7 副業
プルルルルー・プルルルルー・プルルル——。
自分のデスクに戻ると、備え付けの電話が鳴った。何もかもやる気がしない。こんな気持ちになるのは、やはり側に悪魔が居るからなのだろうか? まるで生気を抜き取られている様な感じがする。少し間を空けて電話を取った。声に張りが無いまま対応する。誰だよ~、電話なんか掛けてくんじゃねぇ~よ。
「はい、SO電器、営業三課ですが……」
「あの~無神さんをお願いします」
「ええっ?……。私が無神ですが?」
「ああ~良かった。私です。神代です。さっき、お会いした……」
「ああ~卯月ちゃんか?……」
何だ、内線か? 途端に気が楽になる。なんだ? 俺に気でもあるのか?
「どうしたの?」
「あの~私、又あの悪魔くんに会いたいんですが……。内線電話でいちいち連絡を取るのもなんなんで、無神さんの携帯番号を聞きたくて?——。いいですか?」
「——ああ、いいけど……」
「じゃあ、私の番号は、090―8765―4321です。じゃあ、無神さん、ワン切りしてくれますか?」
「——ああ、チョット待って————。掛けたよ」
「——あっ~来た。有り難うございます。今度この携帯でラインしますね。それじゃ……プッープッープッ——————」
「もしもし?……。あれ?……」
人がまだ話かけてるのに、先に勝手に切りやがった。一体どういうつもりだ?
何だか俺自身の思いとは裏腹に、事態が勝手に動き出そうとしている。それは、今始まった事では無く、ひょっとしたら昨夜から始まったのかも知れない……。
ふぅ~と又ひとつ溜息をついた。その俺の態度を横目で見ながらルークは話し掛ける。
『おい、お前。いつになったら悪さをするんだ? 俺はお前に、早く人の魂を差し出して欲しいんだが……』
「何で、俺が人の魂をお前に差し出さなきゃいけないんだ?」
『何を言っている。お前は、俺様のシッポを持っているだろうが?』
「そりゃ、持っているけど……」
『俺様は長い間封印されていたから、早く人間の魂が食いたいんだよ——! 早くしろよ』
「おい、いい加減にしろよな。何で俺がお前の為に人殺しをしなきゃならないんだ?」
『フン! そうか——。所詮お前は善の側か?』
「何言ってんだ?」
『——そうか? 仕方が無い。では気晴らしに、又・外を散策してこよう……』
そう言い残すとルークは窓の傍に行き、窓をすり抜け外にフワフワと飛び立ってしまった。一方俺は仕事が全く手に着かない。ユックリとした時間が俺の側を流れていくのが解る。どうすりゃいんだよ、まったく……。
この悪魔のシッポを使って何をしようか? 折角あるんだから何かに使いたい。とは言ってもどうすれば?……。アッ——! あったぞ。あった。この方法なら感謝されながらも他人を不幸に出来る。そうか? その手があったか? フフフッ……。
俺は自分の案に浮かれ有頂天になっていた。その思いが頭をよぎると再び顔がにやついてくる。
その時ポケットのスマホが鳴った。
【プルルルルー・プルルルルー】
上着の内ポケットからスマホを取り出して、ディスプレイを見た。
「んっ? 何だラインか? ああ~早速あの
会社の勤務終了後、俺と卯月は連れだって焼肉屋にいた。
会社を出て最寄りの駅の近くに在る店だ。今後の事について話しておきたかったのだ。給料前だが焼肉屋へ行くお金はある。悪魔のシッポで他人のお金を、ネコババしたからだ。ビールとウーロン茶で乾杯をして、肉を焼きながら話し出す。ルークはいつの間にか俺の肩越に戻っていた。
「ねぇ、無神さん……。彼女居るの?」
「居ないけど。君、卯月ちゃんは?」
「私も居ないのよね——! だって、私は結局
「——ああ、だろうね」
「もう~そんなに婿養子って嫌なのかな?」
「まあまあ、そんな話は又今度。今は、コイツの事についてだ。俺はコイツの力が使えるから、その力を何に使おうか? ってな事だ」
