5 ワームー1
「シャァァァア———」
と、大きく口を開きながら鎌首を上げ、キメラのシッポは自慢の牙を光らせ、ルークに噛み付きにかかった。牙から毒が
その襲いかかる蛇の頭を横殴りにルークは
強靭な後ろ脚の蹴りが左右時間差でルークを襲う。蹴り足が当たればタダでは済まされない勢いだ。
ルークはキメラのシッポを掴んだまま、器用に蹴り足を
「「「ギャウオッッ——・グウオッッ——・メェ——」」」
自分のシッポで後ろ足二本を縛りあげられたら、さすがのキメラもたまらない。自由にならない自分の後ろ足を気にして、頭三つが後ろ足を見るがどうしようない。人間の手で解かない限り外す事は出来ない。シッポの蛇が申し訳なさそうに、それぞれの三つの頭を見て、シュンと残念そうにうなだれた。
戦意喪失。この言葉が当てはまってしまうぐらい、急にキメラは大人しくなってしまった。動物の本能が、「勝てない」と判断してしまったのだろう。
キメラは両翼を静かに羽ばたかせながら、地上へ降りてきた。地上に降りるが、後ろ足が不自由な為、横に転んでしまった。三頭の顔は地面に倒れず、恨めしそうな表情でルークを見ている。戦う気力の無いキメラを確認すると、ルークも地上へと降り立った。
横たわったキメラを見ると、落ちている自分の鞭を拾い上げ、大トカゲの顔目掛けて鞭をしならせる。
ビシ——ン・クルクルクル……。
今度のムチ攻撃は、大トカゲの顔に命中した。大トカゲの両アゴを挟む様に鞭が巻き込んでいる。一番厄介な炎を吐く大トカゲの封印が最優先だ。ライオンは威圧を放つ。山羊は冷静な判断をする司令塔だ。
すぐさま、ルークはキメラの側に翼を使って移動した。合成獣とは言え、油断は出来ない。大トカゲの口をムチで封印した後、すぐさま唸り声を発しているライオンの口をムチでグルグル巻きにした。
最後は、余ったムチの長さで山羊の口を封印した。山羊は長く鋭い角を振りながらも抵抗するが、あっけなく山羊の口も封印された。
キメラは呆気なく一本の長いムチで三つの頭の、おのおのの口をグルグル巻きにされ、我が身のシッポで後ろ足二本を括られて横たわっている。翼は自由だが、飛んで逃げる気力は無くなってしまったようだ。洞窟の番が出来なくなった我が自身を悔やんでいるのか、キメラは翼を畳み大人しく横たわってしまった。
ルークはキメラをいとも簡単に倒してしまった。合成された妖魔獣だから能力的には大した事はないのだろう。しかし、もし俺達人間が戦うとしたら、勝てるかどうかも解らない。かなりやっかいだが……。
ルークの横で動かないキメラを確認すると、卯月はルークの側に歩み寄ろうとしていた。
「ルーク……」
『卯月…。来るな! どうやら、まだ居るぞ?』
キメラを倒しても今、辺りを警戒している。何かの気配を感じるのだろうか?
ルークはもう一度ゆっくり辺りを見渡した。先ほどキメラが居た風穴の様な洞窟を凝視する。
『そこか?……』
ニヤリと薄笑いをしながら、ルークは側に倒れている大木を軽々掴むと、洞窟目掛けて投げつけた。自分の背よりも高い大木を、易々と投げ込むとは何という怪力だ。
ビシュ————ン――――。
2m近くある背の高いルークに対して、掘られた穴の大きさは結構大きい。縦横3mはあるように見える。その穴は、円状に見える処も不自然だ。トンネルの採掘現場でもこんなキッチリとした円状の穴を掘るのは難しい事だろう。穴の中には、俺達の知らない魔物が居るのだろうか。あの穴に大木を投げ入れて、数秒経つが変化が起きない。どうなっているんだ?
俺の思いとは裏腹にルークは静観して穴に入ろうとしない。穴の奥を凝視している。何か罠でもあるのだろうか?
