第4話

「あらー、これはパーティにおけるダンスの相手ね……くくくくくく」


 王女殿下の肩が笑いで震えだしていました。


「何これ、これが本当だったら、あんたもしかして、ダンスそのものが下手ってこと?」


 やはりここ五年間のパーティのダンスにおける、私の相手表と、ザイマト殿下の相手表です。

 ここには相手の名前と共に、どれだけの時間踊り通したか、というものも記されております。

 一曲踊り通すのは、案外疲れるものです。

 特にパーティにおける格好では。

 ですので、ステップがうまく踏めない場合、相手から「失礼します」と断られる場合があります。

 足を踏まれたら大変ですので。

 さて私の場合、相手の数は少ないのですが、まあ大体一曲を通して踊りきっております。

 踊るのは好きですし、相手の方にも失礼ですしね。

 ですがザイマト殿下の場合。


「あんたオーガスタと以外、ちゃんと踊りきれていないじゃない」


 にべもなし。

 ええそうです。

 ザイマト殿下は本当にダンスが下手なのです。

 だから何とか一曲踊り終えることができるのは、一緒に稽古をしていた私くらいなものなのです。

 ステップだけでなく、段取りもも忘れてしまうことが多いので、次は何なのか、ということをさりげな~く示さなくてはならないのです。

 しかし他の令嬢達にそれを求めるのは酷なことでしょう。

 しっかり私の従者達は、彼が他の令嬢達の足を踏んだことも記録しております。


「他には? ……ええと、ザイマトからの誘いがあったのに直前でキャンセルされたこと、宿題を肩代わりさせられたこと、他国からの客人の言葉が判らなくて通訳させられたこと……等々」


 王女殿下はばんばんと黒板を叩きながら笑い転げていらっしゃいます。


「あの…… 王女殿下、そこまでお笑いになるのは……」

「だってだってだって、笑わずには居られないでしょ! もうそりゃあこれだけ揃っていれば、ザイマトの有責に決まってるじゃない。あと? 手紙を出しても返事が他人の筆跡だった? 書いた詩を笑われた? 作った菓子を捨てられた? ……ねえ、そこのお嬢さん、こんな男でもいいの? 地位だって実際のところこの先判らないのよ」

「え…… ええ」


 そそそ、ともの凄くさりげなく、音も立てず、トレミア嬢はザイマト殿下から離れて後ろに退いて行こうとしています。


「え? あ? トレミア?」

「……あ、あの…… 私、別に王妃になりたいとかそういうのではなくて、単にザイマト様が好きだったからなんですが…… やっぱりそうですね、はい、不釣り合いですわ。失礼致します!」


 そう言ってくるっと背を向けると、彼女はその靴では不思議なくらいに恐ろしい速さで走り去って行きました。

 そしてちょうどその様子を見ながら、国王王妃夫妻がおいでになりました。

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