6 ワームー2
長剣を構えるルークの真下から、ワームが姿を現した。大量の土砂を撒き散らし、真下から大きく口を開き、ルークを飲み込む勢いで真上に向かって伸び上がる。
ズズズズズッ・ズズッズズズウ・グギャギャギャ————‼
『クッ——』
予想だにしない真下からの攻撃に、前方に体を捻って飛び出すしかない。前に飛びながら、顔を少し後ろに向けてワームを見た。
ワームは先程ルークが居た空間から90度直角に曲がりながら、尚かつルークの後ろ姿を滑る様に追ってくる。
『今度はどうだ——!』
ルークはそう叫ぶと、真上に舞い上がる。前方に飛びながら、急上昇した。自分の足下を見ながら、ルークの顔色が曇る。
あり得ない……。真下から伸び上がり、途中から直角に曲がり、地面に対して更に空に向かって直角に曲がるなんて……。あり得ない、そんな動きなんて常識じゃ考えられない。
俺は驚きを隠せなかった。無理だ。無理が有り過ぎる。いや、そんなワームの奇妙過ぎる動きもそうだが、巨大なミミズの存在があり得なかった。メチャクチャ気持ち悪いんですけど…。ルーク、大丈夫か?……。
『クッソ——! なんて変な動きをするんだ。そうか、コイツは骨が無かったんだな。全身筋肉と云うか、腸の固まりと云うか。なら、切り刻んでやるぜ』
ルークは急上昇のスピードを上げ、ワームとの間合いを大きく取ると、急降下していった。
『ウオッ————!』
とてつもなく長い長剣を振りかざし、上空からワーム目掛けて垂直に紫電の刃を振り下ろす。下からはワームが獲物を飲み込まんと、大口を開けて全身筋肉の勢いでせり上がってくる程凄まじい。上下からの勢いがやがてぶつかりあう。
ブシュシュシュシュシュシュシュシュジュジュジュ————。
嫌な音がした。肉を切る。いや、切れる擬音が変な、嫌な音なのだ……。音に反応した卯月は両耳を押さえ、下を向いて目を閉じている。それぐらい、いやな感覚だ。更にルークの持つ剣は紫電を発している。大ミミズの肉を切り裂き焼き切っている。臭いも焦げ臭い。気持ち悪くなりそうだ。ウエッ~……。
「ギョグッワッェェェェ————」
巨大なミミズ。いやワームはルークによって縦方向に切断された。いわゆる真っ二つ。切り裂かれたワームの長さは50mはあるだろう。しかし、まだ半分は残っているんだろう。まだ地中に半身が残っている。
ルークは振り下ろした斬撃と共に、地面に両足をついていた。半径10mは地面が円状に窪んでいる。ルークの斬撃が地面にまで深く刻まれていた。それ程の勢いが、斬る瞬間に溜まっていたのだろうか。切り裂かれたワームの体は、辺りに響き渡る音を立てて、無残にも崩れ落ちる。
終わったのか。と俺は思った。ダメだ! そんな事を言ったり、考えたりしたら、アニメや小説でも「フラグがたつ!」というじゃないか。油断は禁物だ。
体を縦方向に一刀両断されたワームは横たわっている。動かなくなったワームを気にせず、ルークは穴の入り口に向かって飛び立っていった。
しかしルークは、いきなり失速して地面に墜ちていった。なにが、起きたんだ。ワームはやっつけたんじゃないのか?
『むっ~!』
「——ルーク!」
卯月は叫んでいた。俺は先程の戦いを見ていたにも関わらず、何が起こったのか解らないでいた。
確か、ルークが長剣でワームの体を縦方向に切ったはず……。俺は、そこまでは覚えていた。しかし、現にルークは地に伏している。一体何が起こったんだ?……。
ルークが巨大ワームを確かに縦方向に切断した。しかし、ルークはその後のワームの生存を確認せず、ワームを背にして飛び去ろうとした。
その時だ。ワームが掘った穴からヤツの、もう一つの頭かシッポかがルーク目掛けて襲いかかってきた。先程のように巨体を現さず地面から口だけを出して、大きな口を広げ消化液を吐き出している。まるで唾を吐くように器用に狙い飛ばしている。
その片割れの頭からの消化液を翼に受けてしまったのか、ルークは空中から失速して地面に墜ちてしまった。
更に体を縦方向に切断された部分は、じわじわと再生を始めた。切れた肉片が元の体にジュワジュワと嫌な音と共に逆再生の如く戻っていく。
前回のインキュバスの時も、魔物達は傷ついた体を再生した。しかし、あの時インキュバスの周りにはナイトメアとか云う馬が側に居た。
今回のワームの周りには特別に何も、いや誰も居ないのだ。どうして再生するんだ? もしや、ワームにとっては再生が当たり前な能力なのか。
危険を察知したルークだが、もう一つの頭かシッポかの、そのワームの消化液を避けきれなかったのだろう。右の翼にヤツの消化液を受けてしまった。魔界のいち王であろうが、同じ魔物の消化液を体に受ければ、ダメージは大きく受けてしまうのか。
下手をすれば、体の一部を失ってしまうかも知れない。片方の翼がヤツの消化液で溶け始めている。そして再生を終えたワームは、その大きな口から消化液をルークに向けて吐き出した。頭とシッポのダブル攻撃が始まる。
『チッ!……。
「「ギュオッオオオッォォォォォオ——‼」」
耳に残るような嫌な擬音を発しながら、巨大なワームは双頭の大口を開きながらルークに襲いかかる。
しかし片方の翼を失ったルークの表情には、未だ余裕すら感じるのは何故だ。大丈夫なのか? うかうかしてたら、やられちまうぞ……。
消化液とも単なるヨダレとも見分けが着かない体液を振りまきながら、ワームは同時に襲いかかっていく。
だ、ダメだ——。ルークが溶ける。食われて、しまう……。
俺と卯月がそう思った瞬間だった。方やルークは自らの両手を大きく前に出し、まるで円を描くように広げた。そして、広げた両手を自らの顔の前で勢い良く合わせた。
バシ——ン!
