4 悪戯
翌朝、俺は枕元でやかましく騒いでいる声で目覚めた。昨夜の飲みすぎもあって頭がガンガンしている。なにやら、朝っぱらから
朝俺は目覚めた時、混乱した。枕元にはハムスターの背中にコウモリの羽根が生えている奇妙な動物が、目の前の宙に浮かんでいる。そいつが俺に話し掛けている。
『起きろ——! 起きろ、起きろ——!』
「ウルセッ——んだよ! ったく……。あっ! もうこんな時間じゃないか? これじゃ、遅刻しちゃうじゃねぇか? もう何で、目覚まし動かないんだよ?——」
『だから、さっきから何度も、起こしているだろ? お前、耳は無いのか?』
「何だ? お前?——うわっ! 何で、お前が言葉を喋れるんだ?——―。何なんだ、お前は? 一体?……」
『もう? お前の頭の悪さは天下一品だな? 昨夜、俺様のシッポをちぎっておいてよくもそんな事が言えるな』
何なんだ——? と思わず叫んでみるのも当たり前だ。しかし、何となく見覚えがある。頭に手を当ててユックリと思い出す。そういえば、後頭部が痛い。
そうだ‼ こいつは、あ・く・ま・だった。
「そういえば、お前昨夜鏡から出てきたけど、あんなに簡単に出て来れるのか? もしかして、そこらじゅうに悪魔がいるのか?」
『何を言っておる。そんな、合わせ鏡だけで簡単にポンポン悪魔が出てきたら、この世は悪魔だらけになってしまうわ』
「まぁ、そりゃそうだけど……。なんか本で見た事あるけど、怪しげな召喚の儀式っていったら魔法陣が必要なんじゃないか? 生贄とか?」
『魔法陣なら、有るじゃないか? ほれ、ベッドの枕と床を見て見るがよい』
「——へっ!?」
俺はこの悪魔に言われるまま、ベッドの上の枕と床を見た。昨夜頭を打ったので頭が切れ血が出ていた。枕は俺の血が付いてなにか模様のようなシミを付けている。なんだか星の模様に見える。方や、床に目を移すと
『そらみろ。頭に血の☆の文様が有り、床一面に円と幾何学模様。簡素だが十分な魔法陣じゃないか。ケケケッ……』
「えっ、そうなのか?——」
『目覚まし時計で、頭に☆形の傷を作れるとは思わなかったが、まあまあの仕上がりだ。まともな魔法陣なら完全体で出て来れたが、今回は仕方が無い。そのうち何とかなるだろう』
「なんだと? 俺の頭に☆の傷が有るって?……
まさか、JoJoの愉快な仲間になってしまったのか?」
『ああ、そうだ。13日の金曜日。その☆の傷と血。合わせ鏡とパワー不足ではあるが床の魔法陣もどき……。役不足だがな』
ヤツの聞きながら、なんとなく思い出した。俺がコイツを鏡から偶然にも呼び出したのか? なんて事だ!? やらかしたのか?……。あっ、そうだ!? 確か、昨日コイツのしっぽを俺がちぎった様な記憶が?……。
「あっ、——! シッポは何処だ?……」
『オイ、シッカリしろよ。昨日、ポケットに入れて寝ていたじゃないか?』
「あっ、ホントだ……良かった」
『良かったって、どう言う意味だ?』
「いやいや、別にお前を疑う訳じゃないんだよ」
『フン、大丈夫だ。別に取り返そうなんて思っていねぇから』
内心、コイツ、俺の心が読めるのか? と俺は思った。ズバリ的中だ。なんて奴だ。
『アッ、今俺の心が読めるのか? って思っただろ?』
「——ど、どうして?……」
『フン、だから、俺様は大魔王だって言っただろ? 人の心を読むなんて、朝飯前だ』
「そうか——」
コイツの前で余計な事は考えない事にしよう。と俺は再び思った。もう一回言うぞ、なんて奴だ。
「で、どうやって、檻から出られたんだ? お前、魔力が無かったんじゃないのか?」
『ふん。昨夜は慌てていたからな。こ——んな、しけた檻の一つや二つ、抜け出す事なんて朝飯前だ。っつ~うの』
「何で、そんなに自信満々なんだ!?」
ヤツは又、偉そうに言っている。まあいいや。こいつは、俺に危害を与えるつもりは無いようだ。俺に悪さをするならとっくにやっているだろう。寝てる間に魂を獲るつもりなら俺はもう生きていられないだろう。取り合えず、安心だな。何なんだ、こいつは? 昨夜の脅しは一体、なんだったんだ?
