第5話 再会

 彼らは、高層ビルの中へと入っていった。中の様子は、人が忙しなく動いていた。最新機器が勢揃いしており、空中にモニターが浮かび上がっていた。そこに流れる情報はまたたくまに、流れ次から次へと新しい情報が流れている。人々の手は、それを見ながらも手元のデバイスを使い、仕事をしていた。だが、彼らが入ってきた時その動きは止まった。


「お疲れ様です。ノエル・フォーサイス様」


 社員のうちの1人がそう呼んだ。彼は、目が丸くなるような衝撃を受けた。その家名は彼とは切っても切り離せない、因縁がそこにあったからだ。あまりの衝撃にいくら彼でも、唖然としてしまった。だが、それ以上に彼は不敵な笑みを漏らしてしまっていた。彼の深く漆黒に濁った瞳は、彼女を包み込むかのように瞳の奥から捉えていた。誰もが彼女に対して視線を迎えているため、その彼の歪んだ姿を見たものは誰もいなかった。


 そして、社員の人らは、やっと彼の方へ視線を向けた。


「戻ってきたのか、この最低最悪の大罪人が!」


 誰かが、そう言うと、一斉に周りもついづいするように罵倒し始めた。様々な罵詈雑言が彼に向かって飛び交っている。全うな生き方をしている人なら、あれを言われ続けたら、精神が壊れるだろう。だが、彼は異常者だった。


 彼はおもむろに周囲の人を見回した。そうして、1人1人誰が言っているかをまじまじと見つめていった。彼は、愉快そうにしていた。そして、彼はただ一言発した。


「お前ら黙れよ」


 彼の暗く沈んだ声が響いた。決して大声で叫んだ訳では無い。だというのに、その声は、その場にいた全員に届いてしまった。彼を罵倒する声などもう上がらなかった。それだけでは無い。誰一人その場から動くことすら出来なかった。誰もが彼から目を離すことが出来ない。否。目を逸らしたいのだ。恐怖で震え上がっている。だが、その言葉の重みがそれを許さなかった。


 彼は、そんな様子に満足したのかは分からない。だが、それ以上何も言わず、そのままエレベーターの方へ行ってしまった。


「あなたがたは死ぬつもりですか?そうでないのならば、彼に突っかからない事ね。元の業務にさっさともどりなさい」


 彼女もまた、冷たい声だった。むしろ呆れていたのかもしれない。あんな挑発をすることを安易に言ってしまっていたのだから。言葉とは、大きな責任が伴ってくる。それを部下は分かっていなかった。ただ、正義感を振りかざそうとして、絶対なる悪を我こそが裁こうとしたのかもしれない。そして、その言葉をきっかけに同調してしまった。集団同調である。周りに誰かがいれば安心できるというそう言う心理的状態のもとにあったことも一つの要因かもしれない。周りに流されてしまう人程、要注意しなければならないというのに。彼やノエルだとしたら、そういう事態にはならなかっただろう。彼らは、異常者ではあるが、必ずと言っていいほど、自分を持っている。周りに身を任すということはしない。こんな曖昧な表現で分かりずらいかもしれないがそういうものである。



 エレベーターにのり、最上階へのぼっていった。高さ50mを超えるビルの最上階には、たった一つの部屋だけがそんざいした。その部屋以外にはガラス張り窓しかない。その部屋ためだけに作られていた。そして、ノックをし、彼はその部屋に入っていった。


 だが、彼はドアを開けて入ることは叶わなかった。入ろうとした途端、彼は吹き飛ばされたのだ。そして、勢いよく外へ放り出された。窓ガラスを割っていくはずだったが、そうなることはなかった。いつの間にか、そこだけ窓があけられていたのだ。まるで、最初からそうなることが分かっていたように。


「ふざけるなぁぁぁ!!」


 彼は恨みの籠った声で落ちていった。そして、彼の声は段々と遠くなっていった。彼の後に着いてきたはずのノエルは、横によけていた。彼だけが落ちていったのだ。その様子をノエルはあんなものすら避けれないなんてとバカにしているようだった。


「やりすぎちゃった」


 そう、やらかしちゃったみたいな可愛いげのある顔をしたふうにはなした。


「おつかれ〜」


 そう言ったのは軽い雰囲気を醸し出してる人だった。だが、こんなフランクな人であるがこの会社の社長である。普段は、ビシッとした姿をしており、敏腕社長として腕をふるっているなど、彼女の仕事をしている姿を見てなければ分かるはずもない。


「お久びさだね。望美」


 彼は、面倒くさそうにしていた。何事もなかったようにしていあ。あの高さから落ちたはずだったのだが、全く平気そうである。


「10年ぶりね〜元気してた?」


 望美さんと呼ばれた彼女は懐かしみを感じるように話しかけている。彼女は、柊 望美さんだ。

 年齢は俺より少し上で、いつも姉として関わってくれていた変わった人だった。


「誰かさんのせいで元気も何もないよ」


 彼はため息を着いていた。彼は、先程の件である。どこの世界に住む人が挨拶代わりに吹き飛ばすというのか。


「元気そうね!良かった良かった!」


 あからさまな元気な声だった。もはや、さっきのことなど気にしてないみたいだ。


「この世界もこんな有様だし、元気だしてこ〜!」


 彼女は、底抜けに明るいのだ。ムードメーカーのような人だ。


「それでね、あなたにお願いがあって、あそこから出したんだ〜」


 彼女は、そう言い放った。


「やっぱりか」


 彼の予想通りだった。

 彼女は、ほんとに優しい人間なのだ。だから、お願いという言葉をつかっている。わざわざそんな事をする必要などないのにである。彼女はまだ、俺の事をきにかけてくれるらしい。間違いなく今の世界でそのように言ってくれる人は少数派だろう。


「何をすればいいんだ?」


 彼は訪ねた。


「これをやって欲しいんだ〜」


 望美は、一つの手紙を差し出してきた。

 彼は、受け取って内容を確認してみたが、見れば見るほど顔をしかめていった。


 あまりにも、厄介な内容であったからだ。


「よし、破り捨てよう」


彼はその判断をするのに読み終わって1秒も待たなかった。


「そんな事いわないで!?まぁあなたなら何とかなるから!んじゃこれよろしくね〜」


 望美によってこんな強引に話が決められてしまった。このマイペースさに彼は置いてけぼりになり、この依頼をすることになったのであった。


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