第4話 孤独感
ある日、チャンスが訪れた
自分を変えるためのチャンスだ
それは、ある求人情報
一年間の期間限定の契約社員ではあったけれど、興味のある分野の職場でチャレンジしたいと強く思った
思い切って面接を受けた
松山社長さんは、第一印象は、髪の毛と髭が印象的だったけど、気さくな方で、真っ直ぐなキレイな目をしていて、優しさが滲み出ていた
何の知識も技術も無い私だけど
"人柄"を理由に採用を決めて下さった
長年勤めていた飲食店で得た
スマイルと、挨拶で何とか乗り切る事が出来た
初日、約束の時間には少し早かったのだけれど、松山社長に案内され会社の前で待機していた
その時、足音が聞こえた
振り返ると
若々しいイケメンくんが佇んでいて
社員さんらしかったので挨拶した
「おはようございます」
じっと固まり、動かなくなってしまった
あれ?
その後、ペコりと軽く会釈してくれた
まだ若い
羨ましい位綺麗な肌で爽やかな今風男子だ
身長も175以上位はあるかな?
155ちょっとの私から見たら大きい印象
20代前半かな?
まだまだこれからって感じ
羨ましく思った
自分は、もう35歳でこのまま人生終わりたく無くて、この就職を機に変わりたいと願っている
思い返せばつまらない人生だった
両親は、私が幼い頃に離婚していて父の記憶は無い
女手ひとつで育ててくれた母は、弱い人で寂しさからお酒に逃げた
私への愛情はあったものの
お酒を飲むと、いつも私をけなした
「お前はブサイクだから、誰からも愛されない」と母が放った呪いの言葉は今だに私の中に根付いてしまっていて
自分に自信が持てず、自己肯定感の低い人間へと成長してしまった
だからなのかな?
私は幸せとは言えない生活をしていた
一日の仕事を終えて、家に帰る
「ただいま」
返答は、ない
薄暗い室内
電気を付けて、キッチンに向かう
買って来た物を袋から出し、調理を始める
今日は、簡単にビーフシチューとサラダにした
二人分作った
夕食は食べずに待って居たけど待ち人は21時になっても帰って来なくて、連絡すらない
テーブルに伏せて、うたた寝をしてしまっていた
22時を回った頃、玄関を開ける音がした
待ち人、同棲中の彼、三上真(ミカミシンイチ)が、中に入って来た
「おかえり」
と、声を掛けると
「起きてたんだ?ごめん、飯食って来た」
「…そっか」
ここでも、私は笑顔を取り繕った
よくある事だ
真一はいそいそとスーツを脱いでお風呂へ向かった
こんな日は、決まって
香水の残り香がする
浮気を疑ってショックを受けた時期もあった
若かりし日の事だ
もう慣れてしまった
浮気じゃなくて
真一には本命が居る
彼は叶わぬ恋をしていた
ある日、その事実を知った
それでも気づかないフリをしている私も私だ
一緒に暮らし始めて八年
きっかけは、私が当時働いていた飲食店の常連客でまあ、手っ取り早く言えばナンパだ
その頃、私は母を亡くしひとりになったばかりで寂しかったんだと思う
同じく寂しかった真一と意気投合し
いつの間にか、真一の部屋に住みついてしまった
想い合っていると信じていた時期はそれなりに幸せだったと思う
暖かい家庭を夢見た時期もあった
いつまで待っても、指輪は貰えず、プロポーズも無く、結婚適齢期はとっくに過ぎて
もう諦めていた
互いの寂しさを埋める関係
それでもひとりになるよりはマシだった
居場所が欲しかった
誰かに必要とされたかった
真一は、時々は私を求めた
多分、会いたくても会えなかった時だと思う
"代わり"でしかなく、欲望を満たすだけの愛の無い行為だ
そこには、私は写っていなくて
私自身は何も満たされなくて
それでもそれを受け入れてしまう悲しい自分が居た
終わった後は必ずタバコを吸いに行って
目も合わさず
たいした言葉も交わさず
背を向けて眠る
虚しさだけが残った
それでもここを離れる勇気は無く
こんな日々がずっと続いていくのだろうと思っていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます