ある日のこと②

「ヤダァァ!!やめてよぉぉお!!」


 よく晴れた日のこと、公園で子供達が元気よく遊んでいました。鬼ごっこや、ブランコ、おままごとなどをして、それぞれ楽しそうです。


 ですが、そんな賑やかな場所に似つかわしくない悲鳴が響きました。見れば、男の子数人が背の低い男の子を囲んで何やらしているようです。一体何をしているのでしょうか? もう少し、様子を見てみましょう。


 体の大きな男の子が背の低い男の子に向かって怒鳴っています。


「うるさい! 早く触れよ! お前のために虫持ってきてやったんだぞ!」

大和やまと〜、ビビってんのぉ? 早く触れよ!」


 なるほど、どうやらこのクソガキ──────悪い子供達は、背の低い弱気な男の子、大和くんを寄って集っていじめているみたいですね。見る限り、大和くんは虫が大嫌いな様子です。


 今にも泣き出しそうな大和くん。周りに助けを求めますが、誰も助けてくれません。何故なら、体の大きな男の子──────通称、ジャンボが恐いからです。だから皆、見て見ぬふりをします。よくある光景ですね。


「ああ! もういい! 俺様がお前の頭に虫乗っけてやる!」


 まさかの一人称が俺様。あだ名ジャンボなのに。俺様がギリ許されるのは二次元のイケメンだけだぞ。分を弁えろ。


 という冗談は置いといて、ジャンボくんは虫を大和くんの頭に無理やり乗せようとしました。ですが、もちろん大和くんは必死に抵抗をします。大嫌いな虫を頭に乗せられるなんてとんでもない! ……あと大和くんは、ジャンボくんも嫌いです。取り巻きも、ジャンボくんが大嫌いです。ジャンボくんは、実は孤独の王様でした。


 大和くんが暴れ出すので、ジャンボくんは取り巻きに大和くんを抑えるように命令しました。両腕と体をガッチリと掴まれ、大和くんは身動きが取れません。まさに、大ピンチです。


 ジャンボくんの虫を持った手がジワジワと大和くんの頭に近づいてきます。大和くんは更に悲鳴を上げました。それはもう、断末魔のようでした。命を燃やして心の底から悲鳴を上げていました。


 そのセミ並のうるささに、ジャンボくんが思わず耳を塞いだ次の瞬間──────


「悪党共っ、やめるんだ!」


 更にうるさい声が大和くんやジャンボくん達の耳に届きました。その声に釣られ、ジャンボくんが声のした方向を振り向きます。


「うわっ!」


 そして驚き、声を上げました。なんと、さっき声をかけた人物はジャンボくんの真後ろに立っていたのです。それは当然、驚きますよね。普通なら距離を置きます。


 更にジャンボくんは目の前にいる人物の格好を見て驚きました。今、ジャンボくんの目の前にいるのは、ジャンボくんと同じくらいの男の子です。ですがその格好は、ロボットがプリントされたTシャツに、赤色のマントを羽織っていました。頭の上にはプールで使うゴーグルを装着しています。


 ダッサ……と、この場にいる全員が思ったことでしょう。ですが当の本人はキリッとした表情をしています。つまり、自分の格好をカッコイイと思っているということです。


 赤色のマントを羽織っている男の子が、ジャンボくんに言います。


「弱い者いじめはやめるんだ! 嫌がってるだろ!」


 と。

 ハッキリと強気で言った赤色のマントの男の子の言葉に対し、ジャンボくんは言いました。


「いや……お前誰だよ」

「オレは優希!」


 分かってたと思いますが、赤色のマントの男の子の正体は優希くんでした。


 優希くんは待ってました! と言わんばかりにジャンボくんから距離を取り、自慢のマントをひらりとさせます。


「オレは正義のヒーロー! オレがいる限り、弱い者いじめは許さない!」


 ビシッ! とポーズを決め、自分なりのキメ顔をする優希くん。きっと、家で何度も練習したのでしょう。とても練習熱心ですね!


 一方、優希くんの決めポーズを見てジャンボくん達は口をぽかーんと開けていました。でもしばらくしたら、ジャンボくん達は一斉に笑い出しました。大和くん以外の皆は優希くんを指さし、お腹を抱えて大笑いしてます。


「なっ、何だコイツ! キモっ! ギャハハ!」

「正義のヒーローだってさ! バカじゃん!」

「あははは! カッコイイ! あっ、握手してくださーい!あはは!」


 ジャンボくん達は口々に優希くんをからかいました。もう大和くんのことなんて忘れてます。今は優希くんをバカにするのが楽しくて仕方がないといった様子です。


 正義のヒーローである自分をバカにされた優希くん。一体、この後どうするのでしょうか?


「おいっ、大和の次はコイツに─────ぐっ!?」


 ジャンボくんの頬を殴りました。ですが、ジャンボくんの脂肪が厚くて優希くんは手を痛めてしまいました。


 その瞬間、優希くんは思いました。最初に子分から攻撃すれば良かったと。そして同時に、ジャンボくんも思いました。優希くんを必ずボコボコにすると。


 ──────────────────────────────


「……ねぇ、大丈夫?」


 時刻は四時。夕方で、もう帰る時間。公園で遊んでいた子供達はもういません。でもそこにはまだ、二人だけ子供達がいました。優希くんと大和くんです。


 大和くんは地面に大の字で倒れている優希くんに話しかけていました。優希くんの顔はボコボコで、服も綺麗だった赤色のマントも汚れてました。優希くんはジャンボくんとの喧嘩に完全敗北したのです。


 悔しそうに空を睨みつける優希くん。でも決して、涙は流しません。ゆっくりと起き上がり、砂埃まみれの服を手で叩きます。その間、無言です。


 ですが、その沈黙を破ったのは大和くんでした。


「あの……助けてくれて、ありがとう」


 小さな声で、でも確かに大和くんは優希くんに向かってそう言いました。驚き、目を大きく見開く優希くん。そして初めてちゃんと、大和くんの顔を見ました。大和くんの顔は少し強ばってましたが、微笑んでました。


 そして、自分のポケットから絆創膏を取り出すと、それを優希くんに差し出しながら言いました。


「本物のヒーローみたいで、カッコ良かった!」


 その言葉を聞いた途端、優希くんの顔がみるみる笑顔になっていきました。目にも光を取り戻し、でも照れくさいのか頬は少し赤く見えます。


 やがて優希くんは大和くんから絆創膏を受け取り、胸を張って言いました。


じゃなくて、オレは本物のヒーローなんだよ!」


 今日、優希くんにも、そして大和くんにも、新しい友達が出来たみたいです。

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