ある日のこと⑥

「え、何で優希がソレ・・つけてるのよ?」


 それは、ある日の学校のちょっとした出来事でした。


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 二時間目を終えるチャイムが鳴り、待ちに待った遊ぶ時間になってはしゃぐ子供達。一斉に椅子から立ち上がり、それぞれ遊び始めます。けどそれは、優希くんや大和くんも例外ではありません。


 早速、優希くんはランドセルからいつものマントを取り出しました。そして、メリッサちゃんを誘いに行こう! と大和くんに言います。もちろん、大和くんも笑顔で頷きました。


 メリッサちゃんがいる、四組に向かう優希くんと大和くん。廊下は校庭へ遊びに行く子供達で溢れかえっています。すると──────


「わっ!!」

「わぁっ!?」


 突然メリッサちゃんが教室のドアの影から姿を現し、優希くんを驚かせました。大きく目と口を見開いて大声を上げる優希くん。まさか隠れているとは思ってなかったのです。


 そして、その優希くんを見てメリッサちゃんは愉快そうに笑いました。


「あははは! こんなに上手くいくとは思わなかった!」

「そんな事されたら誰だってビックリするだろ! 卑怯だぞ!」

「卑怯じゃないもーん。だって大和くんはビックリしてないし。優希って案外ビビりなんだね〜?」

「えっ」


 メリッサちゃんの言葉に優希くんは振り向き、大和くんを見ます。確かに、大和くんを見ると全く驚いてませんでした。むしろ、笑っています。


 何故……!? と言わんばかりの顔をする優希くんに、大和くんは少し申し訳なさそうにクスリと笑いました。


「僕、虫が嫌いなだけでビックリ系は大丈夫だから」

「そうなの!?」

「怖いのも平気だよ」

「え!?……いや、オレも平気だし」


 まさかの大和くんの発言に、優希くんは空いた口が塞がらなくなりそうになりましたが、何とか堪えました。その反動で思わず自分が怖いのが苦手なことを言いそうになりましたが、咄嗟に誤魔化します。


 平静を装う優希くん。その優希くんをニヤニヤと見る大和くんとメリッサちゃん。


「……ん?」


 すると、メリッサちゃんが何かに気づきました。そして突然優希くんの右腕を掴み、驚いたように言います。


「え、何で優希がソレ・・つけてるのよ?」


 と。

 メリッサちゃんにそう言われて、ポカンと間抜けな顔をするのは優希くん。一瞬何のことか分からず、思考が停止していました。


 けど、それは大和くんの言葉でその思考は動くことになります。


「優希くん、絆創膏のことじゃない?」

「え……? あっ!」


 メリッサちゃんが言っていたソレ・・とは、優希くんの右腕に貼ってある絆創膏のことでした。つい昨日、優希くんの初恋の人になったお姉さんに貼ってもらった蜂の絵が描いてある絆創膏。


 優希くんは昨日、メリッサちゃんが帰ったあとのことを話しました。自分がヒーローのようにお姉さんを助けたこと、その時に絆創膏を貰ったこと。両足にも貼ってもらったけど、それはお風呂に入ったら取れちゃったこと。


 そして優希くんにとって一番大切な初恋の事も、メリッサちゃんに話そうとしました。メリッサちゃんも大和くんと同じ、大事な友達だからです。が……


「で、その人がオレのは──────」

「うわぁぁぁあ!? ちょっと!」


 それを大和くんが大声で阻止しました。優希くんの口を塞ぎ、メリッサちゃんから少し距離を置きます。


 いつものメリッサちゃんなら、突然コソコソしだす男子二人を怪しんでいたでしょう。けど今は、不思議な表情をしていました。そして一人、心の中で呟きます。


(昨日……。まさか、ね。他人の空似ってやつでしょ)


 一方、大和くんに連れられた優希くんは驚いていました。何故なら大和くんが必死な顔をしていたからです。


「ど、どうした!?」

「こっちのセリフだよ! バカなの!?」

「何でだよ! オレはメリーにも協力して貰いたいんだ!」

「初恋のことをメリッサちゃんに言ったら、ボク達の友情は終わる! メリッサちゃんが大事じゃないの!?」

「はぁ!? 何でメリーと初恋が──────」

「良いから! 大事でしょ! 大事なら言わない方がいい!」

「? お、おう」


 聞こえるか聞こえないかの小声でやりとりを済ませる二人。なのに大和くんの言葉には迫力がありました。そのせいか、メリッサちゃんと初恋の関係性がまだ理解出来てないのに優希くんは頷いてしまいました。


 優希くんを引っ張って、メリッサちゃんの元へ戻るぎこちない笑顔の大和くん。


「あはは、ごめんね。優希くんが変なこと言おうとしたから」

「おいっ! 変なことって何──────」

「だから優希くんは黙ってて!」


 想定外の言い訳に思わず言葉が口から出てしまった優希くん。が、またもや大和くんがその口を手で塞ぎました。……この二人の連携プレーはどうやらダメみたいです。


 けど、そんな騒がしい二人にメリッサちゃんは言いました。


「え? ああ……、そうなの。まぁ、優希だしね」


 それはまさに、うわの空という反応でした。優希くんと大和くんもそんなメリッサちゃんに驚きます。こんな見え見えの誤魔化しに不審がらないなんて、と。


 けど何はともあれ、二人――特に大和くん――には好都合でした。昨日出会ったお姉さんの話を深く掘り下げられなければ問題ありません。ミッションコンプリート!


「……あ!」


 すると、優希くんが何かを思い出したように突然声を上げました。その声に驚く大和くんとメリッサちゃん。けど優希くんは気にせず、メリッサちゃんに話しかけました。


「今日の放課後、メリー暇? 今日は大和の塾が休みなんだよ。だからメリーも遊ぼうぜ」

「え……!?」

「そうだった! 誘おうと思ってたんだよ。急だけど、もし良かったら一緒に遊ばない?」


 優希くんだけじゃなく大和くんも賛同し、口をあわあわさせるメリッサちゃん。そして次の瞬間、メリッサちゃんの頬が林檎のように赤くなりました。嬉しそうな顔をしています。


 けど突然嬉しそうな顔は消え去り、申し訳なさそうに言いました。


「ごめん、今日は用事があるから……」


 と。

 目を伏せ、優希くんと大和くんの顔を見ないようにするメリッサちゃん。二人がどんな顔をしているのかが怖くて見ることが出来ません。


 けど、そんなメリッサちゃんに二人は明るく声をかけました。


「そっかぁ。それじゃあ仕方ないね」

「また次があるしな。その時遊ぼうぜ!」


 ニコリと笑う優希くんと大和くん。その優しさにメリッサちゃんは驚きました。今まで友達がいなかったメリッサちゃんは、一度誘いを断ってしまったら、もう誘われないと思っていたからです。


 また遊ぼう。その言葉に見る見る笑顔になっていくメリッサちゃん。どんどん嬉しさでいっぱいになっていきます。そして、そう言ってくれた二人に負けないくらいの声で、メリッサちゃんは言いました。


「うんっ、遊ぼう!」

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