ズ・ズ・ズッ——ズ・ズ・ズッ——ズ・ズ・ズリッ————。
何か重たい物でも引きずっているかの様な不気味な音が、穴の奥から聞こえてきた。
『今度は、何だ? ん。チッ——!』
ルークは舌打ちをすると共に、穴より上空に跳び上がった。
その瞬間、穴の中から大量の土砂が外に向かって勢い良く吹き出された。
ブボボボッッボボッッボ————。
「——な、何だ?」
「なに?」
穴から離れている俺と卯月は、その光景に釘付けとなった。もし、あのままルークが穴の入り口に佇んでいれば、大量の土砂の散弾によって肉体的ダメージを受けていた事だろう。それに運が悪ければ、生き埋めにされたかも知れない。難を自らの感覚で見事にかわした。流石ルークだ。自称大魔王というのも頷ける。
穴から吹き出された大量の土砂は、またたく間に小山となってしまった。一定量の土砂が穴の中から排出されると、ルークは翼を一度だけはためくと、穴の入り口に降りて来た。
『チッ……。もう奥に引っ込んだのか。ならば、無理矢理にでも出て来てもらおうか?』
ルークはそう呟くと、又自らの翼の羽根を1本抜いた。
『ハァー。ウッ——!』
抜いた自らの羽根に再び念を込める。すると、ルークの羽根が変化する。弓だ。今度は羽根が大きな青白い弓に具現化している。
左手にその弓を持ち、穴に向け構えた。ルークはキリキリと弓の玄を後ろに引っ張る。弓は大きく悲鳴をあげながら湾曲していく。すると玄と弓の間に矢が具現化した。青白い矢だ。先程の鞭のように青白く紫電を発している。
穴の奥に狙いを定めて、弓が悲鳴を上げる瞬間、ルークは矢を放った。放たれた矢は、
外れたのか? 10秒経っても何も変化が無い。先程の大量に土砂を吹き出したヤツは一体どうなってしまったのか? そんな俺の疑問は直ぐに掻き消された。
「ギュオオォォォォォォオオオ————!」
穴の奥から地響きと共に、悲鳴が
ズ・ズ・ズッ・ズ・ズ・ズッ——ズ・ズ・ズリッ・ズリッ——。
悲鳴の直ぐ後、先程の大量の土砂が吹き出される前の、何かを引きずる音が聞こえる。今度は間隔が早い。穴の中から、もがき苦しんでいるかの錯覚を受ける。
誰もが穴に注目した――。
そう、誰しも穴の中から現れると思っていた。
ソイツは、ルークの直ぐ後ろの地面から姿を現した。先程吹き出した大量の土砂の溜まった小山から、地面を割って飛び出して来た。
「ズズズズズッ・ズズッズズズウ・ギシャワオ————‼」
「ウワッ——! み、みみずだ——!」
「キ、キャ————。気持ち悪い————」
俺と卯月は同時に叫んでいた。ミミズだ。確かに、ミミズ。しかも巨大だ。何て言ったらいいのか、とにかく巨大なのだ。穴の大きさが直径3mあるのは、コイツが土砂を吐き出す為の大きさ。つまり、この巨大ミミズの胴回りだ。胴回りも大きいが長さも半端じゃない。色も気色悪い。胴体は赤黒く体液を帯びていて光沢がぬめりとしている。
まだ体の一部しか地面から現していないが、太さを考えると全長80mは有るかも知れない。そんな恐ろしく太いミミズが、怒り狂った様に地面からその巨体を現し、自分を傷付けた相手を捜すかの様に、怒りくねっている。見るからに受け付けない。グロイ。キモイ。えげつない。見ているだけで鳥肌が立ってきそうなのだ。
そのミミズの先端に有る顔の部分は大きな穴が空いている。穴は口だ。大きな口の周りには、イソギンチャクの様なヒゲの様な触覚が無数に生えている。ヘビが自分の頭より大きな獲物を飲み込む為に、自分のアゴを外し相手を丸呑みするかの様に、ミミズの口が大きく開いている。地上から30mほどに立ち上がり鎌首をあげている。
やがて、その巨大ミミズは目標物を見つけると、大きな口を広げて地面に立っているルークに向かって襲いかかった。
『——クッ! 予想通りワームが出てきやがったか……。俺はコイツ嫌いなんだよなぁ。仕方が無い……』
弱音ともとれる呟きと共に、ルークはワームの攻撃をバックステップで捌き、上空に飛び上がって避けた。勢いがついていたのか、奇襲が空振りとなったワームの頭は
『——チッ! 仕方が無い。覚悟を決めてやるしか無いのか?』
諦めの様に呟くと、又してもルークは自らの翼の羽根を一本抜いた。
『フン! ウォッ——!』
再び羽根に念を送る。今度は長剣が具現化した。ルークの身長は2mだ。その身長に負けず劣らず長くて細い。ルークは空中に浮かんでいる為か、太陽の光を反射して長剣は眩しく光っている。持っている柄の部分は青白く燃えて紫電を発して見える。
ルークの具現化する武器は全て青白い。何か、ルークにとっての属性があるのだろうか?
『さぁ、こい!』
長剣を構えるルークの真下から、ワームが地面を割って姿を現した。真下から大きく口を開き、いまにもルークを飲み込む勢いで、真上に向かって怒涛の如く伸び上がっていく。
「ギャギャギャギャァァァッァ————」
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