第166話 学園祭二日目③

「では、最後の課題です。どちらでも構いませんので、愛の告白をお願いしますっ!」


「「・・・はぁ??」」


俺達は、一瞬何を言われたのか理解できなかった。しかし、周囲からは声にならない悲鳴が上がった。


「えっと、聞き間違いかな?もう一回聞いていいですか?」


「はい、『愛の告白』をお願いしますっ!」


どうやら聞き間違いではなかったようだ。しかし、告白なんてゲームのノリでするものじゃない。どちらが告白するにしろ、楓がかわいそうだ。


楓は、珍しくテンパりながらあたふたしている。


「他の課題にはならないんですか?」


「そうですねぇ。そもそも、この双六はカップル向けのものなので、これくらいの課題は簡単なものなんですけどぉ」


ま、まぁ、そりゃそうなんだろうけど。俺達は恋人じゃないしなぁ。それに、楓もテンパってるし、ここは俺がやるしかないか。


俺は、テンパっている楓の両肩を掴み、じっと見つめた。


ーーーーーーーーーー


うぅ、勢いで来ちゃったけど、ドキドキする。


私は晴翔となるべく一緒に居たいが為に、無理言って屋台を巡り、しまいには人間双六の出し物をしていたクラスにまでやってきてしまった。


このクラスには私の知り合いがいて、この人間双六がカップル向けであることは初めから知っていた。


少し、強引すぎたかな。


私は今更ながらに反省していた。


「では、こちらからスタートして頂いて、様々なお題をクリアして頂きます。一緒に生徒が1人ついていきますので、わからないことは聞いてください」


「ん、わかった」


どんな作りかは知り合いに聞いて知ってる。問題ない。もちろん、課題の内容も熟知している。抜かりない。


「この双六では、常に手を繋いだ状態で行って頂きます。スタートのマスを出る時は手を繋いでからお願いします」


えっ、そんなルールあったっけ??


私の知らない要素が出てきて一瞬焦ったけど、これはまたとないチャンス。晴翔との距離を縮める為の天からの贈り物に違いない。


「晴翔、手出して」


「あ、あぁ」


差し出される手を見て、なんだか緊張した。校内を回っている時も繋いでたけど、改めて思うと恥ずかしい。でも、ここで引いたら終わり。行けるとこまで行く。


「ん、これでよし。行く」


初めての恋人繋ぎ。これであってる?なんか握りにくい。


「手、握りにくくないか?普通に繋げば?」


やっぱり晴翔も同じこと思ったみたい。でも、ここで諦められない。私は、なんとか言い訳を絞り出す。


「ん、でも、みんなやってる。これがルールじゃないの?」


「あ、握り方はなんでもいいですよ。人によっては腕に抱きつく人や、お姫様抱っこの人もいますよ」


「お姫様抱っこ!?」


適当についた言い訳から、なんか凄いパワーワードが返ってきた。お姫様抱っこ、羨ましい。


「楓、お姫様抱っこはまた今度な。時間もないし、普通に進もう」


「今度やってくれるの?わかった、なら急ぐ」


やった。言質取った。後で絶対やってもらう。彩芽には悪いけど、イケメンを独り占め。


その後、スタートした私達は渡されたサイコロを振って、マスを進んでいく。止まるごとに課題をクリアして行くけど、なんだか物足りない。もっと面白い内容の物もあったはず。何か当たらないかな。


双六も半分を過ぎ、ゴールが見えてきたころ、やっと欲しい課題を引き当てた。


「はいっ、では次のお題は『お互いの好きなところ3つ言ってください』です!」


やっと来た。晴翔が私のどこが好ましいか聞くチャンス。今後の攻略にきっと役に立つ。私は、晴翔の言葉に集中したいため、先に言うことにした。


私が晴翔を好きな理由は凄く単純だ。格好いいから。優しいから。そして・・・。


「最後」


「うん」


多分、晴翔は覚えてない。言ったところでわからないだろう。でも、ちゃんと言っておこう。


「・・・昔、助けてくれたから」


「えっ?」


案の定、晴翔は不思議な表情をしていた。いつかは話せる時が来るのかな?


私がイケメン推しになった理由を。


「お終い。次は晴翔。私の好きなところ教えて」


「お、俺?わ、わかった」


晴翔には悪いけど、今は私の好きなところが早く聞きたい。早く、早くっ。


「まず、楓はすごく可愛い」


「ふぇっ!?・・・そ、そう?」


「あぁ、それは間違いないさ。この学校の中でも指折りだろう」


よ、予想外。私って、可愛い、のかな?


