5 企み



 そうだ! ナンダカンダ言っても、やっぱり金が欲しい。金だ、金、金。楽して金を得る方法はどうしたら?——。う~ん。俺は自分の机の前に座り考え込んでいた。

 う————ん! ナニカ、ナイカ? なにか、ないか? 何か、無いか?


 一時間考え込むと、とある考えが閃いた——。


「——うおっしゃ!——。これだ——! これ! これなら、訴えられる事もなく、お金持ちの所から少々の金額を頂くんだから、悪魔のシッポも協力してくれるだろう? これ、これ! イヒヒヒッ……。俺って、天才かもな~」


 俺は嬉しさで有頂天になっていた。早くルークに聞いて貰いたかったのだ。

 机の上でヒマワリの種を美味しそうに食べているルークを右手で強引に捕まえると、椅子から立ち上がり、駆けだして屋上へと向かっていった。


 エレベーターを待つ時間が惜しい、惜しくてたまらない。

 このビルは5階建てで、今いるフロアは3階なのだ。階段を走って上がる体力はあるから、俺は屋上目指して走った。 

 体育会系だから頭より体が先に動くのだ。いくぞ~レッツラ・ゴ———だ! おりゃ————!


 屋上へ着くと当然ながら誰も居ない。もう一回周りを見た。辺りに誰も居ない事をもう2度確認すると、俺はルークに話しかけた。俺は用心深いのだ。


 右手に握っていたルークを解放した。解放されたルークは宙に浮いている。

 黒い蝙蝠のような羽根を広げ、空中に浮いて口元をモグモグさせているルークに話し掛けた。

 しかし、いつも食ってるな。こいつは、どんだけ食うんだよ。まぁそれは置いといて、思いのたけをぶつけてみた。


「おい、ルーク聞いてくれ!」

『何だ?』

「実は、色々考えたんだが……俺はやっぱり金が欲しいんだ。んで、金持ちの口座から、100円俺の口座へ振り込んでくれ。ってのはどうかな?」

『――はぁ? 100円だと? 俺様は昨夜お前が寝ている間に、この世界を見て、この世界の状況を大まかに理解した。この日本という通貨の単位についてもおよそ理解したつもりがだ……100円だと? くっ——! セッ、セコイ! セコすぎて、笑ってしまいそうだ。ケッ…』


 ルークの返事に思わず赤面したが、今更自分の思いを曲げる訳にはいかない。自分を弁護するかの様に話しを続けた。クッ——!馬鹿にされたぞ、この野郎めぇ——!


「いいんだよ、セコくても……これには、続きがあるんだよ。いいか、良く聞けよ。500万以上の口座預金があるヤツは、100円。1000万以上なら、1000円。そして脱税しているヤツと、悪徳サラ金会社はその金額の5%を今から、すぐに俺の口座に振り込ますんだ。そして、振り込んだ後その人の記憶を消す!って案だ。しかも、日本全国対象ってのはどうだ? 結構な金が集まると思うんだけどなぁ?」

『ケッ…。制約が多いが、一応人のお金をタダで頂く訳だから、問題は無いかと思うが……。やはり今も昔も人はお金に走るのか?』

「じゃあ、問題は無しだな? いいか? やって見るぞ? 

 あっ、これは悪魔の契約じゃあ無いからな! いいな、後で俺の魂取るんじゃないぞ」

『フン、悪魔の契約は血のサインが必要だ。そんなセコイ願いなんて、屁の突っ張りにもなりゃしないし、契約にも入りゃしない。スキにしろ』

「ああ、分かった。じゃあ、やるぞ?」


 一応ルークに確認を取り、俺はズボンの右ポケットから悪魔のシッポを出すと、天に向かって先程の願いを念じてみた。


「——金よ~! お金よ~! 俺の貯金口座にやって来い————!」


 なんともヘンテコな呪文のような願いだ。すると先程まで晴天だったのに、急に雷雲が立ち始め雷が鳴り出した。すぐさま空は暗闇に覆われた。

 やがて、【ゴロゴロ——ドッカーン】と辺り一面に巨大な音が響き渡った。まるで近くへ雷が落ちた様な衝撃を覚えた。瞬間、暗闇の空が割れた。

 うへぇ——! なんだ? なにが、起きた?……。

 

 音が響き渡ると直ぐに暗闇は元の晴天に戻ってしまった。誰もが、今のは一体何だ? と思ってしまうほど時間にしてみれば短い時間だった。

 音にビックリして腰が抜けそうになっちまったぜ。なんなんだ? なにが起きた?


