第3話
「でもまあいいです。ともかく何を無くされたか、いつ無くされたのか、きちんと思い出してからそれは王宮警察に訴え出て下さい。それを捜査するのはそちらのお仕事で、私にどうこう言われても仕方ないですし」
そうよねえ、とばかりに王女殿下は大きくうなづく。
ザイマト殿下はぐぬぬ、と拳を握りしめている。
「だ、だが、お前に対する婚約破棄は変わらないぞ! 俺は真実の愛を……」
「ええ、私もまっっっっっっったくその件については問題無いと言ったじゃないですか。私も前々から破棄したいと思っておりました。先ほども言いました様に、有責事項がどちらにどれだけあるのか、ということをはっきりさせたいのです」
では、と私は一言従者に合図しました。
すると黒板の上に、大きな紙が貼られます。
そこには一覧表が書かれています。
「な、何だこれは」
「ここにもあります様に、私は今まで五年間、ずっと様々なデータを取っておりました。それをお見せしたいと思います」
そこにはこれまで、私がザイマト殿下と婚約してから五年間におけるお茶会の日付と、彼の出席率と、欠席の理由が書かれています。
私はチョークを置き、指示棒を手に取りました。
「ザイマト殿下は基本的に婚約者の私が出席するお茶会には出席する義務がございます。なお、こちらもご覧下さい」
横にもう一枚表を貼る。
「こちらは王子殿下が出席しなくてはならない行事です。私は本来出るも出ないも義務ではございません。ただ、出ることが望まれる、という姿勢が王宮からは出ておりました」
「あらー酷いわねっ」
王女殿下はそう言ってけらけらと笑いました。
「最初の頃こそ、ザイマト、しぶしぶ出てた様だけど、ここ一、二年何なの? しかも理由が大概『腹痛』じゃないの」
「あ、姉上! 本当に腹痛がしていたのです! 苦手で……」
「何を言っているのだか。お茶会程度で気持ちがやられてしまう様な王子じゃあ政治には向いていないわね。あら、何この理由『先約がある』ザイマトそれ通じると思っているの?」
「先約が! 本当にあったんです!」
「誰とよ」
「か、彼女です」
「馬鹿なのあんたは! ここで正当とされる先約っていうのは、お母様より高い身分の方でないといけないの! つまり、父上や、お祖母様の皇太后様とか、そういう方からの約束以外先約とは言えないの! そんなことも知らなかったの!? あああ、お母様がここ最近ずっと頭痛に悩まされていたのはそのせいだったのね」
「え、王妃様が?」
「そうなのよオーガスタ。うちのお兄様は身体が弱いから、次の王太子はこの馬鹿にしなくちゃならないのか、いやもういっそ側妃の息子の方がよっぽど王太子としてましじゃないかって。お母様は本当に国のことをちゃんと考えていらっしゃるから、お兄様はともかく、あんたがこんなに馬鹿に育ったことをどれだけ辛く思っているか」
ああ、こう言われると、まだ他にも資料はあるのに、なかなか出しにくくなってしまいます。
ですが、王女殿下はそこのところはめざとく。
「あら、従者がまだ紙を持っているじゃないの。上から貼ってみてくれる?」
そうしなさい、と私は命じました。
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