第5話「勇者庁に連行された件・後編」
「民間人がもうけっこう死んでるみたいだから、これ以上の被害の拡大を防ぐつもりで戦ってね」
現場に急行するリムジンの中で播磨さんが俺に念押しした。
もっとも、彼女の口調に緊迫した感じは無い。なんか他人事みたいだ。
リムジンはいつの間にか警察車両みたいにサイレンを鳴らしている。スモークガラスの窓からは一定間隔で光が入ってくる。刑事ドラマみたいに運転手が屋根に回転灯を置いたのかもしれない。
本当に歌舞伎町に『魔神』が現れたのだろうか?
俺はまだ半信半疑だった。
「油断してると勇者でも死ぬからな」
金髪がおもしろくなさそうな表情を向けてくる。
「ご心配どうも。でも俺は一撃で『魔神王』を倒して帰ってきたんだぜ?」
言い返すと金髪はキョトンとして、すぐに左手で自分の顔を押さえた。
「ハァ」
これ見よがしに溜息をつく。
「シン」
黒人の大男─ジャンゴ─が俺を横目に見下ろす。
「なんだよ?」
「間違えるな。『魔神』に
「マジ?」
俺は二重の意味で驚いた。
35人死んでいることと、それほど多くの帰還勇者がいることに。
「帰還勇者って何人いるんすか?」
ジャンゴにとも播磨さんにとも無く、驚きでキョロキョロしながら聞く。播磨さんがサイレン音の中でもよく通る涼やかな声で、
「3年前、記録されてるだけで世界で突然800万人が行方不明になった。その後、異世界で異能力を身につけた者たちが続々と帰還し始めた。白い光に包まれてね。いまデータがあるだけで帰還した勇者は世界で785人。君を入れると786人。そのうち453人がすでにこの世界に出現しはじめた『魔神』との戦いで死んでる」
そう教えてくれた。
「800万分の786人って、多いか少ないかわかんない数っすね」
「少ないだろ。1万人に1人も生還していない計算だ」
金髪が鼻で笑って横槍を入れてくる。
俺がそっちを睨むと、ジャンゴが、
「だが、まだ勇者の帰還は続いてる」
「俺がそれだな。786番目だっけ?」
「今日が君の命日にならなければな。登録前に死んだらノーカンだ」
「てめぇ、いちいちうるせぇぞ?」
もう一度キザ金髪を睨みつけた。
だが播磨さんに
「
「へぇー」
「まあ、死ぬなってことだな」
ジャンゴが重ねた。
金髪はサイレン音とともに高速で流れていく窓の外を眺めている。
そういや朝飯食ってねぇな・・・・・・とぼんやり考えていると、
「もうすぐ歌舞伎町だよ」
播磨さんが告げた。
歌舞伎町のドンキホーテ前の大きな交差点でリムジンが停る。サイレン音も同時に止まった。有名な靖国通りだ。
「降りて」
播磨さんの指示で俺はジャンゴの高い位置にある膝を跨いで車外に出る。
「死ぬなよ」
降り際に俺の背中にジャンゴが言った。
「おう」
振り返って頷く。
ちらっと見ると金髪は不貞腐れたようにそっぽを向いている。
──なんだよこいつ、お子ちゃまかよ
思わずクスッと笑いながら、俺は歌舞伎町に足を下ろした。
目の前にはドンキホーテがある。
交差点には車も走らず、それどころか見える範囲には誰もいなかった。
ただ、上空にはヘリが2、3機、旋回を続けている。
朝っぱらの歌舞伎町とはいえ、あまりに静かすぎて逆に不気味だった。
歓楽街らしさと言えば乾きかけのゲロが落ちてるくらいだ。
ドンキや他の店で働いてるの店員たちはどこに行ったんだ?