「ルーク、さっきのはいったい?」

『…………』


 俺の問いにルークは答えない。先程の一瞬だが暗闇が割れた空を見つめている。

 あの割れた空間の先に、なにかがあるのか? 霊感レベル1の俺でも、一瞬何か得体の知れないモノが居たような気がした。しかし、一瞬だからハッキリは分からない。気のせいかも知れない。霊感が無いから分からない。まぁ、いいか?


かたや上空を見るルークの表情が怪訝けげんな顔に変わっている。ハムスターの顔から、そんな顔つきが読み取れるから不思議だ。


「ルーク。どうした? さっきのはいったい?」

『——さぁな? しかし、何処かで確認をしてみたらどうだ?』

「ああ、そうだな……。銀行だ、銀行。銀行のATMに行けば、分かるだろう」


 俺はルークに促されて会社の屋上から下に降りて、銀行へ走って行った。今は仕事中だが、そんな事に構っていられない。これは結構期待できそうだ。宝くじよりも確実に、そしてより多くのお金が動いている予感がする。


 幾ら入っているかな? 一億有ったらどうしょうか? いやいや、もっと入っているに違いない‼ とニヤけて走り出している。





 五分後、俺は銀行のATMの前に居た——。


「フゥフゥ~お願いしますよ——! ハァハァ……」


 ATMに自分のカードを滑り込ませ、暗証番号を打ち込み残高の確認をしてみた。

“ウィ~ン”と云って画面が変わる数秒間が待ち遠しい。大好きな彼女との初デートよりも、待ち遠しい。早く! 早く! 早く残高を見せてくれ~! と心の中で叫んでいる自分が居る。


 やがて、残高表示の画面を観た時、俺は気を失いそうになった。


 ふぅ~~なんだ? なにが起こっている————? ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ~って、おいっ! 9の数字が9つ並んでいる。どっひゃぁ————! 

 一生遊んで暮らせられる金額だ。いや、一生遊んだって使い切れない金額だ。


「やった————! 俺は、やったど————!」


 世界の中心で、〇〇を叫ぶー! じゃないけれど、銀行のATMの前で、やったどー! と叫んでしまった。なに叫んでんだ! ダメだろ叫んじゃ。


 迂闊うかつにもATMのモニター表示をみて叫んでしまった。

 隣のATMで操作している人が俺の叫び声で、驚いてこちらを見た。


 ダメだ、ダメだ! ATMの前で叫ぶなんてそんな暴挙をしてたら、不審者か? 振込詐欺犯クソやろうと間違えられてしまう。


「落ち着け! 俺‼……。落ち着くんだ、俺!」


 自分自身に言い聞かせるように呟いた。しかしながら、嬉しくて笑いが止まらない。 凄げぇ~凄げぇ~や! にやけ顔で試しに50万円だけ降ろすと銀行から出た。


 銀行から出た時、残高を見ながら歩いている内に俺は思った。


 こんなに振り込まれているって事は、この世の中には、金持ちが多いのかな?

 いや、悪人が多いからこんな金額になったのかな? まあ、いいさ。金返せって言っても、もう返せないしな……。ハハッハッ……。さて、次は何をしようかな? と単純に思った。


 会社に戻っても仕事なんてやる気が一切起きないでいたが、急に訳もなく会社を辞めるのも考え物だ。

 会社を辞めて次に何をするかを決めてから、会社を辞めても十分時間が在る。もう別に働かなくても一生分のお金は俺の口座に入っている。もしも、誰かが気付いて、銀行や警察に行っても、身元補償制度が在る為に俺の住所はバレッコないのだ。どうだ、コンチクショー。まいったかー。へへへっ……。


 まあ、100円やそこらじゃ訴えないか? 脱税者や悪徳サラ金会社は5%だけど、そこまで手を回す事も無いと思うしな? 何て俺は頭が良いんだ? ハッハッッ……。と有頂天になっていた。


「さ~て、一旦会社に戻って、これからの事をユックリ考えよう? ルークお前の御陰で、俺は金持ちになったよ。ありがとうな。そうだ、ヒマワリの種を沢山買ってやろう」


 俺は肩に乗っかっているルークへ話し掛けた。

 ルークからの返事は無い。当然だろう、俺は幸せになったのだから。コイツは不幸を呼ぶヤツなのだから、俺が幸せになると不機嫌になる。そんな事は解っていたが、ついつい有頂天だから話し掛けてしまうのだ。100円や5%の損失で不幸になる奴なんて居ないから、ルークは不機嫌だ。


『——五月蠅うるさい、黙れ! フン!』


 ルークの不機嫌な返事も俺の耳には届かない。俺は口笛を吹きながら、会社へ戻っていった。


 その足取りは軽く、ダンスステップを踏んでいるようだった。

 

 スロー、スロー、クイック・クイック~。あれっ? このステップって、ダンスはダンスでも社交ダンスじゃないか? 何やってんだ、俺? へへへっ……。










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