4 被害状況



 約15分歩くとファミレスが目に付いた。どこにでも見かけるチェーン店だ。チェーン店だからこそ味に外れは無い。まぁ、好みはあるんだけどね。


「あなた達、夕食まだでしょ? ここで夕食を取らない? 実は、もう一人来ることになってて……」

「いいわよ、ねぇ聖也さん」

「ああ、俺はいいけど」

「じゃあ、中に入りましょう?」


 そうして俺達三人と一匹はファミレスの中に入っていった。卯月の従姉・祐子は奥の方に歩いて行きテーブルへと着いた。まるで人目を避けるかのようだ。卯月と俺も続けてテーブルへと着く。


 すぐさまウエイトレスがやって来て注文を採る。それぞれが適当に注文をした。この店のお勧めはハンバーグだ。中でもチーズinハンバーグが美味いそうだ。


 約10後、それぞれが注文した物がテーブルに並ぶ。食べようとした時、入り口で騒がしい声がした。折角奥のテーブルに居るのに、騒がしい声が奥まで響いてくる。


「祐子さ~ん。あっ、居た、居た。遅れて、すみません——」


 俺達のテーブルの横に、騒がしい張本人がバタバタとやって来た。騒がしいったらありゃしない。だれだ、落ち着けよ。メシがマズくなるじゃないか。


「あっ、卯月ちゃんに無神さん、後一人来るって言ってたでしょ。この人、私の彼氏。警視庁捜査一課逮捕しちゃうぞの沢田さん」

「えっ、警察???」


 何なんだ、コイツは? ヒョッとして俺が人の金をネコババしたのが、もうばれたのか? もう、俺の人生終わるのかょ? と一瞬思い顔が青くなる。


『バカ、まだバレテないぞ。そんなに心配するな。みっともない……』

「ああ、そうか? だよな? 」


 ルークが俺の肩越しに話し掛ける。そりゃそうだ。他人のお金をネコババしたなんてバレるはずが無い。ルークの、いや悪魔のシッポという不思議な力を使ったのだから、バレるのは神様ぐらいなのだ。改めて安堵する。脅かすなよ~。


「ん、どうしたの? 無神さん」

「いえいえ、何でもないですよ」


 どうやら、卯月の従姉にはルークは見えない様だ。少し慌てながら冷静さを取り戻した。


沢田圭司ですジュリーじゃないよ。刑事やってます。よろしく」


 そう言いながら、その刑事は卯月の従姉の側に座った。改めてその刑事を見ると、体がデカイ。屈強な体と2m近く有るのでは無いかと思ってしまう背丈。夏にもかかわらず黒のスーツ。短髪で髪を立たせていて、捜査の為か顔が日に焼けて真っ黒だ。


 その真っ黒の顔に黒いサングラスとスーツがヤクザの様に見えてしまうから不思議だ。筋肉質で黒のグラサン。まるで、ター〇ネーターだ。


 ダダン・ダン・ダン・ダン! と効果音が聞こえてきそうだ。


 俺達も軽く自己紹介を済ませ、沢田刑事も注文を頼み共に夕食をとった。食事の間は、軽い雑談で和やかな雰囲気のまま終わった。


 食事が終わると、食器を下げられた広いテーブルに全員がコーヒーを頼む。やがて、コーヒーが運ばれウエイトレスが去ると、すぐさま沢田刑事の口調が変わった。そして、いきなり場の空気が変わる。辺りに客が居ない事を確認すると、沢田刑事が低い声で話し始めた。沢田刑事から伝わる緊張感が、テーブルに付く俺達を支配するようにおおい込む。

 

「本来なら、事件の事は他言無用なんだ言っちゃあならねぇよ——。しかしだ、今回の事件は壁にぶち当たっている。被害者は4人。全員女性。しかも彼女達は全員女子高生なんだ。被害者の共通点は、進学校のトップクラスにいた。その被害者全員が、祐子さんの産婦人科に診察に来て、妊娠が発覚している。しかも、全員…その~何て言うか、処女のままなのだ。一体どうやって、その~処女膜を損失させず、妊娠させる事ができるのか? う~ん疑問だ? 変質者の仕業か? とも考えられるが?——。

 さらに、被害者全員が自殺の線が濃厚なんだが、これから話す事は極秘で、発表は押さえてある内容なんだが……。検死に回してみると、彼女達全員のお腹、つまりお腹が裂けて、子宮から子供? いや違うな——。とにかく何かが出て来ているみたいなんだ……。それは、ズルズルと這い出していて、途中で消えているんだ。

 それと、もう一つ。彼女達は胸をえぐられていないのに、全員心臓が無くなっているんだ。こればっかりは、信じられないんだ……。訳が分からない」

「ちょっと、いいんですか? 俺達って一般人ですよ。そんな極秘情報流して、大丈夫なんですか?」

「た、確かに、この件は極秘扱いだ。しかし、事件の内容が尋常じゃない。それに、先程も言ったように捜査は壁にぶち当たっているんだ。裕子さんから、従妹が霊感が強い・っていう話を以前聞いていたから、もしかして? と思たんだ。犯人が狂人かも知れないが、もしかして人外ならどうしようないと思って……。

 ここだけの話でスマナイがオフレコにしてくれないか? 俺個人としても、早く犯人を捕まえたいんだ。狂人を野放しにしては於けない。犠牲者が又増えるかも知れない。何だっていんだ。手掛かりになる物があれば……。犯人逮捕に是非とも協力してくれないか」