なんだか顔が熱くなるのがわかる。こんな時、どんな顔すればいいのかわからない。うまい言葉も返せない。


私はクールぶってるけど、ただコミュニケーションが苦手なだけ。こう言う時は本当に困る。


「ふ、ふぅん。そ、それで、あと2つは?」


「そうだなぁ。淡白な性格だけど、思いやりに溢れてるところとか?」


うぅ、晴翔は私の心臓を止める気だ。これ以上は心臓が耐えられそうにない。あと一つ。頑張れ私。


「さぁさぁ、この勢いでとどめを刺してしまいましょうHARU様っ!」


「と、とどめって」


くっ、この案内係、余計なことを。


「うーん、やっぱりアレかな。炭酸飲んだときのーー」


「ス、ストップ!!」


なんだろう。私の心臓は別の意味でドキドキが止まらない。私の黒歴史を掘り起こす気!?


ここは、強引でも終わらせるしかない!!


「は、晴翔、もうわかった。そこの人、これでオッケー?」


オッケーだよね?オッケーと言って!?


私は、想いが伝わるように必死に目で訴えかけた。


「そうですね。先が気になるところではありますが、あまりHARU様がこの空間にいると周りの女子達が落ち着いかにようなので、先に進みましょう」


よ、良かった。周りの雰囲気もあってか、なんとか先に進めそう。晴翔には後でお仕置きが必要。


私は、今すぐサイコロを晴翔に投げつけたかったが、気持ちを落ち着かせ、優しくサイコロを振った。


「お疲れ様でしたっ!では、ゴールにとまりましたので、最後の課題をクリアして頂いたら終了となりますっ!」


「やっと終わるな」


「早くバンドの準備に行く」


そして、ちゃんと晴翔に説教をする。


「では、最後の課題です。どちらでも構いませんので、愛の告白をお願いしますっ!」


「「・・・はぁ??」」


この女子は、な、何を言ってる?


そんなものは私が聞いた物にはなかったはず。ど、どどどどうしよう!?


私は、想定外のことに完全にテンパってしまった。もう、頭の中が真っ白だった。


そんな時、両肩を力強く掴まれる。


晴翔の手は思ったよりも大きくて、温かい。そして、安心する。目の前には、大好きな男の子がいる。


私はこの時、何故こんなことをしたのか、後で聞かれたところで理由なんてわからなかった。


「は、はは、ひゃるとっ!」


「は、はいっ!」


うぅ、噛んだぁぁぁぁ!!


ええいっ、もうこうなったらやけくそだっ!!


「・・・すき」


「へっ?」


突然の告白に、晴翔も困ることだろう。わかってた。でも、止まらなかった。


「晴翔が、好き。大好き」


「・・・」


私は晴翔の目を真っ直ぐに見つめて、視線を逸らさなかった。晴翔の答えはなんとなくわかる。だから、ここまでにしよう。


「・・・晴翔、これは課題クリアのためだから、答えは必要ない」


「そ、そっか。あはは、なんだか真に迫ってたから、びっくりしちゃったよ」


「晴翔、早くバンドの準備に行こ」


私は、もう気持ちが溢れ出さないように、晴翔に背を向けてそそくさと前を歩いた。


ーーーーーーーーーー


はぁぁぁぁ、びっくりした。本当に告白されてるのかと思った。


さっさと教室から出ようとする楓を追って、俺も急いで教室を出ようとする。


しかし、ここで案内役の生徒に呼び止められる。


「HARU様、これ景品ですっ!」


「あ、そっか。ありがとうございます」


俺は、景品として手渡された物を受け取る。マグカップかな?


「これは限定品なので、彼女さんも喜びますよ?ペアになってますので、是非使って下さい」


「ありがとうございます」


「それと、HARU様にこんなことを言うのは、厚かましいかもしれませんが・・・」


「ん?なんですか?」


なんだか言いにくそうにしているが、なにかあればハッキリ言ってもらってかまわないのだが。


「さっきの告白、どう思いました?」


「えっ?そりゃ、驚いたというか、ドキドキしたと言うか」


「そうですよね。なら、あれが演技じゃないことはわかりますよね」


「・・・そっか」


そうだよな。自分の鈍感さに慣れちゃダメだ。今まで、色んな人に好きだと言ってもらえた。楓のあの告白も、俺の心にちゃんと響いていた。間違いなく、本心だったはず。


「ありがとう、えっと」


「あはは、私はいいですから。行ってあげて下さい。待ってますよ、きっと」


俺は、景品を手に楓を追った。楓の言葉は嬉しかった。しかし、俺は一体なんと返せばいいのだろうか?


俺は、答えがまとまらないまま、必死に追いかけた。

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