19 スピード狂

 真っ赤なフェラーリに乗って、やる気満々な弥生の姿に葉月は闘志を燃やす。


「ふん、今度もワシが勝ち越しじゃ~。おい、幸四郎、スタートの合図を出すんじゃ~」

「いいですか、怨みっこなしですよ。このタコが落ちたらスタートです」


 あららら、ら、いつの間にか卯月の父親の幸四郎が居た。どこにいたんだ。


 はぁ~? おい、ちょっと待て! 普通ならコインじゃないのか? コイントスじゃなくて、タコトスだと? タコはオクトパスじゃないか。ならば、タコパスじゃないか?

 いやいや、そんな事はどうでもいい、お父さん何でタコなんですか?


「いや~今朝、釣って来た生きの良いイイダコは、まさに今回のレースに相応しい。さあ、行きますぞ。両車、用意は良いですか?」


 ここで又、お笑いのニドサンド・ウッチマンのセリフが出てしまった。


「いや、何言ってるか意味が解んないですけど……」

「ウダウダ言ってる間に、早う投げんか~」

「ハハハッ、又怒られてしまいました。聖也さん、シートベルトはしっかり装着して下さいね。では、そろそろスタート!」


 いや、何でこんなことになってるのか、大事な事だからもう一回言うぞ。

 しかも、い~い声で。


「いや、なんでタコトスなんだ? 何言ってるか意味がサッパリ解んないですけど……」


 2台の車の間でコイントスじゃなくタコトスをする卯月の父親・幸四郎。


 両車間の間からタコが空に向かって投げ出される。クルクルと回るタコ。

 そして、重力に引き落とされ地面にベチャリと落下し、スミを吐いた。


 グウォーン――! ギュルギュルギュル――! 


 明らかにオーバーキルのホイルスピンと爆音を決め込むと、2台の車はロケットの様に飛び出してしまった。






 俺は白目をいたまま駅に着いた。


 歩きは1時間は軽く掛かった気がするが、スーパーカーだと5分も掛からなかった。明らかにスピードオーバーだ。あの小山からの下り坂道でドリフトを決めまくっていたからな。まるで遊園地のジェットゴースターに匹敵するぐらいの迫力だった。

 

 白目を剥くのは、エキドナの使役するキメラに乗って空を飛んだのが最近の出来事だ。

 あれに匹敵するとは恐ろしい。急カーブを‟キエェ~”とか”オリャァ~”とか、奇声をあげながらドリフトで駆け回る運転手が高齢者だったら、隣に乗っているだけで肝を冷やしてしまう。あんな運転テク何処で身に着けたのか。もう、母娘して根っからのスピード狂なのかも知れない。


 もう、二度と隣の席に乗るのはカンベン願いたい処だ。警察に見つかれば一発免停確実だ! 


 勝負の行方は僅差で葉月の勝利で終わった――。バアちゃん凄ぇな!





 卯月の家族に見送られて、フラフラしながら駅の中に入る。


 俺と卯月がローカル線の駅の中に入ると、すう~っと後ろに気配を感じた。

 振り返ると、エキドナが満面の笑みをして立っていた。エキドナの右肩にはルークが座っていて、相変わらずモキュモキュしながら何か食っていた。


 ってか、エキドナの衣装は着物を着崩して着ていた。


 何だ! どうした、エナさん? 何だか花魁おいらんみたいな恰好ですけど、大丈夫か……?


「オンシの顏を見ると楽しそうでありんしたね? 何か良いお話は聞けたでありんしたか? アチキも、美味しいマグロをいただけたので今日は最高に気分は良いのでありんすよ~。ホンに大トロは口の中で溶けてしまい、マイウ〜♡でありんしたよ。良きかな、良きかなでござりんしたどすえ〜」


 なんだ、エナさん。上機嫌なのは解るが、話し言葉が変でありんすよ~。うぇ、俺まで喋りが移るじゃないでありんすか~。


『で? どうだったんだ。いい話が聞けたんだろう?』

「そうなんだよ。ルーク、聞いて驚け見て笑え! じゃないけど、三種の神器の一つ、草薙剣クサナギノツルギが見つかったんだ。だけど、今のままじゃ使い物にならないから又、鞍馬の天狗に会って相談しようかと思っているんだ」

『そうか、なるほど。お前が持っている、その物が神器なのか? 

