3 従妹からの依頼  


 自分を大魔王と名乗る不思議な生き物ルークと同居し、又一般人には中々見えない者やモノが見える霊感格闘家女性・卯月と出会ってから、早1ヶ月が過ぎようとしていた。


 PCで復讐屋のHPを立ち上げたが、中々書き込みが無い。あればあったで、メールを送ればイタズラなのか、相手が中々話しに乗ってこない。


 そんな中、卯月が俺に提案した。


「ねぇ~聖也さん。やっぱ、復習屋ってのはまずいんじゃないの?【心霊怪異:相談】ってのはどうかな?」

「う~ん……何だっていいや。じゃあ、卯月ちゃん、HP更新してくれる?」

「いいよ~」

『おい、いい加減にしろよな、一体、いつになったら……』

「まあまあ、ルークはこれでも食べて~♡」

『——んっ!何だこれは?……。ハウッ!! ♡ ウ~ン。まぁ仕方が無いか?』


 ルークは新しくアーモンドを貰ってご満悦のようだ。なんだ、やっぱりハムスターじゃないか。又、頬袋にアーモンドを詰め込んでいるぞ。どんだけ入るんだ? もう、どんだけーって言わねえぞ。相手にしても仕方ない。放っておこう。もう好きなだけ、食ってくれ!


 こうして、卯月によってHPは更新された。更に卯月はPCに詳しいのか、HPにアクセスが生じた場合には、携帯電話に連絡が入るように設定してくれた。


 そして、俺は相変わらず今でも会社勤めをしている。金は腐る程ある。贅沢を極め、金が無くなれば幾らでも他人のお金をネコババ出来るが、もはやそんな気は起こらない。俺は気が小さいのかも知れない。それに会社を辞めない理由は金が欲しい為では無い。生活のリズム感をただ失いたくないだけだ。


 相変わらず卯月は、休日や仕事が終わったら俺の部屋に入り浸りだ。よほどルークの事が気に入っているのだろう。ルークも卯月の前だと、俺に対する時の毒舌は全く吐かない。卯月から貰うピーナッツやアーモンドが、余程気に入っているのだろうか。全く変な奴だ。卯月に飼いならされているんじゃないか。


 その日の休日も暇なのか、昼から卯月が俺のアパートへやって来た。


 この娘やっぱり、俺に気が有るのか? と思ってみるが実際の処、俺はそっちのけでルークとばかり遊んでいる。まあ、無理も無い。こんな珍しい生き物が居るのだから。ヤツは非売品だ。人語を話すハムスターなんて、もしばれたら大問題だ。一躍人気モノになってしまう。そこじゃないだろう! と自分に突っ込みを入れた。


 先月、卯月が酔いつぶれて俺のアパートへ連れ込んだ時、古武道の話しになった。その時、卯月が結婚してくれるならば、教えても良いと言っていた言葉が頭をよぎる。卯月は可愛いが、彼女として見ていない。しかし、そんな事があったから、ついつい意識してしまう様になった。まんざらでもないんだよぁ。


 寝癖の髪型を直さずコーヒーを入れ、口にする。昨夜の接待の酒がマダ残っていて、頭が痛い。ボ~っとしながら又、コーヒーを口にする。窓の外は爽やかな夏空がどこまでも広がっている。いい天気だねぇ。どこか遊びに行こうかなぁ?


 青空を見てうっとりしている俺に、不意に卯月が話し掛けた。


「ねぇ~聖也さん。最近変なニュースが多いと思いませんか?」

「——んっ? 変なニュースって?」

「実はね。昨夜遅くに従姉から電話を貰ったんですよ。その従姉って、今は東京の産婦人科の助産師をしているんですけど、その彼女が言うには……う~ん——。言いにくいなぁ。最近ね、その産婦人科に変な患者が来るんだって……」

「変な患者って?」


 俺の問いに卯月は顔を赤らめた。何か恥ずかしい事なのか、それとも言いにくいのか、彼女は躊躇ちゅうちょしている。


『性的なものじゃないのか?』


 ルークが話しに入ってきた。コイツは人の心が読める。戸惑う卯月の代弁を行った。若い女の子ならば、性的な事は男の前では言いにくい。


「当たっり——! さすが悪魔くん。でね、その奇妙な患者って言うのが、女子高生が多いっていうの。それもよ、う~ん、経験も無いのに、妊娠しているのよ。それも四人」

「おいおい、何言ってるんだ? 経験も無いのに妊娠なんかするわけがないだろ?」

「もう~。だから、奇妙な患者って言っているでしょ? 妊娠した彼女達は、バージンなのよ……。検査したら、その~処女膜は損失してないから、一体どうやって妊娠したのか? って不思議に思っているのよ。それによ、その子達は……それを苦に思い、それぞれが自殺を図ったって事——」

「——何だって? そりゃ、大変じゃないか? 何だってそんな事に……」

「聖也さん、良かったら、その子達の悔しさと無念を晴らしてくれない。同じ同性として、その犯人に鉄槌を与えてくれない?」

「う~ん——! 困ったな~」

『何を困る事がある? この女の助けを、お前は見過ごすのか? 聖也!』

「お願い——! 聖也さん……」


 ルークと卯月に同時に見つめられた。もはやルークは、卯月に飼い慣らされている傾向に有る。俺の言う事よりは卯月の言う事を優先させるようになっている。ルークは相変わらず真っ黒なハムスターの体にコウモリの羽根が生えた格好で、パタパタと宙に浮かびながら燃える様な真っ赤な目で俺を見ている。


