5 河童 / 聖也


 鞍馬の大天狗から、かつての鍛冶神の話を聞いた。


 それは、かつて天津神アマツカミの流れを汲む零落した神。その神は何があって零落したのかは解らないが、今や一本ダタラという畏怖の姿をしているそうだ。


 ホテルに泊まり朝食を採った後、目的地までレンタカーで移動した。


 それは和歌山県と奈良県の堺の果無山脈に現れると言うらしい。


 

 取り合えず、目指すは熊野国立公園。車で行けれる所まで進み、後は徒歩だ。


 俺達は卯月の霊感を頼り、卯月・エキドナ・俺とルークの布陣で進んだ。幸いな事にエキドナが地属性持ちなので、富士の樹海の時に使った技がある。


 エキドナに頼み、お願いした。


「任されたわよ~。――Moveどけろ!――」


 エキドナの魔法で、目の前の木々が道を譲る様に左右に避けた。そして俺達が歩きやすい様な道が出来た。


「エナさん、ありがとうございます~」

「へへん、どうよ!」


 前回もそうだったが、褒められるとドヤ顔をして胸を張る。たわわに実った巨乳がここぞとばかりに自慢する。実にけしからん胸だ。ウヒョヒョ~。


 卯月の霊感で河童を捜す。辺りの草花から情報を得て、山奥の沢を目指した。


 そして歩く事1時間後、ようやく俺達は沢に辿り着いた。どこから涌き始めたのか水が溜まり、下流へと流れている。水は透き通り岸底で泳いでいる魚も数匹見える。試しに、手で水を掬ってみると、夏の暑さにも拘わらず、とても冷たい。水深は浅い所で膝位で深い所だと、底は見えない。


「この辺りに、河童が居るみたいね? 沢と云うより、淵ね。

 じゃあ、例の道具を使ってみましょうか?」

「マジかー! でもさぁ、あの大天狗が言っていた道具って、これだよ。こんなもんで河童が捕まえられるのかよ?」

「ものは、試しょ。えい!」


 卯月は鞍馬の大天狗に言われた事をした。50m位の細いロープに、あるモノを括りつけて沢に、いや淵に投げ込んだ。


「そんな訳ないよ。絶対、あの大天狗はふざけているとしか思えないよ」


 卯月がロープを投げ込んで数分後、ロープが淵の奥に引っ張られた。


「来た――――! 来たわ、エナさん、替わって下さい。私じゃ、力負けしそう~」

「了解よ、ウーツキ。妾に任せるがよいかしら。こう見えても、大間でマグロを仕留めた実力をみせようかしら。ヒャッハ――!」


 やっぱり、‟ヒャッハー!”って言ってるし。エナさんは俺達が卯月の実家に行っている間に、船でマグロを釣っていたんだな。

 エキドナの腕力はルークと戦っていた時に証明されている。見た目によらず、力技も持ち合わせている。


「どりゃ~~あ~~あ〜!」


 エキドナの掛け声に、淵の中からロープに引っ張られたモノが、水しぶきをあげて姿を現す。


 その姿は、ロープの先に括りつけられたキュウリを離すまいと握りしめている異形の姿があった。


 薄緑色をした身長110㎝位の人型。キュウリをポリポリかじっている口元は尖っていて、背中に亀仙人のような甲羅を持ち、頭は……。あたまは、残念だけど円形脱毛症みたいになっている。いや、皿だな。トータル的にみれば、日本昔話に出てくる河童だ。


「うわぁ~マジで、河童が釣れた。ほんまでっか~⁉ ってもう笑うしかないよ」

アヤカシの一本釣りよ。でも、残念。小物かしら~」


 キュウリを離せばいいのに、しっかり握って、かじっているから間抜けな姿を晒してしまった哀れな河童。陸にあげられて【シマッタ!】というような表情をしている。アタフタしている。本当に残念な河童だ。


 俺達をキョロキョロと見回すと、河童と卯月の目が会ってしまった。

 瞬間、河童の顔がほころぶ。


カッパ8×8、64~だ。ケロヨン〜。うぁ~ぃ、メンコイ女子おなごだ。ピョ~ン〜」


 そう叫びながら、卯月に向かって抱きつこうとした。卯月は身の危険を察知し、ひらりと身を躱す。方や河童は勢いを落とせないからそのまま樹にぶつかりひっくり帰ってしまった。なんとも残念な河童だ。