『ところで、今日の仕事はどうするんだ? 休むのか?』
「エッ?——アッ、忘れてた! 昨夜は平日の接待だった。今日は金曜日だったんだ。それに、今日は先週の報告書を出さないといけないんだった。
おい、確かお前の名前はルークだったな? お前は、メシはどうする? って何か食うか? でも俺の魂はやらないが……」
『フンッ、昨夜、お前の仲間から貰った物がある。これって結構旨くて、ナカナカいけるぞ? お前も食うか?』
「仲間って?……。おい、ハムスターは俺の仲間じゃないってーの。ハムスターってネズミじゃんか? ってか、俺はヒマワリの種なんか食わね~よ」
ルークはそう言いながら、自分のホホ袋から再びヒマワリの種を出しながら食べ始めた。まるでハムスターだ。と言うより、ヤツはハムスターと同化しているから仕方がないのだろう。しかし、頬袋にどんだけヒマワリの種を入れてんだ。おい、今、どんだけぇ——!って突っ込みそうになったぞ。
「いらねーよ。お前変わってるな? 悪魔がヒマワリの種を食べるなんて?」
『フン、仕方無いのだ。昨夜お前がシッポをちぎった時、俺様を壁にぶつけたではないか? その時に最初に見た生き物が、お前の飼っているハムスターだったんで、仕方なくその生き物の姿と同化したんだ。でも、この格好も結構気に入っておるぞ』
「ふーん——。そうなのか? 変わってんな、お前? おっ、そうだ俺は、これから会社へ行くけど、ルークお前はどうする?」
『俺様も一応、お前について一緒に行くとしよう。一応、鏡の中から見ていたが、昔と今がどれだけ変わっているか観たいからな。あっ、そうそう一言断っておくが、お前以外には俺様の姿は見えないから、人前で俺様に話し掛けない様にしろよな。俺様は一向に気にしないが周りから見ると、変な独り言を言う人に見られるからな。それから、少しでいいからヒマワリの種をポケットに入れて持っていってくれ。俺様は魂を食ってないから、お腹が減るんだ』
「ふ~ん~そうか。解った。じゃあ、会社へ行くとしよう」
『ああ——』
そして俺達は連れだって会社へと向かって行った。俺の肩には人には見えない悪魔ルークが座ってヒマワリの種を
おい、ヒマワリの種の殻をボロボロこぼすんじゃね~よ。俺の肩が、殻まみれじゃね~か。
そして、俺のズボンの右ポケットには、悪魔ルークのちぎれたしっぽが入っている。少し気持ち悪いが、ここは我慢だ。ヤツは取り返さないと言ってはいるが、悪魔は平気で嘘を付くから、気を付けないとな……。
さて、これからどんな事に使おうかと想いながら、会社へ向かっている俺の顔は、他人が見るとさぞニヤケて見える事だろう。「人の不幸は蜜の味」と言う言葉が在るくらいだから、今まで受けた屈辱を晴らしてやろうと俺は思っている。
何て楽しいんだ。ハッハッハッ……! と声を大にして叫びたい心境だった。まるで、スキップを踏んでいる様な心持ちだった。
自宅から近くの駅まで徒歩で10分。そこから電車に40分程乗り、降りた駅から徒歩で20分歩くと俺が勤めている会社がある。いつもなら、余裕が有るが、今日はギリギリの時間だった。
ふぅ~良かった。ギリギリ・セ~フ——!
俺は自分の机の前に座ると、得意先の先週分の見積もりをはじめた。約1時間半の後、出来たその見積書を持って課長の所へ行く。
この課長いつも部下には厳しくて小言ばかり言う嫌なヤツだ。年は50過ぎで、髪の生え際がよく見ると何か変だ。カツラ疑惑が掛かっているが、誰も怖くて本人へは聞けない。名前もカツラダだなんて、笑っちゃうよ。俺を目の敵の様に見ている課長は、俺も大嫌いだ。
「
「ああ、後で見ておくから、そこに置いておいてくれ」
「はい、お願いします」
ふぅ~良かった。今回は何も言われなかったぞ。やれやれだ。俺は溜息とも取れる独り言を小さく呟くと、次の仕事を始めた。昨夜の接待の資料はどこだ? どこ行った?
30分後に
「おい、無神君、チョット来い!」
「えっ、はっ、はい……」
急に大声で俺を指名するその内容に、俺はピンと来た。さっきの見積書が気に入らないんだな! と想いながら課長の前に行く。長くならなきゃいいが……。
「おい、無神!お前、一体幾つになれば、まともな見積書が書けるんだ? いいか、お前は、やる気があるのか?」
出た、やはりそうだった。この後、課長の説教はこれから30分続くのが日課なのは誰もが知っている。だが、今日の俺は素直に課長の説教を聞く耳を持ち合わせていない。俺のズボンの右ポッケットには、あの悪魔のシッポが入っている。課長に怒られながら、俺は何をしようかと考えた。
——そうだ、この課長のヅラ疑惑を暴こう。
右手をズボンのポケットに忍ばせて、悪魔のシッポを掴んだ。そして課長の頭を見て思いっ切り念じた。 風よ吹け~そして、この課長の髪を吹き飛ばせ――! と。
するとひとりでに窓が開き、突風が部屋の中に吹き荒れた。その風は机の書類と共に、課長のカツラを吹き飛ばす。課長のカツラは窓の外に飛ばされた。窓の外を、まるで意思を持ったクラゲのように宙を舞っている。おい、未確認飛行物体発見だぞ! UMAだ———‼ 誰かNASAに電話しろ――!!
「うわっー! カツラ、俺の20万円のカツラが——!」
課長は慌てて自分のカツラを追って、部屋を飛び出した。
「「「アハハハッハッ……やっぱり、あの課長カツラ着けていたんだ」」」
この部屋にいる全員が大声で笑った。それだけこの課長は嫌われていたのだろう。
「あっ~スッキリした。ザマぁ見ろ!」
『アハハッハ! 俺も、ついつい笑ちゃったぜ。まさか、あんな所で使うなんて? お前って意地悪だな?』
「だろ? 俺って結構こんな悪さって、好きなんだ。あの課長みんなから嫌われているから、いい気味だ。さて、今度は誰に使おうかなぁ?」
周りを見渡しても、他に特別に嫌いな人間が見あたらない。まあいいや、別に慌てなくても……。その内、使う時期が幾らでもくるだろう。と安易に思っていた。
先程の風で飛ばされた多くの書類を、仲間全員で拾い集めながら俺は考えていた。
さて、怪談話の「猿の手」じゃなくて、この悪魔のシッポ何に使おうかな?……。
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