 しかし、何か食っている……。おい、ルークさんや、食べながら言うと説得力も半減だぞ。今、口から何かぽろっと落ちたの見ちゃったぞ。なんか、最近お前のキャラが変わった気がするんだけど……。


 一方、卯月もジ~っと俺の顔を懇願するように見つめている。この大きくて愛くるしいウルウルした瞳で見つめられたら、NOなんて言えない。とは言っても、俺に出来る事は大してないんだよ。このルークの悪魔のシッポと言えど、犯人逮捕に協力できるかどうかも怪しいもんだ。取り合えず、行ってみるか⁉


「解ったよ。行こう、東京へ。でも、俺に何が出来るか、わかんないよ?」

『なにを、言っておる。お前は、俺様のシッポを持っているだろう』

「そうよ、聖也さん、期待してるわよ。やった~嬉しい~。じゃあ、東京の従妹に電話しておくね」


 卯月は声を上げて喜んだ。確かに卯月のシックスセンスの目を使えば、普段お目に掛かれないモノが見れるかもしれない。この怪異事件について何か分かるかも知れない。ルークのシッポを使えば、何か分かるか、それなりに対応も出来るかもしれない。勿論、不安は少しある。いや~不安しかないんだけどなぁ……。


 ルークは宙に浮いているのが疲れるのか、俺の肩に止まり卯月に聞かれない小声で呟いた。


『……』

「——えっ?……」


 よく聞こえなかった……。聞き間違いであってほしい。その一言を再び聞き返す余裕など無かった。


 一方、卯月はこれから向かう東京への準備として、従姉へ電話を入れていた。


 








 午後7時過ぎに俺達は連れだって、目的地へ向かった。夕方の遅い時間帯だが、卯月の従妹の都合に合わせる形になってしまった。


 東京へは電車に乗って行く。ルークは初めて乗る電車に最初は喜んでいたが、魔物でも酔ってしまったのか、俺のジャケットの前ポケットの中に潜り寝込んでしまった。元々ハムスターはネズミ系なので狭い穴や場所を好んでいる。だから、俺のジャケットの前ポケットの中は居心地がいいのだろう。やっぱりネズミだ。ハムスターじゃんか。


 やがて電車を乗り換え、目指す目的地に到着した。駅の出口を目指し人混みに流されながら向かって歩いた。


 駅から出て辺りを見回した。この東京さすがにデカイ。俺の住んでいる街も大きいが、東京にはかなわない。やはり日本の首都と言われるのも頷ける。駅ビルの周辺の照明が辺りを眩しいくらいに照らしている。辺りをキョロキョロ見回していると不意に卯月のスマホが鳴った。


「もしもし? アアッ~祐子お姉ちゃん。今着いたわ。祐子お姉ちゃんは何処に? 解った、駅の南口ね。すぐ行くわ」


 携帯電話を切って卯月が俺に促す。待ち合わせの場所をもう一度確認した。


「駅の南口だって。行きましょう」

「ああ——」


 卯月の従姉に会うため、俺達は駅の南口に向かって歩き出した。10分も歩くと、それらしき場所へ出た。見ると人混みの中、駅の街灯に照らされて、こちらに向かって手を振り続けている女性を見つけた。


「卯月ちゃ~ん」

「あ、お姉さん~~」


 卯月は小走りに駆けだして、従姉との再会を楽しんでいる。俺は少し間を空けて卯月の横に並んだ。卯月が俺を紹介する。俺は営業で培った最高の笑顔で、卯月の従妹に挨拶をした。


「こんにちは~初めまして」

「裕子お姉さん、こちらは、会社でお世話になっている……」

「あ、こんにちは。初めまして、卯月の従妹の裕子です。確か無神さんね。卯月から色々聞いているわ。卯月がお世話になっています。ごめんなさいね、変な用事を頼んで」

「いえ、良いですよ。それよりも力に成れるかどうか?」

「ともかく、此処じゃ何だから、場所を変えてユックリ話しましょうか?」

「ええ」


 こうして俺達三人と一匹は、連れだって移動する事にした。卯月とその従姉は横に並びながら、楽しそうに会話して歩く。俺とルークはその後ろについて歩いた。といってもルークは俺のポケットの中でお休み中だ。気楽なもんだ。


 卯月の従姉は、卯月より4才年上だ。長いストレートの髪が歩く度に揺れて後ろから見るとなかなか良い感じがする。それと俺と同じ24才という年が、落ち着きを感じさせるのだろう。卯月が可愛いなら、この従姉は綺麗な印象を覚える。う~ん、いいなあ。ウホウホと、鼻の下が伸びるじゃないか~。


「卯月ちゃん、やるじゃない。結構良い男じゃない?」

「そんなんじゃ、ないって——」


 二人の会話がまる聞こえだ。少し嬉しい。俺はニヤニヤしながら二人について歩いた。

 

 この後の展開が俺達の予想もつかない出来事が待っていようとは、誰も知らない。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る