合掌された両手の掌から甲高い音と共に、白く眩い光が解き放たれる。
『ハァ——。フン——!』
ルークは自分自身に気合いを込めた。インキュバスとの戦いで見せた、純白の姿に変化する。これは、第3形態だ。
ルークまで、あと1mの距離まで双頭のワームの口が迫っていたが、ルークが白く光る姿に変化した瞬間に、全ての時間が止まった気がした。
「グギャッ・ギャギャガッ?——」
ルークが変化した瞬間、ルークの体が白い球体のようなオーラに包まれた。その球体のオーラはバリヤーの役目をしているのか、双頭のワームが触れると、ワームの動きが止まってしまった。
ルークの光のバリヤーに似たオーラが、触れるモノ全てを拒絶しているのだろう。巨大な双頭のワームの勢いを相殺する以上の力で押し返す。
『ウッ——。ハァ——‼』
ルークは更に自分自身へ気合いのようなモノを込める。白く眩しい光は一段と強くなっていく。
「ギョワゥゥゥウウゥッゥ~~」
後もう一息といった処でルークを飲み込んでしまうはずだったワームは、ルークの発した白いオーラの様なバリヤーで動きが止まってしまった。バリヤー越に双頭の巨大なワームの口が今にも襲いかかろうと未だ大きく開いている。
『残念だな。これでテメェはお終だ。来い! 魔剣レーヴァテイン』
そう呟くとルークの右手に燃えさかる剣が現れた。その剣を両手で掴むと、一本の剣は炎となってルークの両手に吸い込まれる。ルークは自らの双拳を双頭のワームの口に向かって同時に繰り出した。
『食らえ——‼ Agni:
ルークの発した双拳から、紅く燃え上がる炎の矢がワームの口目掛けて勢い良く飛び出した。インキュバスを倒した時に使った技だ。あの時は槍の形だったが、今回は直接拳からの攻撃だ。ルークの発したバリヤー越しなので、お互いの間はゼロ距離にも満たない。これではワームも避けようが無い。
双頭の口から入った燃え上がる炎の矢は、ワームの体内深くまで勢いを殺す事無く、ズンズンと進入し続けている。頭とシッポの両方から燃え盛る浄化の炎の矢が巨大なワームの体内の中心付近でぶつかり合う。
やがて、数十m先の地底から何かが爆発したように地上へと噴出する。
地上の大量の土砂を振りまきながら、燃え盛るワームの肉片のようなモノが空中へと舞い上がる。舞い上がった欠片は煙を残して消えていく。
「グギュエェェェェェェ——」
同時に断末魔の弱弱しい叫びと共に、双頭のワームは力尽きて地響きを立て倒れてしまった。先程のように再生する力はもはや持ち合わせてはいないだろう。
『フン、浄化しな』
動かなくなったワームに対し、ルークは自分の指をパチンと鳴らす。横たわったワームが白い炎に包まれ燃え始めた。ジワジワとでは無く、一瞬の如くワームの体全体まで行き届く。身を焦がされる嫌な臭いを発する事無く、黒こげ状態となってしまった。
炎の温度は一体何百、何千度あるのだろうか。遠く離れて見ている俺達に熱は伝わってこないが、高温なんだろう。それに白い炎なんて見たことがない。
もはや黒こげ。いや、炭化したワームはボロボロと崩れ去り、細かく粒子化され風に飛ばされてしまった。地面にはワームの暴れた後の穴が、モグラ叩きのように数ヶ所残っていた。
余裕勝ち。いや、ルークの貫禄勝ちだ。しかし、ルークの表情は冴えない。まだ、他に魔物がいるのだろうか。そう云えば、未だに地中からの音が鳴り止まない。
ワームの体が塵と化し、風に飛ばされて消えてしまったのを確認すると、ルークはもう一度自らに気合いを込める。
『フン——!』
するとルークの背中から、ワームによって溶かされた翼が抜け落ち、漆黒の新しい翼が生え替わった。なんだ、翼も再生するのか。心配して損したじゃないか……。
翼を再生した後、ルークの姿がグレーの色に戻る。体の色で力が変わっていくようだ。力の使い分けをしているような気がする。両翼を伸ばし、首を左右に振って翼を確認すると、ルークは穴に向かってゆっくりと飛び立っていった。
穴の手前に降り立ち、穴の奥を見据えている。奥を警戒しているようだ。
まだ穴の奥に何かいるのか?
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