「——えっ? 悪魔くんの力が使えるんですか? で、何に使うんですか?~」
「復讐屋だ。解りやすく言えば、現代の必殺仕置き人だ」
「うわっ~何だか、格好いいですね~」
「この悪魔は悪さがしたくてならない。と言った感じでね、俺に人を殺せ!って言うんだよ。勿論俺はそんな大それた犯罪は出来ないが、殺人や暴行以外で出来る復讐を人に換わってやろうか?って思っているんだ。
「う~ん——。最初は単純に格好いい! って思ったけど、じっくり考えてみる必要は在りそうね? だって、それ、犯罪ギリギリだと思わない?」
「う——ん! やっぱりそうかな?」
『バカか、お前? そんな女の一言で惑わされるんじゃねえよ。俺様は、一刻も早く魂が食いて~んだ。早く俺様に魂を食わせろ——』
「駄目よ、ん——。確かルークだっけ? 貴男は魂より、これを食べてなさい。
後で、モフモフしてあげるからネ♡」
卯月はルークにそう言いながら、ポケットから何かをルークへ差し出した。どこにでも売っている透明のビニールの袋の先を破り、中身を取り出した。
『何だ、これは? んっ?——。はううっ……♡ オイ、これって結構いけるな?』
卯月から貰ったピーナッツをテーブルの上で、嬉しそうに頬袋へ詰め込むルークがいた。なんでも食うんだな? 今度、チーズでもやってみようか?
「何やってんだ、何で、可愛い子ぶってんだ。お前はやっぱりハムスターじゃないか。魂、よこせ!って言ってんじゃねーよ。黙って、ピーナッツでも食ってろ」
『——うるせぇ!』
「ルーク、かわいい~。いっぱいあるから、ゆっくり食べてね~。
あっ、そうそう……。無神さん。あの~言いにくいんだけど、最近変な夢ばっかりみるんですけど、ひょっとして、この悪魔君に何か関わりでもあるんでしょうか?」
「ん? どんな夢?」
「んっ~何て言えばいいのかなぁ? 翼を持った狭間の者とか、魔物達とか、世界が滅びるとか、巫女の血が~光りの主が~とかが、毎晩夢に出て来て私に語りかけるんです。これって、一体何なんでしょうか? それと今日、無神さんと悪魔くんに出会ったものだから、何か関係しているのかな? って思っちゃったんです。何か、解りますか?」
「そう言われてもな?~。俺は夢占い師じゃないから、解らないよ。そんなに気にしなくても良いんじゃない? もし、何か大事な事なら、何かの形で進展すると思うから……」
「そうですね~。でも、何か引っ掛かるんですよね~。あ、それから気になる事がひとつ——」
「何が?」
「ルークと無神さんに会う前に、外は晴れていたのに急に雷が鳴ったでしょ?」
「ああ、知ってるよ。でも雨は降らずに、すぐに又快晴になったよね」
「ええ、その時にね、凄い圧迫感を感じたんですよ。私タマタマ窓の外をボンヤリみてたんですけど、急に外が暗くなって稲妻が空に走った時に、空が割れたように見えたんです。その時にね、一瞬ね、鬼の様な顔がその割れた空からこっちを覗いている様に感じたんですけど……」
「ふ~ん、鬼ねぇ?……。あぁそう言えば空が割れた時に、俺も何か変な感じがしたんだよな……。何だろうなぁ~って……。それは良いけど、卯月ちゃん、肉が焦げてるよ」
「キャ——大変! お肉久しぶりだから食べなくっちゃ——頂っきま~す! うん。美味しい~い。私ね、カルビやハラミもいいけど、ホルモンの小腸が好きなの~。ぷりっぷりの脂身が美味しいですよねぇ~」
「そうだね~。でも、ロースやヒレも出てくるから楽しみにしてよ」
「はーい。やった~♡」
こうして俺達は焼肉を満喫していた。その側で、悪魔ルークは何か言いたげな表情で俺達をジッと見ていた。何かを考えている、いや、迷っている様に赤く光るルークの目が、神代卯月に向けられていた事を彼女は知らない。
おい、この
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