将来の夫(願望)
気がつけば、燃え盛る森にて、私は横たわっていた。
後ろには洞穴、かと思えばそう見えるだけの闇が広がっていた。
ペラ紙一枚分だけの岩があり、刳り貫かれた穴の先には何も無い。
足場も光もない。
校庭から落ちた場所とは違うのだろうか。
特に森の燃える音以外は聴こえず、闇に慎重に頭を突っ込めば、その音とも隔離され何一つ聴こえることは無かった。
ここに飛び込んで自殺する勇気はなく、森を進むことにした。
しかしその前に服を脱ごうか。
何せ今は三月上旬。
学校がある場所は周辺地域でも特に冷え込む為、スポーツカジュアルなロンTの上に、モノクロのニットを着込み、やや薄手のトールのフードジャケットを羽織っている。シルエットはコートだけど。下は裏起毛のジーンズ風味のスキニーパンツである。
靴は登山靴の会社が出してる全シーズン対応で防水機能付き、街中でもいける見た目だ。
髪は背中の真ん中辺りまで伸ばしている。
こんな火の粉の舞う中であるので、出来れば纏めたいが、もし何かあった時が困る。
私の術は髪を使うものが幾つかあるためだ。
訓練時と同様に上の方でポニーにしておく。
ロングジャケットとニットは脱ぐ。
問題はパンツである。
暑いので脱ぎたいが、流石に生足は困る。
……裏返して使えるか?
……はい、無理ですね。
仕方ないのでこのままのパンツで行くしかないようだ。
さて、ジャケットとニットは持って行くべきか、捨てて行くべきか。
出来れば持って行きたいのが心情だが。
……目眩しとかにも使えそうな、それなりに強靭な布を貼り付けてあり、素材的にも簡単には燃えにくそうなジャケットだけ持って行くことにした。
そのままだと地面に軽く擦ってしまう為、丈を折って固定してから腰に巻く。
武器になりそうなものは……
物理的なものは本革ベルト、大きな針の付いた校章のブローチ(不思議金属製)、自販機のお釣りの小銭、ジャケットのフード部分にあった紐、簪(殆ど色つきのただの木の棒)。
あまりにも心もとないな。
バッグがあれば護身用の十手とクマと変態撃退用催涙スプレーとチェーンがあったのに。
霊的なものは左手首のブレスレットと右手の親指と中指の指輪だけ。
……あれこれ、普通にそこらの軍人三、四人ぐらいしか相手できないのでは。
学校の課題とかアルバイトしてる時の方がよっぽどましな装備してるよ。
いざとなったら切り札使うしかないかなぁ。
はぁ、こんなに暑いと考え事してるだけで頭が痛くなりそうだ。
術は事前に使えるものは使っておこう。
咄嗟の判断が信用出来なくなりそうなぐらいには茹だってしまう。
「は〜、『呵責の時は近い、廻天せよ』ッ」
左手首の黒曜石のブレスレットに力を集めて唱える。
「『吠えよ、駆けよ、喰らいつけ』ッ」
右手親指の赤い石が嵌った指輪も使う。
共に励起状態にしたまま探索を開始する。
バサッ、バサッ
ほら、もう来た。
視線は最初から感じていたのだ。
現れたのは三羽の黒と紺色の羽を持った大きめの鳥。
くちばしも黒っぽいが赤の差し色がある。
結構速いな。
まぁ観たかんじは問題はないかなぁ。
「GgaaaGUuuuu」
一羽が叫声をあげる。
「黙れ」
言葉と共に左腕を振るう。
続いて鳥達の前に黒の球体が浮かび、三羽全てを吸い込む。
体全てを吸い込ませることなく、途中でブレスレットの術を納める。
黒の球体は霞のように消え去る。
重量に引かれ、鳥の残骸が一塊となりボトリと落ちた。
球に吸われた部分は圧力により丸く押し固められた為、流血する黒と紺の球体。
また、そこから無造作に飛び出た羽、足、嘴。
よく見ればその体は小さな鱗やボロ布のようなものが斑に存在していた。
なにこれ?
廃品再利用?
ザルなリユースしてバケモノ造る違法企業は摘発すべきだな。
まぁ、それはさて置いておいて……こんなものか。
もう少し消耗の少ない術で良さそうかな。
次は耐性が知りたいかな。
ジャケットに着いていたブローチを手に取る。
針に力を注いで、目の前で振り下ろす。
四メートル程先に落ちた鳥の歪球体の中央に直径5センチくらいの穴が深々と空いた。
なるほど。
死んだばかりの死体でこのぐらいか。
ブローチの針を収め、表と裏を確認する。
地球を模した柘榴とそこから零れ落ちる実、それを取り囲むオリーブと、濃淡のあるエルダーの花枝。
裏には小さな刻印が幾つか。
そして副会長になった時に追加されたデフォルメされた柘榴マーク。
私は姫為千里。
美桜ヶ丘高校の超自然災害探究科、首席。
対策室の中級エージェント。(アルバイト)
そして、会長、姫為
こんな所でくたばる道理はない。
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