 呆れ顔でエキドナはひっくり返った河童に近づき、膝を曲げて上から河童を眺めた。


 エキドナが近づくと河童は体を起こして、エキドナに飛びついた。


「わぁ~い。こっちは凄いベッピンシャンだ~~」


 ひっくり返った状態から、エキドナに向かって飛びつく河童。しかし、エキドナは手にした鉄扇で軽くはらうと河童は吹き飛んだ。


「ちょっとエナさん、ヤリ過ぎじゃないですか? 河童も可哀想ですよ」

「ちょっと払っただけなのに、おおげさね」

「おい、大丈夫か?」


 俺はほんのチョッとだけ心配そうな雰囲気を見せて河童に近寄った。河童はゆっくり起き上がり泣いた。


「うぇ~ん。ずっと独りぼっちだったから、寂しかったんだケロ。可愛くて綺麗な女子おなごが来てくれたから、オイラ嬉しくて飛びついちゃったんだよ〜ん。ごめんよ~許してクレヨン~」

「あらあら、そうだったの? でも初対面で抱きつくのは反則かしらね。よしよし……」


 河童の言い訳にエキドナは河童の頭を、いや皿を撫でた。

 その隙を付いて、河童はエキドナの胸を触った。いや、んだ。


 おっ、すげぇ乳だ。こりゃ~堪らん。という様なニヤケタ顏付きをしている河童。


 おい、お前。やっちまったな! 俺は知らんぞ! オーマイ・ゴ――!


「おどりゃ~何さらすんじゃ、このエロ河童。頭の皿ごとドタマ勝ち割ったろうか!それともケツの穴に手を突っ込んで、尻子玉を引き抜いて奥歯ガタガタ言わしたろうか?」


 隙をつかれて胸を触られたエキドナは怒号を発した。その怒気だけで河童は凍り付き固まってしまった。美しい容姿のエキドナの表情が般若の如く変わる。


 しかし怒号は何処かで聞いたセリフのような? あれはヨシトモ新喜劇のとある一場面の有名なセリフだったような……。


 しかし河童は反省猿のように凝固している。


 やってしまった。これは、絶対やってはいけない事をやってしまった。怒気のレベルが違い過ぎる。 


 どうしてオイラはこんな軽はずみな行為をしてしまったのか?……。

 オイラは、殺されるかも知れないケロよ……。


 固まった河童は終いには白目をいて痙攣けいれんを起こし始めた。やっていい事と悪い事を今更ながら、思い知ったのだろう。震えが止まらないみたいだ。


「エナさん、許してやってよ。コイツも反省しているだろうし……。早く一本ダタラを捜さないといけないし…」

「ッチ! 今回はセイヤーに免じて許してあげる。今度やったら、首と体がオサラバするかしらよ!」


 ヒェ~、俺も気を付けないと、ラッキースケベでも許してくれないかもしれない。


 クワバラ、クワバラ……。


「じゃぁ、屁のカッパさんだったっけ、それともエロガッパさんだったっけ? 私達のお願いを聞いてくれる?」

「オイラは、屁のカッパでもエロカッパでもねえずら。何でも、聞くケロよ……。でも、オイラには三平っていう名前があるケロ」


 おいおい、語尾がケロって、お前はケロ〇ピーかょ。


「実はね、私達は一本ダタラっていうアヤカシを捜しているのよ。三平河童さん、あなた、一本ダタラの居場所を知っているわね? 良ければ、私達を案内してほしいのよ。お願い♡」

「一本ダタラは数年会っていないケロよ。案内はするケロょ。どうしてダタラに会いたいんだケロ?」

「一本ダタラは昔、鍛冶の神様だったっていうじゃない? 今も鍛冶が出来るのかな。もしも出来るのなら、刀を一本鍛え直して欲しいのよ。案内してくれたら、沢山キュウリを持って来るわよ。どう?」

「あのキュウリは美味かったケロよ。いっぱい欲しいケロよ。分ったケロ。オイラが案内すケロよ」

「オッシュァ――! これで、道案内はゲットしたぜ。おい三平、宜しく頼むケロよ」


 あれ、俺まで語尾がケロになっちゃったじゃないか。


「任してくれよ。泥船に乗せてやるぜ! じゃなかった、大船に乗った気でいてクレヨン」

「はぁ? 何でクレヨンなんだ。おい、頼むぜ。泥船に乗せたらエナさんがブチ切れるぜ。俺は知らねえよ」

「解ったケロ。きっと、大丈夫だピョン」


 何だか、俺の周りにいるヤツは語尾というか、喋り方が残念なヤツが多いな。すぐ俺まで喋り方が移るから、俺も気を付けないとな。


 こうして、鞍馬天狗の教えに従い、俺達は河童の三平を仮の仲間に入れた。まさか、ロープにキュウリを括り沢に投げ込んで河童が釣れようとは、誰も信じなかったけどな。

 

 大丈夫かなぁ〜このエロガッパは?








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