「誰もいないっすけど・・・・・・」
ちょっと歩いてから振り返ると、播磨さんだけリムジンの外に降りている。
落ちてるゲロを跨いで俺に近づきながら、
「避難勧告が出てるからね。警察もすでに歌舞伎町全域を立ち入り禁止にしてる。でも確実に逃げ遅れた人達が建物の中で助けを待ってる」
「ふぅん。で、魔神は?」
「向こうから来ないなら君から探しに行きなさい」
播磨さんの氷のような眼差しが俺の目を見る。
「君、魔力の感知もできないの?」
「できたらやってるよ」
「あっちの方から腐ったドブの臭いみたいな吐き気のする魔力がどろどろ漂って来てる」
播磨さんが俺の背後を指さす。
どろどろ漂うなんて言葉はじめて聞いたぜ。
「そっか。そりゃどうも」
俺は礼の代わりに小さく頭を下げて走り出した。
歌舞伎町の土地勘はないが、まあ、指さされた方に向かって走ってれば魔神にぶつかるだろう。
走りながらチラッと振り返りる。
──どうせあいつら、後から尾行してきてるんだろうな。だって俺が本当に魔神を倒せるか見たいって言ってんだし
さすがに露骨な尾行は確認できなかったので俺は向き直り、走りながらさらに太ももと脹ら脛の筋肉に力を込めた。
「見てろよ温室育ちの生意気クソ金髪坊ちゃんッ!」
俺は叫びながら高く跳躍した。
女神が約束した通り、異世界で手に入れた力はそのままのようだ。
跳躍の距離や高さは『跳躍力』というステータスで決まる。
走りながらの跳躍なので前方に向かって高く上昇する。
アスファルトの無人の往来が眼下に遠のく。空気を切る甲高い音が耳のすぐ後ろで鳴り、ネオンの消えているビルの側面の無数の窓が高速で視界を斜め下に降下していく。
「こらぁ!どこだ魔神! 」
俺は失速する直前にビルの屋上の縁を蹴ってさらに上空に飛び上がる。
周囲に俺より高い構造物がなくなる。
視界がパッと開けた。
「ん?」
都会特有の迷路のような高い建物の群れのせいでそれまで分からなかったが、かなり近く、街の一角から黒い煙が上がり、俺には追い風になるやや強めの風の風下に向かって流れている。
ビルが複数崩れているのが見えた。
──あそこか
煙に近い地点に着地しようとして、気付く。
自由落下に任せてぐんぐん迫る視界の中、崩落したビルの瓦礫が散らばるアスファルトの路上のところどころが赤い丸模様で汚れている。
「がァッ!」
それが液体だと気付くのが遅れ、俺は着地と同時に足を滑らして
「痛てぇ・・・・・・なんだよこれ」
呻きながら路上に両膝をつき、両手を突いて立ち上がる。
俺を滑らせた手に着いた赤い液体を臭ってみると、生臭い。明らかに生き物の『血』だった。
──民間人がもうけっこう死んでみたいだから
播磨さんの言葉を思い出す。
「まじかよ」
俺は咄嗟に辺りを見回した。
路上の至る所に、生き物が爆発したように血が激しく飛散したり、または赤い水溜まりになっている。
半壊したビルの上げる黒煙の刺激臭で今まで分からなかったが、四方に血の濃い生臭さが立ち込めていた。
──けっこうって、どんだけ死んでんだよ?
臭いで吐き気がし、服の裾で鼻と口を押さえた。
アスファルトの地面があちこち陥没している。その陥没部分と血で赤く濡れている部分の多くが重なっていることに気付く。
右側のビルの側面にも血が一面に付着していた。
「あんた勇者か」
左側のビルの方から声がする。
振り向くと、白髪頭の小柄な老人だった。
紐みたいなネクタイにチェック柄のベストを着たその老人が俺を見、よたよたと走ってくる。
年寄りの年齢はよく分からないけど、だいたい70歳くらいだろう。
「まだ死にたくない、助けてくれ」
地面の血も気にせずまっすぐ走ってきた老人は、俺の肩に凄い力でしがみ付くなり般若のような形相で訴えてきた。
顔が近い。息がかかる。
俺は軽く仰け反って、服で鼻と口を押さえたまま聞いた。
「これやったの、魔神?」
老人はあたりを警戒するようにキョロキョロしながら頷く。それから、
「あれ、わしの孫」
ゆっくりと近くの路上を指さした。
その方を向くと陥没したアスファルトの底に、他より比較的小さな血溜まりがあった。
「
俺は血溜まりに向けていた目をまた老人に戻す。
俺を見つめるその目が、恐怖と怒りに震えていた。
「あんた勇者だろ?わしの孫の仇、とってくれ。頼む」
その目が涙で潤む。
俺は、もう一度小さな血溜まりを見た。
──なんで俺はこの人を可哀想って思えないんだ?
