4 緊急事態

 調査隊の惨劇を伝えるシーンが流れ、沈黙の間が数秒流れた。


 各TV局は緊急的にCMを入れ、事の重大さに驚いていた。


 この映像はライブ配信だったので、全世界に映像は流れた。この画像を見た視聴者からのコメントは実に荒れに荒れた。炎上。大炎上だ。


「何だ? さっきの映像は、CGなのか?」

「人が、何かに食べられているわ? 獣の仕業なの? 何が、起きているの?」

「化け物だ? 自衛隊のロケットで島を粉砕しろ!」

「ウケル~って、何の娯楽をライブ配信してんの? もしかして、新手のSNS用のCG的なTVかもよ~?」


 各TV局やSNSにて批判や心配の声が挙がる。







 ◇ ◆ ◇ ◆






 丁度広島の呉駐屯基地で停船していた、海上自衛隊の大型戦艦アマテラスの艦長である大森に、東京都内の官邸から直通の電話が入いった。


「艦長。大森艦長、お電話です」

「誰からだ?」

「な、なんでも防衛庁からですが……」

「解った。此方へ繋げ。

 ――もしもし、大森ですが……」

「もしもし、私だ。防衛庁の岸和田だ。君も知っているだろうが、例の島の事だが、竹林からの連絡が途切れてしまった。事態は緊急を要する。現場を調査してくれ」

「あの竹林が?……」

「そうだ、あの若さで、仮にも中尉二等陸尉まで登りつめた男だ。未知の島だから銃器類も持っているはずなのに連絡がつかない。同伴していた部下からも連絡がつかないらしい。想定外の事が起きているとしか考えられない」

「分かりました。しかし只今、戦艦アマテラスは海上演習後のメンテナンスに入っています。準備が出来るまで、上陸用舟艇に大型のホバークラフトを搭載し、更にホバークラフトに装甲車を乗せて上陸する作戦を執ろうかと思っております」

「うむ、それでいいだろう。なにもわざわざ戦艦アマテラスを出すまでもないだろう。戦争をするつもりもないからな。取り急ぎ、世論の目もある。事態の早急な調査と救出を最優先に頼む」

「ハッ、解りました」


 電話を切った後、戦艦アマテラスの艦長大森は一等海佐である山崎を呼んだ。


 ――コンコン――。


「艦長、入ります」

「ああ、入れ……」

「どうされました艦長?」

「先程、防衛庁から連絡が入った。君も知っているだろう、例のあの島の調査団からの連絡が途絶えたそうだ」

「例の島というと、竹林が同行していた件ですよね。アイツが付いて居ながらどうして?」

「それが、解らんのだ。竹林の部下も重火器類を装備して上陸したのに、連絡が付かなくなってしまったそうだ」

「一体、何が?」

「すまんが、君が指揮を執って調査にあたってくれたまえ。既に上陸用の大型舟艇とホバークラフトと装甲車の手配は出来ている。

 君が同行する隊員は選出してくれて構わん。もしもの時に備えて、多量の重火器と食料を余分に持って行け。但し、決して無理はするな。ダメだと思ったら潔く撤退し、必ず連絡をする事だ。

 それとは別に、このような事態を想定して高知で戦艦数隻を待機させている。連絡をとって、同行してもらえ」

「はっ、了解であります。同行者は私の部隊50人を同行させます。一時間で用意し、大型舟艇の出航準備が出来次第、出航します」

「うむ、頼んだぞ」

「失礼します」


 敬礼をして大森の執務室から出ていく山崎の後ろ姿を眺めると、嫌な予感しか沸かなかった。いきなり大型戦艦を出動させる訳にはいかない。せいぜい、上陸用の大型舟艇大型ぐらいしか出せない。大型戦艦が動くにはそれなりの事情も必要だ。

 現場に行って何も無ければそれはそれで良いのだが、防衛庁にもプライドがあるし、世論の目もある。なにせ、国民の税金で賄っているのだ。




 艦長大森の思案している中に、やがて執務室に無線が入った。


「艦長、こちら山崎。出航の準備が出来ました。これより現場に向かいます」

「予定時間より早かったな。気を付けて行け。無事で帰って来い」

「了解です」




「これより特別任務を発令する。事前に話は届いているかと思うが、今回の計画は特別な内容だ。各自、連携を取り個人行動は決して許さない。お前達隊員の目標は、調査隊員の救出が第一だ。調査は二の次、全員無事に生きて帰る事。各自の連携や報告はどんな些細な事でも構わん。それぞれのインカムを使いこちら指令室まで報告することだ。分かったか」

「了解しました。これより呉港を出港します。航路座標、目標地点。北緯34,4170663。東経134,6759033を目指します。全軍、発進!」


「「発進!」」


 こうして山崎一等海佐による指揮の元、例の島に向けて上陸用の大型舟艇と護衛艦と哨戒艦が就航した。







 出航後、やがて数時間の後、上陸用の大型舟艇のブリッジに緊張が走る。


「艦長! 山崎艦長。目標地点から数マイル手前ですが、ターゲットである例の島らしき物を発見しました」

「ん? 座標は? 何だか最初の座標からズレていないか?」

「現在の島の座標は、北緯32,9441489。東経134,8516546です。尚、この島は移動している模様です」

「何だと、島が移動する訳がない。もう一度確認するんだ」

「了解! もう一度座標の確認します……。


 やはり、先程の座標で間違いありません。ソナーで確認しましたが、やはり島はゆっくりですが移動しています。予測ですが、このままだと後十日ほどで四国の徳島と和歌山県の間を通り、淡路島に激突する模様と予測されます。その時の衝撃は、南海トラフ地震が起こった場合の被害は数倍になるかと予想されます。四国や中国地方や関西地方は大津波と地震にによる被害、更には住民にも甚大な被害が起こりうるかと……」

「何だと? そ、それは本当か? このままだと、日本は大変な事になるぞ。早くあの島で何が起こっているのか調べないと……」


 海上自衛隊の山崎一等海佐の額に、嫌な汗が流れて落ちた。










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