 沢田刑事は姿勢を正し、すがるような声を卯月にかける。卯月もそれに同意するようにうなずいた。大丈夫なのか卯月ちゃん? キモイ! グロイよ! 俺は話を聞いて想像するだけで吐きそうになったんですけど……。下を向いてガマンだ、我慢。


「それで、さっきの続きですが、心臓が無くなっているって? 切り傷もないんですか? 」

「そうなんだ、だからこそ奇妙過ぎるんだ……。訳が分からない。俺は信じないけど、もしかすると、犯人は人外かも知れない?……。だから、頼むんだ」

「……そうなんですか。その、お腹から出てきた物、モノって?……見つかったんですか?」

「いや、まだだ。その彼女達のお腹から何かが出て来たのは確かなんだ。彼女たちの子宮が裂けた様に割れていたし、血痕がそれぞれに散らばっていて、急に消えている。う~ん不思議だ怖いんだよぉいや不自然だ——怖くてたまんねぇよ。変質者の犯行かと睨んだが、そこまでするのも実際いるのかと? 疑問だ逃げ出したい訳が分からない誰か替わってくれ

「でね、卯月ちゃんに何か解るかな? って思ちゃったんだ。どう、卯月ちゃん? 何か感じる物がある?」


 この従姉の話ぶりでは、卯月の霊感が強いのは親族では当たり前になっている様だ。年も近い為か、卯月も以前に何度か相談したのだろう。卯月の霊感の強さが従妹から、警察の彼氏に筒抜けじゃないか。個人情報は大丈夫なのか? 今回は、まぁいいか。この狂人を早く捕まえないと! 俺の正義感にも灯が付くぜ!


「う~ん……。取り敢えず、その被害者達の写真とか有ります? 出来れば住所も知りたいんだけど……」

「ああ、ちょっと待ってて……」


 沢田刑事は、ジャケットの内ポケットの中から4枚の写真を取り出し、テーブルに広げて見せた。俺と卯月は写真を見つめる。俺はコーヒーを飲みながら、写真を見てそう呟いた。


「結構、可愛い子ばかりじゃないか?」

「ああ、勿体ない……。いや、変な意味じゃ無くて、こんな可愛い少女達がどうして?」


 何かを思いついたのか、卯月は自分のポーチから持って来た地図をテーブルに広げた。用意がいいな。


「刑事さん、彼女達の住所は?」

「ああ、最初の被害者は、江戸区、次は練区、そして次は田区、そして立区だ」

 卯月は沢田刑事の答えを聞きながら、地図に赤マジックで印を点け始めた。


「学校の住所は?」

「ああ~っと……最初が手立区、世田区、江戸山区、練牛区だが……何か?」


 今度は黒マジックで印を付けだした。赤と黒の点が地図に存在する。テーブルを囲み、みんなで地図の赤と黒の点を見つめている。


「これって? なんだろう?」

『卯月、その男が言った順番に線を繋げてみろ』

「えっ? はい——」


 ルークの言葉に卯月が線を繋げてみる。俺達は卯月の持つペン先を見つめていた。


「えっ~っと——。こうで、次はこうで、こうなって——。う~ん、何、これって一体? 星の形みたい」

「これって、五芒星じゃないか?」

『そうだ逆五芒星だ。いわゆる悪魔の紋章だ』


 堪らず、ルークが助言する。


「逆五芒星だって?」

「オイオイ、二人で一体何ゴソゴソ話しているんだ? 俺達に解る様に話してくれないか」


 沢田刑事が俺と卯月とルークの話しに割って入った。そうだろう、普通の人間にはこのルークの姿は見えないし、声は聞こえない。もし見えていたら大騒ぎになっていただろう。それだけは、勘弁願いたい。


『おい、赤と黒の頂点が交わって無い個所をみろ。次の犠牲者が解ると思うぜ』


 言われるがまま、卯月は最後の重複していない点に○を点けた。


「沢田さん、この世田山区の場所に進学校は?」

「ああ、有るよ。えっ~っと聖蓬だ」

「じゃあ、この地区は?」

「細田区だ?おい、ひょっとして?」

『クックック……やっと気が付いたか?』

「そうか、世田山区在住の細田区の進学高校のトップの女子高生を捜せば?」

「いや、もしかして、逆に細田区在住の世田山区の高校かもしれない?」

「解った。一応当たってみよう。お二方、御協力感謝する。では、又……」


 そう言うと沢田刑事は勢いよく店を出ていった。来た時と同じで、帰り際も騒がしいったらありゃしない。後ろ姿を見ながら俺は呟いた。だいじょうぶかな。あんなにドタバタしてたら、犯人にすぐバレるんじゃないのか?……。


「忙しそうだな? 彼」

「ええ、いつもあの調子なの……」


【プルルルルー・プルルルルー】


 溜息混じりに呟いた祐子の声と同時に、俺と卯月のスマホが一斉に鳴ったのを、今でも覚えている。


 卯月と俺は、同時に鳴ったスマホを開いて見た。スマホを見ると電話の着信ではなく、メールの着信となっている。メールを開くと、ウエブのサイトにメールが入っている。


 俺と卯月は同時に顔を見合わせた。更に同時にスマホからHPのサイトを開く。 

 そして、受信したメールを開く。送られてきた内容を一読し同時に言葉を発した。


「「急ごう。世田山区123―4番地。双葉家へ!」」








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