18 相談相手は?


 神殿から部屋に入ると、俺は卯月に説明を頼んだ。神殿で起きた出来事は、かなりショッキングな内容だったからだ。俺はパニックの寸前だ。


 俺は布団の上に座ると卯月は正面に座る。


「はぁ~ビックリしたよ。何が何だか、未だに理解できないよ。卯月ちゃん、悪いけどもう一回、俺に分かる様に言ってくれないか?」

「そうよね。混乱するわね。私だってビックリしちゃったわ。まさか、この神社の御神体が、失われた神器の一つ、草薙剣クサナギノツルギだなんて。私も初めて聞いたから、もう~ビックリしすぎて腰が抜けそうになったもんね。

 でもアレって、使えるのかな?」

「なんだよ、卯月ちゃんも知らなかったのかよ」

「そうよ、私も初めて聞いたから……」

「じゃあ、伝承の話も聞いてなかったの?」

「そうよ。聞いてないよ~よ。多分、お母さんも聞いて無かったと思うわ。だって、ああいうのは、代が変わる時に伝えるはずよ。

 封印がどうのこうの。とか、弁慶が壇ノ浦で海からすくいあげたのが草薙剣だなんて、話がぶっ飛んでるもの」

「でもさぁ、弁慶は刀を集めるのが好きなんだろ。1000本目に牛若丸に出会った。て聞いてるし、まんざら嘘でも無い様な気がするな。鞍馬の天狗も岩手の巫女のワードで何となく納得していたみたいだから。もしかして、あの天狗が弁慶から預かって、この神社へ草薙剣を持って来たとしか思えないよな。まさかの寄木細工の鍵まで持っていたからな~」

「でも、封印解いたから、鬼が出るんでしょ? 怖いなぁ」

「鬼か~。鬼軍曹や鬼嫁や、仕事の鬼なら良いんだけど、俺の想像する鬼だったら、怖いな~。今回も、ルークに丸投げするしかないな」

「そうね、相手は人外だから……。

 聖也さん、もう寝ましょう。明日又、おばあ様と話があるから、その時に詰んだ話をしましょう」

「ああ、そうだな。卯月ちゃんもお疲れ様。また明日ね。お休み~」

「お休みなさい~」


 こうして、卯月は自分の部屋に帰っていく。


 俺は色々頭の中を整理しつつも、眠れぬ夜を迎えながら俺は横になった。


 堕天使ルーク。インキュバスとナイトメア。エキドナとキメラ、ワーム、ゴーレム。そして次は鬼か? 一体何処で、どんな鬼が出てくるのか? 


 考えると出てくるのは、溜息しか出てこなかった。ふぅ~~~~。





 ◇ ◆ ◇ ◆




 翌朝、卯月に起こされて居間のテーブルへと向かった。勿論、朝食の為である。


 居間に向かうと、母親と祖母も揃っていた。父親の幸四郎の姿は見えない。


 俺もテーブルの前に座りメニューを見る。炊きたてのホカホカのご飯。卵焼き。焼きのり。焼いた塩鮭。納豆の隣の小鉢に白い芋を摺ったようなモノがある。ひょっとして、これは自然薯か? 味噌汁はワカメと長ネギだ。漬物はキュウリと茄子の浅漬け。

 これは和食の定番だ~。美味い。全てが美味い。妖の宿の飯も美味かったが、この朝食も負けて劣らずだ。納豆に少しの自然薯をかけてウズラの卵を更にかけて混ぜる。納豆の香ばしい香り。納豆と自然薯のネバネバとウズラの生卵の濃縮されたエキスが、白米の上で踊るぜ。ウンメェ~まいう~だ! 食欲をそそる~♪


 こ、これは……エナさんがいたら、スイッチが入るんじゃなかろうか?


 和やかな談笑をしながら朝食が終わると、祖母である葉月が一言。


「大事な話がある。この後、神殿に集合じゃ。心して参られよ」


 と不吉な言葉を残して去った。


 俺は卯月と弥生を見ると、二人は頷いた。これは、良くない事だと瞬時に判断した。何があったのか解らないが、嫌な予感しか浮かばない。


「じゃあ、俺は先に行くよ」

「聖也さん、片付けたらすぐに行くわ。後でね」

「ああ……」


 俺は一人で神殿に行くと、神棚に背を向けて巫女装束姿の葉月が、此方の方向に向かって正座していた。葉月の目の前には、例の草薙剣クサナギノツルギという古ぼけたつばの無い日本刀が一振り。


