2 鞍馬天狗再び / 聖也

 俺達は卯月の実家で御神体の草薙剣クサナギノツルギを手に入れた。しかし刀身は赤錆で使えそうにない。


 卯月の提案で再度、鞍馬山の天狗に相談する事となった。恐らくあの天狗は良い知恵を出してくれるに違いない。




 そんなこんなで、ハイ着きました。京都――。


 新幹線に乗り京都で降りたが、今回は前回のような駅弁大会は起こらなかった。俺と卯月は昼飯を食ってから実家を出ていたし、エキドナ達は大間のマグロを食べたって、言っていたからな。

 しかし、エナさんが満足したっていうことは、もしかして100㎏超級のマグロ一本丸ごと食ったんじゃないだろうか? 延縄漁はえなわりょうじゃなくて、【ヒャッハー】とか言いながら一本釣りでもしそうな雰囲気だ。




 京都駅からタクシーで鞍馬山寺まで前回と同じルート。


 前回は鞍馬寺でルーク達と分断されたが、今回は分断されない様にルークは俺のジャケットのポケットの中で待機している。


『エキドナよ、魔力を押さえておけ。気配も消せれれば尚更だ』

「分かったわ。今回は会いたいかしらね。日本のあやかしの中でも格が高いっていうじゃない。楽しみだわ~」


 こうして俺達は奥の院へと歩いて行った。



 木々が覆い茂るヒンヤリとした空間で、卯月が辺りを見回している。

 その中で一番太い千年杉の前に行くと、上を見上げた。居るのが解ったのか?


「大天狗様〜〜。鞍馬山の大天狗様、どうか姿をお見せください~」


 すると空から声がした。


「その声は、いつぞやの女子おなご。今、降りて行こうぞ」


 声と共に翼の羽ばたく音がした。


 するといつの間にか、目の前に例の天狗が居た。

 一本下駄を履き、赤い顏で鼻が大きく左手には羽団扇を持っている。誰もが想像する大天狗の姿。


久方ひさかたぶりよのぅ~。元気であったか?」


 いや、二日ぶりだし……。一昨日おととい会ったばかりでしょうが……。

 


  二日ぶりに見る大天狗の表情は穏やかだった。


「どうやら、例の神器とやらは手に入れる事が出来た様であるな。お主が持っているそれが、そうではないか。それで、どうした?」

「大天狗様、草薙剣は手に入れる事は出来ましたが、どうやら使えそうに無いんです」


 俺が手にした草薙剣を見せようとしたら、ルークが俺のポケットから飛び出した。


『おい、今回は結界は張らなくていいのか?』


 急に姿を現したルークの姿と膨大な魔力に大天狗は驚き、後ろに飛び退いた。


「—―こ、こ、こやつ、お主たちは我をたばかったのか?」

「違うんです。コイツには悪意は無いんです。信じて下さい」

「そうよ~悪意なんて持ち合わせていないかしらね。日本の妖に興味があるかしら。悪意が有れば、とっくに攻撃しているかしら、こんなふうにね」


 すぐさま気配を殺していたエキドナが現れ、鉄扇を杖に変えて地面に突き刺す。


 呪文も唱えないが地面から幾つもの土槍が現れ、空からはつるが辺りを覆いつくし、俺達を囲む。


「む、むむむっ……」

「ちょっとエナさん、ややこしくしないで下さい。これじゃ、脅しというか、敵対行為じゃないですか。もう~美味しい物を教えませんよ」

「解ったわよ。ウーツキが言うんなら、解くわよ。ホイってね」


 卯月にたしなめられエキドナは術を解除してくれた。上空のつるは消え、土槍も砂となって地面に消えていく。


 呆気に取られた大天狗はやがて高笑いをした。


「かぁ~はっはっは、これほどの力量の差を見ると、警戒するのも馬鹿らしいというもの。確かに敵意が有れば、我は成す術もなく打ち取られたかも知れぬわ。前回はすまなかった。ほれ、この通りびよう」


 大天狗は警戒心を解いた。エキドナの力技も役に経ったようだ。今回はどうやら残念を取り消したようだ。


 たまにはやるじゃないか、エナさんよ。


「それで、どうしたという? その神器を見せてみるがよい」


 大天狗の言葉に俺は神器を出した。

 鞘から刀身を抜くと、例の赤錆の刀身が姿を現す。

 刀身を天狗に差し出すと、大天狗は一歩後ろに引いた。


「これこれ、そのような物騒な物を向けるでない。これは神器なのだ。我ら妖に向けると一溜りもないのだ」


 ――いや、アンタが見せろっていうからさ……。


「大天狗様、この赤錆をどうしたら?」

「うぅ~む。確かに、これは酷い有り様だ。どうしたものか…………?


 うう〜む……。


 おぉ、そうだ。一本ダタラに頼んでみるがよいだろう。あやつは妖と云えど、零落した神。かつては天津神アマツカミの鍛冶神。しかし、素直に請け負ってくれるかどうか? 

 その前に、河童を捜さないとならぬな」

「何で河童なんですか?」

「河童は河の童。一本ダタラは山の童と呼ばれとるでな。河童を連れて行くと話は早いかも知れぬ。同じ妖のわらし繋がりであるからな。しかし、座敷童とはチョッと違うぞ」

「じゃあ、河童と一本ダタラは何処にいるんですか?」

「河童は何処にでもおるぞ。しかし、移動に困るであろう。人目も有ろう。

 一本ダタラは、熊野地方の山奥に居る。河童もその辺りの綺麗な川に居るから、すぐに見つかるであろう」

「熊野地域ってどこよ?」

「聖也さん、熊野地方は和歌山県よ」

「へぇ~卯月ちゃん物知りだね。でも和歌山て新幹線が通って無いよな。大阪で降りて、和歌山市まで行って、レンタカーを借りるか?」

「和歌山って、何が美味しいんだろうか? グーグル先生に聞いておかなくっちゃ」

「まぁ、ウーツキ。今回も楽しみにしてるわよ」

「任せて下さい、エナさん!」


 何だよ、又グルメロケかよ。って思うけど旅の醍醐味は、その土地でしか味わえない物だよな。卯月ちゃん、今回も楽しみにしてるぜ。


「お前達、そんなに浮かれてていいのか? 一本ダタラはあやかしといえど、元鍛冶神なのだぞ」






 何か背中の方から声がするのを聞きそびれてしまった。


 卯月とエキドナは次の目的の場所へと向かう為、もう既に奥の院を後にしている。


 俺も彼女達の後を追って行った。



「モシ、モ~~シ。ワレヲワスレテハ、イマセンカ~~~~?」




 あれ、又何か忘れていたような? まぁ、いいか?









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