 確かに、何やらパワーが有りそうだが、何か曇っている状態みたいだな。

 それで、それが使えるのは卯月じゃなくて、聖也。お前の方みたいだが……。そうなのか?』

「ああ、そうなんだ。卯月ちゃんの家族は誰も鞘から刀身を抜くことが出来なかったんだ。試しにやったら、俺が抜けちゃったんだ。

 だから又、鞍馬山へ行って天狗に相談しようと思っているんだ」

『そうか、やはりそうなるのか。では行こうじゃないか、グテングテンの所へ!』


 いや、グテングテンは酒に酔ったエナさんの状態だろうし……。ってか、ルークも冗談が言えるんだな。


 そう言いながらローカル線に乗り、座席の窓から葉月と弥生に別れの手を振った。


 こちらを見送る二人は、俺達の方を見るとギョッとした表情をして固まっていた。

 おい、二人共あごが大きく開いているぞ!


「ガォ~ン」でた、出ました! 

 久しぶりに見た、アゴンゲリオンの新型機が二体でシンクロしているぞ。


 あぁ、そうか。きっと二人には見えていたんだな。ルークとエキドナの膨大な魔力が……。


 エキドナの姿は誰でも見えるだろうけど、霊感があれば尋常じゃない妖力を垂れ流しているのが見えるらしいからな。そりゃ驚くだろうな。


 これは困ったな。後々、勘違いされない様に後で卯月に電話で説明させないとエライコトになりそうだ。

 

 でも信じてくれるだろうか? 堕天した天使が側に居るなんて……。









 天叢雲剣の章    了



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ここまでお読み下さり誠にありがとうございます。次からは「鬼の啼く島編」です。

 

 神器の一つ、草薙剣は見つける事は出来ましたが、どうやら錆付いてて使えそうにありません。神器復活と次の魔物の話は並行して進んで行きます。


 インキュバスによって召喚された残りの三体の一人。どのような魔物なのでしょうか? 前編の繋がりだと、どうやら鬼が出て来そうですが?




「ルークとエナさん、次はどうやら鬼が出てくるみたいなんだけど、どうしよう?」

「日本の鬼と云えば、妾はアニメで勉強したかしら。鬼軍曹や鬼嫁をとっちめる若い兵隊さんのお話よね~。確か、キツネの八重歯がかなりキツメだったかしら? 」

「何いってんですかエナさん。鬼と云えば仕事の鬼じゃないですか? サービス残業のしすぎで、心を病んでしまう悲しい中間管理職のサラリーマンのお話ですよね。うぇ~ん」


 何で泣くんだ卯月ちゃん。エナさんとなんか訳分かんない事言ってるけど、大丈夫か?


『お前等、何ふざけてんだ! 鬼が出ても大丈夫だ。鬼が出たらこの豆をぶつければ良いんだ。【鬼は~外】ってな。ん? この豆は結構美味いな。ポリポリ。ダメだ、この豆は俺様が頂く事にしよう。ポリポリポリ……』


 この愉快な仲間達は大丈夫なんでしょうか? 書いてる作者も心配になってきちゃった。^^;


 次編。こう、ご期待! (〃ω〃)


 お正月からの予定は又、近況ノートで連絡します。

 

 明日も仕事なので一足早いですが、皆さん大変お世話になりました。良いお年をお迎え下さい。🎍

 来年もどうぞ宜しくお願いします。 

 (=^・^=)


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