すこし気の毒に感じる程度だった。
──孫が踏み潰されて殺されたのに
俺は自分の冷たさを不可解に思い、すぐその理由に気付いた。
あちらの世界では生活のために多くの冒険者がダンジョンに宝探しやモンスター狩りにおもむき、頻繁に人が死んだからだ。
異世界で「死」はもっと身近だった。
俺はレベルアップのために第一階層で雑魚モンスターを倒し続けたが、その雑魚であるゴブリンの群れに襲撃されて喰い殺された冒険者も珍しくない。
──ただ・・・・・・
俺は老人の怒りと悔しさで潤んでいる目を見つめた。
──この世界に確実に存在する、ただ生きることすら許さない圧倒的な『理不尽』が目の前にある
その事実が俺の人生と重なる。
俺は、怒りで全身が熱くなった。
「俺が今からその魔神をぶっ殺してやる」
俺の肩を掴んでいる老人の手が激しく震えた。嗚咽する声を出す。
「・・・・・・頼む」
その時、ビルや路地に隠れていたらしい大勢の男女が声を上げながら俺たちに駆け寄ってきた。
「勇者ですか?!」
「助けてくださいっ、お願いします!」
「あんた遅いって!勇者庁は何してんだよぉッ!?」
「魔人は?魔人はもう駆除したの?!」
「わたしの彼氏死んじゃった、なんでもっと早く来てくれなかったの?!」
「やだぁ怖い、もうやだぁッ!」
俺は大声で喚いたり号泣している30人程の人間の群にあっという間に取り囲まれる。
──ちょっと落ち着けって
そう言いかけた。
が、辺りが不意に陰に覆われる。
咄嗟に頭上を見上げると、空に巨大な人型の影があった。
上空から現れた赤茶けた色の巨人が20メートル程向こうに着地する。
その瞬間、巨大な物体が着地した衝撃が発生した。これまで俺が体験したことの無い爆発的な地面の揺れを生む。
着地の威力はその足元のアスファルトを木っ端微塵に粉砕し、爆風が発生した。
「ああああああああああッッッ」
「い゙ゃあああああああああッッッ」
パニックの悲鳴をあげる男女の群がさっきの老人同様に俺の腕や肩を乱暴に掴む。いくつもの爪が体のあちこちに食い込んできた。
同時に砂礫を巻き込んだ爆風が砂嵐になって俺達を襲う。
俺は体中を掴まれたまま、咄嗟に顔を横に背けてギュッと目を閉じた。
バチバチと細かな砂がぶつかっていく。
男女の区別もできない甲高い悲鳴がし、ビルの窓ガラスや看板が次々粉砕されるのが音で分かる。
猛烈な爆風は数秒で止み、俺は顔を横に向けたまま目を開けた。
左側頭部を大きく
「嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ」
「来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ」
また悲鳴があがる。
俺は正面を向いた。
20メートルくらいの距離。
そこにビルの6階とほとんど同じ背丈の人間が立っている。
──いや、違う
頭に角が生えていた。
体は人型だが、頭は大きな角の生えた牛だ。
──ミノタウロス
俺は口の中で呟いた。
牛頭の魔神─ミノタウロス─が静かに上半身を伸ばす。さらに背が高くなる。
余裕で20メートル以上あった。
ボディビルダーを思わせる、固いコブにも似た全身を包むボコボコとした筋肉。
全裸の
赤茶けた硬そうな体毛が前腕や胸元にだけ、分厚い鎧のように生えている。
右手には柄の長い斧。左右に刃が付いているからハルバートとか言うやつだ。
「勇者だろ何とかしろよぉッ!」
ラッパーみたいな格好をして長い顎髭を生やした、俺より少し年上ぐらいの男が青白い顔で怒鳴る。
「じゃあ離せよ!」
俺は言った。
その一言で一斉に俺を掴んでいた手が離れる。
と同時に全身に氷水を浴びたような冷たい殺気を感じた。
「伏せろ!」
咄嗟に叫んで俺は人と人の間に倒れ込んだ。
その刹那、大気を切り裂く鋭い轟音が頭上を横切り、遅れて吸い込まれそうな突風が巻き起こる。
