうなれば、警告を兼ねて一発ブチかましたれ!」

「了解! 標的をロックオン! 発射!」


 哨戒ヘリから放たれた小型ミサイルは山頂の建造物から離れた場所に命中した。その場所は矢を打ち出している場所。山頂の建造物付近で熱センサーに反応している場所だ。

 大きな爆発音と共に、岩の瓦礫を辺りに撒き散らす。


 その爆発音に驚いたのか、山頂からの射撃は一旦収まった。難を逃れた哨戒ヘリは平原で待機している仲間達の様子を上空から見た。


 すそ野にいる熱センサーに反応する赤い点は、地面にいる仲間達を囲もうとしている。


「ダメだ、このままでは仲間達が囲まれてしまう。先程このヘリを巨大な矢で撃ち堕とそうとしている輩は、好意的ではなさそうだ。

【チーム・大林】を襲った謎の生き物達が狂暴なら仲間達の命も危ぶまれる。後、小型ミサイルは3発ある。一気に発射しますか?」

「仕方が無い、仲間の命には代えられない。山のすそ野に反応する点が多いから、その辺りを狙え!」

「了解!すそ野をロック、ぉ…………」


 仲間を心配するあまり、山頂からの大型の矢の攻撃を一瞬忘れていた。


 ミサイルの発射ボタンを押す瞬間、山頂から再び放たれた巨大な矢に哨戒ヘリは撃ち抜かれてしまった。


「し、しまった――。うぁ~~~」


 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る