7 天目一箇神 / 聖也
【
滋賀県周辺の古墳の出土品からは銅鐸や刀剣などが見つかっている事から、古来より近江には鍛冶の技術が根付いていたようで、中世以降は刀鍛冶として発展し、その後、鉄砲が戦争に用いられるようになってからは鉄砲の生産地としても広く知られるようになった。
このように鍛冶仕事が盛んな地域であったからこそ、
「一体、何処で
「その前に、これも見て貰えますか?」
俺は鞍馬の天狗に貰った首に掛ける数珠も見せた。大小の樹の玉からなる数珠。大きい八ツの玉には梵字のような文字が彫られている。それを手に取ると、一本ダタラの顔色が変わる。
「こ、これは、……鞍馬山の太郎坊の数珠。これは、過去を清算をせよとの事なのか? この時代になって……。おおぉ~ん…………」
過去に何があったのか解らないが、どうやら鞍馬の大天狗とも顔見知りなのだろう。確かに大天狗が言っていた。この数珠を見せれば協力してくれる妖がいるかも知れないと。この一本ダタラは協力してくれる事を大天狗は見越していたのだろう。
ひとしきり泣くと一本ダタラは落ち着きを取り戻した。
「あい、わかったズラ。積年の想いを此処で晴らす事が出来れば、オデも本望ズラ。
しからば、ウヌの持っているその太刀を、オデに任せては貰えぬじゃろうか?」
「えっ、この刀を鍛え治してくれるんですか?」
「ああ、オデもかつては神のハシクレじゃったが、今では
オデは、鍛冶に集中しすぎるあまり、
おまけに、鞴の踏み過ぎから玉鋼を造る時に、火の粉が目に入って一つ目になってしまったズラ……。
こんな姿をしてっから、幾ら腕が良かったって、誰もオデの事を見向きもしなくなってしまっただ。変わりに、
こんな姿になっても、神器を見せられたら昔の鍛冶魂に火が付くんだでな。せめて、後一度だけでもええから、太刀を打ちたいと思っておったズラよ。
そして大天狗からの数珠を持っているウヌ等は、きっと
そう言うと、一本ダタラは山に向かって歩き出した。片足しかない歩き方はピョンピョンと飛んで歩くかと思いきや、滑る様に山肌を移動していく。
やがてズンズンと山奥に進み、一本の滝のある場所で止まる。河童の三平の居た淵では無く、小さいながら滝があった。その滝の流れる山肌の横には、洞窟の様な穴が開いている。どうやら、此処が住処兼、工房なのかも知れない。
その洞窟に無言のまま、一本ダタラは奥へ進んで行く。途中に枝分かれした場所があり、入り口に近い場所には大きな広場になっている。その場所は、タタラ製鉄に必要な炉が鎮座していた。巨大な
そしてその場所に不似合いな神棚の様な棚があり、その上に溶岩の塊の様な物が有った。
「こでは、かつて現役の時に使っていた
「あ、ああ、良いですけど、本当に大丈夫ですか?」
俺は
「おぉ~この太刀から
『何だ、玉鋼のレベルが合わないのか?』
「打ち直しをしたいと言ってみたんが、これは双方が釣り合わねぇかも知んねぇ。チャンスは一回ポッキリだでな。失敗したら、この神器の太刀は使いもんにならねぇかも知んねぇ……」
『そうか、それならコレを使えばいい。ほれ、俺が昔、魔剣を造ってもらった時の余り物だ』
そう言って、ルークはどこから出したのか、桃色の溶岩の塊を一本ダタラに投げ渡した。
コイツは、魔剣レバーティンを空間から出し入れするから、何処かに異次元ポケットが有るのかも知れない。おい、お前は、ドラ〇もんかよ? もしかして、自分の頬袋から出したんじゃないよな?
それを見た一本ダタラの表情が激変する。
「こ、これは……。もしや、ヒ、ヒヒイロカネ? どうして、この様な物を……。
いや、これさえ有れば、最高の打ち直しが出来ようぞ。アリガタヤ、この神器の打ち直しに、オデの全身全霊の力を掛けて蘇らせてみせようぞ。感謝だ。ウヌ等に、感謝を!」
そう言うと、一本ダタラの全身に不思議なオーラが
全身毛むくじゃらに一本足の一つ目の奇妙な姿から、人型の姿に変わった。勿論、二本足で失われた目も揃っている。
「おぉ~これは、かつてのオデの姿。最後を飾るにはやはり一本足の一つ目では最高のモノは打てぬ。大神様よ、オデに最後の舞台をくれて有り難き幸せ……。感謝を。
スマヌが、せめて三日間の猶予をくれぬか。さすれば、この神器を再び世に蘇らせてみせようぞ」
「ありがとうございます。一本ダタラさん。いや、さんじゃなくて、元
「あい解った。さすれば、用意をしなければならんな。
久々の大仕事。先ずは、火力を用意せねば。【つるべ火】よ、来てくれ! そして炉に火を灯してくれ」
一本ダタラいや、天目一箇神は空に向けて言うと、数分後に火の玉がボンヤリと浮かんだ。
「—―ひさかたぶりよの、一本ダタラよ。おや? 何か、お主の
「積もる話はあるのだが、今回は何も言わずオデに協力をしてくれ。かつての後悔と最後の鍛冶のチャンスを、三日間協力してくれ。
これ、この通り……頼む」
「……まぁ、そんな事言うまでもないわ。我も長い間、退屈にしておったからな。お主の言いたい処は何気に分からんではないわ。鍛冶か、久方ぶりよの。我の火力が必要ならば、存分に使うがよい」
「おぉ、すまぬ。我に力を貸してくれ」
「造作もない事よ。よいか、今から行くぞ! はぁ――――!」
良く分からないが、呼びだした妖の火の玉は、景気付けなのか通常運転なのか、やたらと騒がしく音を立てて燃え上がると、一本ダタラの炉の中に掻き消えて行った。
炉の中のコークスに火が燃え移ると、更に火の温度は上がっていく。
「いきなり熱くなっちゃったな。それじゃ、俺達はここに居てもやる事がないから、一旦引き上げようか。
「おぉ~解った! 楽しみにしておられよ……」
俺達は一本ダタラから
「そう言えば、和歌山の名産は何だっけ~?」
「オ~ィ、キュウリヲワスレナイデ、クレヨン~~」
何か、聞こえたか? 又いつもの空耳か? 気にしないでおこう……。
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