倒れたまま振り返ると、さっきのラッパー風の男を含む10人近くが胸から上だけになって、血肉や内臓を赤く撒き散らしながら空中を舞っていた。
「いやああああああああああああああああああああああああッッッ」
伏せるのに間に合って生き残った男女が半狂乱になり、飛び散る内臓や、胸から下だけの上半身が噴射する血を浴びて断末魔のような悲鳴をあげる。
ハッとして前を向く。
俺は立ち上がりながら牛頭の
殺気のこもった巨大な目。
「あんたらはビルの中に避難してろ!」
俺は怒鳴ると跳躍し、一気に
今あいつ自身が〈突き〉を選んだように、あの長い獲物─ハルバート─はこのビル街では上手く振るえないはず。
──なら
俺は高速で迫る
──攻撃はハルバートの「突き」か「直上」、それか「蹴り」「拳」のどれかだ
どの攻撃も、攻撃に移る前のモーションがでかい。
だったら
──剣ッ
頭の中で叫び右手を握る。
刹那、白い光が発生し、次の瞬間には俺の手に剣が握られている。
女神アスタロが寄越した、名もない雑魚剣だ。
けど俺はこれで魔神王を葬った。
このまま斜め下から懐に突っ込んで、一撃で、殺す。
「って?!」
俺は反射的に着地した。
0.1秒程の差でゴッと大気を切る音が襲う。
巨大なハルバートの刃が俺の数センチ真横を駆け上がった。
その瞬間、視界が乱れる。
体が強烈な爆風に巻き込まれ揉みくちゃにされる。
「がはっ・・・・・・」
一瞬意識が途切れていたらしく、咳き込んだことでハッと意識が戻った。
目を開くと俺はどのビルよりも高く舞い上がっていた。
アスファルトらしき黒い瓦礫と共に舞い上がった俺の真下に、ハルバートを振り上げた体勢の
その足元のアスファルトが弧を描いて
自らの足元に向かって突撃してくる俺に向けて、下から切り上げたらしい。
直撃は
右手にあるはずの剣が無い。
どうやら吹き飛ばされたはずみに離してしまったみたいだ。
無表情のはずの
「オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッッッッ」
俺は気付く。
この状態では奴のハルバートの「突き」を避けることができない。
この咆哮は自らの勝利の確信に違いなかった。
右手に持ったハルバートを「突き」の構えにする。
「オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッッッッッッ」
爆風に巻き上げられた俺の上昇が止まり、落下に転じる。
奴は自由落下しかできない俺を狙うつもりだ。
俺は思った。
──牛なのに意外と頭いいんだな
播磨さんは俺がユニークスキルを持たないことを信じられないようだった。
どうやらあの眼鏡だとすべての情報が取得できるわけじゃないようだ。
確かに俺は女神が勇者に最初に付与するはずのユニークスキルを与えられていない。
女神に「付与を試したものの、あなたには全ての勇者に発現するはずのユニークスキルが何故か発現しなかった」とハッキリ言われた。
けど、ダンジョンの第一階層で来る日も来る日も雑魚モンスターを倒していたある日突然、あるスキルを獲得した。
レベルが12に達した時だ。
『
自分で勝手にそう呼んでいる。
初期スキルのユニークスキルとは違い、後天的に獲得したスキルだからだ。
俺はそのスキルで、あの『
──剣
頭の中で呼ぶ。
再び白い光が生まれ、右手に剣が現れる。
眼下の
──オルタナティブ・スキル、発動
俺は頭の中でそう唱えた。
一緒に巻き上げられた瓦礫も落下をはじめる。
俺は空中で体勢を変えた。足を空に、頭を地面に向ける。そして、その瓦礫の中の特に大きなものを両足で強く蹴った。
ハルバートを構える
そのせいで奴は一瞬、判断が遅れた。
今の俺は、スピードに「
次の瞬間には俺は
どうやら俺の動きが見えなかったようだ。
当たり前だ。
今の俺のスピードは
無限に加速しないのは、その腕に激突しないために俺が自分で速度を調節しただけだ。