「聖也殿、すまぬが、もう一度この太刀をさやから抜いてくれぬか?」

「ああ、いいですよ」


 葉月から気迫のようなものが感じられた。諦めなのか、期待なのか、分からないが、俺は太刀を手に取り鞘から抜いた。

 それは、昨夜見た古ぼけて見える赤錆が着いた太刀。刀身からは何か得体の知れない力を感じる。


「スマンが、その刀を渡して貰えぬか?」

「ああ、いいですよ。どうぞ……」


 俺は鞘から抜き放った刀身を葉月に渡した。いくら古く赤錆が着いた刀身と云えど、慎重にならないといけない。何しろ、この太刀は失われた神器の一つ草薙剣だというのだ。


 葉月は俺から渡された太刀を手にすると、暫く太刀を食い入る様に見つめていた。

 そして、ふぅ~と溜息をついた。


「やはり、幾らこの御神体を先祖から守りついでいたとは云え、このワシには扱えぬ存在じゃな。悔しいが仕方が無い。お主、いや聖也殿に託すしかないのじゃろう……」


 葉月が諦めの顏をしながら話していると、神殿のふすまが開き、卯月と母親の弥生が現れた。

 二人の登場に葉月の鬼気迫る雰囲気は薄れた。二人が俺と葉月の両脇に一人づつ座ると葉月は話始めた。


「昨夜、神器の封印解除をしたと式神を飛ばした。一門の鍛冶師か、その関係者がいれば対応出来るのかと思っていたら……。残念ながら、良い返事は帰って来なかった。更に、悪い報告が来た。

 近くの平泉の義経を祀っている社に雷が落ち、義経の木像が真っ二つに裂けたそうじゃ。これは、よからぬ前兆ともとれるが、どうしたものか?……」

「おばあ様、そうなれば私に考えがあります」

「何じゃ、言うてみればえぇ、卯月」

「実は昨夜思ったのですが、あの寄木細工のカギを貰った鞍馬山の天狗を訪ねようと思っています。どうやら、あの鞍馬の天狗は、こうなる事を予見していたのでは無いかと? だから封印解除の鍵を渡してきたのでは無いかと思うんです。そうすれば、何か手段が有るかと思っております。」

「ふむ、確かにそうじゃな。妖は不思議な力を持っておるからのう。今や手段が無くなってしもうたから、行くしかないのじゃろう。

 行くがよい。卯月と聖也殿。よろしく、頼む。いや、頼みます。どうか、この国を救ってくだされ」

「わ、解りました。俺は霊感が無いけど、やれる事はやってみます」

「そうよ、私も頑張るわ」


 こうして、俺と卯月は草薙剣を手にして、卯月の実家から京都を目指す事にした。


 錆付いているとは云え、刀剣はそのまま持ち歩いていれば銃刀法違反で警察に捕まってしまう。

 刀を隠す為の長い袋に入れて移動する事にした。聞けばこの家代々に伝えられている、刀を入れる専用の長い袋が有るそうだ。聞けば西陣織らしい。結構派手な柄だ。ここの家系は古武道をやっているから、葉月は真剣も持っているそうだ。真剣で演舞する際に、この袋に入れて移動するそうだ。


 卯月の実家で少し早めの昼食を食べて出る事にした。このお昼の食事も豪勢だ。俺に気を遣ってくれているのだろう。今まで一人暮らしをしていたから、本当に美味しかったのだ。


 食事を終えて神社の境内に出た。又、あの長い階段を降りなければならないのか? と思っていたら、住居用の建物の裏から車の排気音が聞こえた。


 この音は改造車の音だな? アクセルを吹かすマフラーからの爆音が凄ぇ~。


「聖也さん~こっち、こっち~」


 卯月が手招きをするので、後について行った。


 そこには爆音を響かせる、1970年代のド派手な真っ赤なシボレーコルベットが有った。その車から降りた人物を見て俺は更に驚いた。


 先程の巫女装束から着替えた葉月の格好は、白Tシャツにジーンズ。頭には赤いカチューシャを乗せて、黒いサングラスを掛けている卯月の祖母の葉月。


 さっきの巫女装束の雰囲気とは打って変わって、メチャクチャ若く感じる。イケメンじゃなくてイケ老婆とは、この事かも知れん。な、わけない……。


「聖也殿、駅まで送って行こう。さあ、乗った、乗った!」

「え~これに、乗るの? これって二人乗りでしょ? 俺が乗ったら、卯月ちゃんはどうするの? で、道はあるの?」

「心配せんで、ええ。卯月は、ほれ、あの通りじゃ。それと道がなけりゃ、お祭りも出来んじゃろう。この裏に片側二車線の立派な道が駅まで通っておるわ。勿論、この神社からの完全な私道じゃがな。ヒョヒョヒョヒョヒョ……」

「えっ、そうなんだ」


 わざわざ道を造ったというのか?


 方や、遅れて奥からもう一台車が出て来た。今度もスポーツカーだ。それも爆音を翻して現れたのは、真っ赤なフェラーリ。しかも運転手は卯月の母親、弥生だ。


「ひえぇ~」


 何だ、この家族は金持ちなのか? シボレーにフェラリーなんて金持ちの道楽者しか買えないんじゃないのか。


お義母さんクソ婆~勝負よ!覚悟しろ!


 フェラーリから降りて来た弥生の姿はやる気満々に見えた!










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