3 島の調査
その島が発見され、海上保安庁が動くよりも先に、TV関係者やSNSに依存する人々の関心が高められ、興味本位で動く人間の方が優先された。
方や、漁で生活をする人々も影響を受けた。漁の行き帰りの道中に見える不思議な島を見れば、島の上陸をするしないに関わらず、側を通って後の世間話や酒のツマミ話ぐらいにしたいと思うのは人の世の常。遠巻きに見ていても、何もなければ徐々に近寄ってしまうのだ。
近寄ってしまった漁船の多くは、生存者不明のまま、漁船だけが島の周辺で漂う結果となってしまっている。
行方不明者の家族は警察に捜索願を出し、海上保安庁が警備艇を数隻出し、ヘリコプターも2基出すも、例の島周辺に来ると、通信が途絶えてしまう始末。急に濃霧が発生して、視界が0になってしまう。
ヘリはUターンで戻って来れるが、漁船に乗り合わせた人々は島に上陸してしまったので、そこからの消息は不明のまま。
一体、島で何が起こっているのかも解らず仕舞い。もはやこれは手がつけれない案件になってしまった。
その島の発見から三日後、とある調査隊は島に上陸はせず慎重に近づき、ドローンを飛ばし、島の上空から調査した。
上陸したら最後かも知れない。島に上がってしまえば、そこから帰って来る事が出来ない。慎重にならなければ……。
しかし、驚く事にドローンのカメラから見ると、島には南国の様な色とりどりの花や果物などが映像に映っていた。
この件がTVのニュースに流れると、SNSでは色々な憶測のコメントが寄せられていた。
いきなり降って涌いた島が、草木や花。しいては果物を実らせてい木々まである。これは、いち早く調査して、いや名乗りを上げた者がこの島の所有者か、名付け親になるかも知れない。その様な安易な考えを持つ愚か者達がこの島に群れた。
島の調査に行って帰って来た者は居ないのに、それすら忘れ去られている。
これは異常だ。とする意見に対して、花が咲くという事は安全だ。という意見が対立し、強硬派の調査隊がゴリ押しで島を調査する事になった。安全を考えて、選りすぐりの自衛隊隊員達が重火器類を携えて参加する事となった。
島の半径500m付近の海の周りには凪いでいた。波は無く穏やかそのもの。風も無いのが奇妙だった。ゴリ押しで行った調査隊には、前代未聞の島が突然発生した事で、緊急性が発生し、各TV局はライブ配信を行う事となった。
「こちら、【チーム・大林】調査隊レポーター担当の林です。
これから、地質調査を
尚、カメラは小林が担当しています。
考古学専門は中林。
オカルト部門は横林。
同伴する自衛隊のリーダーは竹林。10名の重火器を持参している隊員をまとめています。
そして紅一点、医療部門から茂林が……。
後、機材運びに10名程の屈強な自衛隊隊員達がこの調査隊に参加しています。尚、この放送は何が起きるか分からない為にライブ放送です」
◇ ◆ ◇ ◆
「ブッハー、聖也さん、聞いた~何で、このチームって名前が林繋がりなのよ~。笑っちゃうわね~よくもまぁ、こんなに林ばかり集めたものだわ。もしかして、この構成を作ったのは森っていうお偉いサンかしら」
「そりゃーないだろう。林が集まったからといって、森はないじゃないか。そうだとしたら、何かのネタみたいじゃない?」
俺と卯月は昨夜泊まった和歌山市のホテルのリビングでTVを見ていた。
エキドナは、朝食のバイキングで又スイッチが入ったのか中々帰って来ない。
困った、このホテルの宿泊者全員分の朝食を食ったらどうしよう?
◇ ◆ ◇ ◆
「只今、調査隊は例の島に上陸しました。島の中央の山頂を目指したいと思います」
レポーターの林の前方では自衛隊のリーダー竹林とその部下が大きな鎌や、山刀で草木を払いながら道を切り開いている。
道なき道を切り開き、この島を調査するのが今回の目的だ。島の中心に山がある。出来れば山頂に登りたい処だが、何処か開けて落ち着いた場所でキャンプ地を設定して、ドローンを再び飛ばしてこの島の全体を観たい処だ。
チームリーダーの大林教授はそう思っていた。
やがて、開けた場所に一同は出た。
「何だ、この場所は? まるで、整備された様な平地だ。取り合えず、みんな此処で一旦休憩だ。おい、中林君。ドローンを飛ばしてくれ」
「はい、分かりました大林教授。すぐに……」
こうして、ドローンが飛ばされ、島の全容が明らかになった。今いる場所は開けているが、周りは木々で覆われている。島の中心は岩で出来た山。山頂には建物のような物がある。
「おい、山頂の場所をズームで撮ってくれ」
「はい、……」
すぐさま、山頂が大きく映された。
「「おい、これって……!」」
「城だ! 城が、この島に……。いつの時代だ? 誰が、一体何の為に?」
島の中心部には、山が
かたや、山の麓には小さな洞穴が数か所見える。
みんながドローンのモニターから島の中央にある山頂に目を向けた瞬間、すそ野の麓の穴から叫び声が聞こえた。
「ギョギョギョギョグエエエ—―!」
すかさず、レポーターの林の顏越しにカメラマン小林が、声のする方向をカメラを向けて映す。
ライブ配信だから、見ている視聴者の興奮が一気に高まっていく。
それは意味不明な言語を発していた。身長は120㎝位の人型。肌の色は薄緑をしていて、頭髪はボサボサ。
その洞穴から、薄緑の肌をした奇妙な言語を話す人型は、外の様子を見て暫くすると洞穴に向かって叫んだ。
「グゲゲゲェ、ウギョギャギャガァ!―」
その叫び声が洞穴に響く。暫くして、洞穴から最初に出て来た薄緑の人型に似たモノが一斉に外にウジャウジャと出て来た。
薄緑色の背の低い醜悪な容姿の小型の人型。それは、ファンタジーに出てくる
押し迫って来る未知の集団に恐怖を覚え調査隊は混乱する。とてもじゃないが友好を示してくるような雰囲気じゃない。牙を剥き襲ってくる肉食獣のような気配だ。
「な、何なんだ。自衛隊の人は俺達を守ってくれ……。いや逃げろ!逃げろー……」
「各人、攻撃用意! 威嚇後、来襲するようなら攻撃しても構わん! 機関銃用意せよ。ロケットランチャーにて前方を撃て!」
「了解!」
やがて自衛隊からの攻撃を受けた未知の小鬼達は、恐れを知らぬかの様に仲間達の屍を踏み越えて襲ってくる。
リポーターの林の顔を映していた映像が乱れる。カメラマンの小林はカメラを投げ出して逃げたのかも知れない。
片や、怒号とも取れる音声が飛び交っているが、何を言っているか解らない。
まるで阿鼻叫喚地獄の様な叫び声しか聞こえない。
自衛隊の竹林の怒号と銃声の音が響くが、暫くすると叫び声と共に聞こえなくなってしまった。
数分の叫び声の後に映像に映っていたモノは、醜悪な顏をした緑色の肌の人型の口元が血塗られた様に真っ赤で、下卑た笑みを浮かべる食人鬼だった。
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