制限を課さなけりゃ、どこまでも速くなれる。
俺は
いや違うな。
攻撃力を「
「くたばれ赤べこ野郎ッッッ!」
無名の剣が空を切る。
炎も、雷も、極寒のブリザードのような氷柱の嵐も何も出ない。
だが、これで十分だった。
この剣の攻撃範囲は半径5メートル。
俺はまだ宙にいる。
──バガッ
鈍い音が響いて、ハルバートを構えたままの
無数のワイヤーに全方位から切り刻まれる巨大な牛肉のようだった。
一瞬で
巨体は完全に崩壊した。
俺が路上に着地すると同時に、頭上からドス黒い血が滝のように降り注ぎ、馬鹿でかい腸やら腎臓やら膵臓やらがドカドカと襲ってくる。
「うわああっ」
気持ち悪くて逃げようとしたら、嘘だろ、血で滑って転んだ。
四つん這いから立ち上がろうとして、ふと嫌な予感が。
上を向くと、魔神の無傷だった右脚が巨木のように倒れて来るのが目に入った。
「──ッ」
咄嗟に腕で顔を守り目を閉じると、何かに掴まれた気がした。
ゆっくり目を開けると、なぜかビルの2階程の高さを飛んでいる。
「へ?」
キョトンとして目を上に向けると、巨大な鷹・・・・・・ではなくグリフォンらしき魔獣の鉤爪で服の背中を掴まれていた。
「ええッ?!」
混乱する俺。
──なんでグリフォンがこの世界に?!
そいつは唖然としている俺を
「ご苦労、もういいぞ」
背後で聞いたことのあるキザな声がする。
振り返ると金髪──
それを合図にグリフォンが白い光に包まれて一瞬で消える。
何が何だかよく分からずポカンと金髪を見つめていると、
「僕は召喚師だからな」
つまらなそうに言った。
「なんだその間抜け面は。礼ぐらい言って欲しいな、この僕が、わざわざ君を助けてやったんだぞ」
「おお、助かった。ありがとう」
言うと金髪はびっくりしたらしく、目を見開いてから顔を背けて咳払いした。
「そ、そうやって素直にしていればいいんだ」
「お前ツンデレかよ」
俺が苦笑すると、
「また侮辱する気か君は?!」
顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。
いや、ツンデレは別に侮辱じゃないだろ。
「見てたよ。本当に一撃でミノタウロスを駆除したね」
声がして右手側を向く。
路地から播磨さんとジャンゴが歩いてきた。
「怪我はないか?」
ジャンゴに聞かれる。
「俺は大丈夫っすけど、なんか、10人ぐらい殺されちゃいました」
「仕方ないよ。敵は『魔神』なんだから」
播磨さんがそう言ってくれる。
その時、ざわざわと人の声が湧き始めるのが分かった。
見回すと、ビルの中や路地に隠れていた人達が恐る恐る出てくるところだった。
あちこちから人が湧いてくる。
「あの人達に捕まったら時間取られるから、早くここを去ったほうがいいわね」
播磨さんが冷静な声で告げる。
「あっちの通りにリムジンを呼ぶ。行くぞ、お前ら」
ジャンゴがスマホを耳に当てて言った。
播磨さんの後を追う形で、ジャンゴ、金髪が早足で歩き始める。
「何をボサっとしてる、置いていくぞ」
振り返った金髪に言われて俺は慌てて駆け出した。
「播磨さぁん」
歩きながら俺は呼ぶ。
「何?」
「俺、魔神の血でべっとべとなんすけど」
「うん。向こうに着いたらまずシャワーを浴びてもらうから」
「あの、それと」
俺はまた呼び止めた。
「何?」
歩きながら振り返る播磨さんに、ずっと疑問だったことを尋ねた。
「なんで播磨さんだけ昨日の衣装のままなんですか?」
金髪もジャンゴも外国の警官みたいな制服に着替えている。
だが播磨さんだけ今朝からずっと、昨日の破廉恥な魔女の格好のままだ。
「うん。今から会うウチの上司がね、この格好が気に入ったからしばらくそうしてろって言うの」
俺は言葉を失った。
──どんなセクハラ上司だよ
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