第164話 学園祭二日目①

「ハルくん、ハルくんー」


「どうした?」


学園祭二日目を迎え、俺達は教室で準備をしていた。今日は、初日と違い俺のスケジュールが過密なこともあり、女装はしていない。


「メイド服もいいけど、執事服も似合うねぇ」


「そう?ありがとう。俺としては女装じゃなきゃなんでもいいけどね」


「あはは、波瑠ちゃんも似合うんだけどなぁ。それにしても、写真集売れてるみたいですねぇ」


「あ、あぁ」


何故か、波瑠の人気は衰えを知らず、写真集は何度も増刷された。しかし、波瑠人気に後押しされてか、HARUの写真集も再び増刷されることになった。


「えへへ、私の彼氏は人気者〜♪」


「ご機嫌だな」


満面の笑みを浮かべる香織を見て、もっと頑張ろうとふと思った。


和やかな雰囲気の中、学園祭の準備を進めていると、クラスの男子から不満の声が上がった。


「納得いかんっ!!」


「そうだそうだ!!」


「何よ、男子っ!うっさいわね!」


「なんで、齋藤だけ執事服なんだよ!?」


「そうだよ、俺達はこんな衣装なのに!」


あぁ、なるほど。それで騒いでいるのか。でも、俺の衣装はメイド服しか用意してなかったからなぁ。


「齋藤くんはいいのよっ!」


「そうよ、似合ってるじゃない!」


「そ、そんなぁ」


「俺達だって、執事服の方がまだ似合うと思うぞ」


「「「「それはない」」」」


男子達の抵抗虚しく、女子達にバッサリと切られ、撃沈した。


すまんな、みんな。明日は俺もまたメイド服だから、今日は我慢してくれ。


ーーーーーーーーーー


各クラスの準備が終わり、先生が校門を開けに向かう。


毎年のことではあるが、校門の前には沢山の人が列を成していた。


もう毎年のことなので、警備の人たちも、お客さん達も、動きがスムーズだ。


「では、門を開けますので、完全に開くまでそのままお待ちだださいっ!」


先生たちは校門をゆっくりとあける。その間も、お客さん達は言われた通りに待っていた。


「はい、お待たせしました」


先生の掛け声とともに、ゾロゾロと人の波が押し寄せてくる。初日に比べると、少し人が多いような気がするな。


「さて、今日も頑張るぞー!」


「「「「おうー!」」」」


俊介の掛け声に合わせて、俺達は気合を入れた。


さて、俺は午後は忙しくて喫茶店は手伝えないから、今のうちに呼び込み行ってくるか。看板を手に持ち、いざ行こうとするが香織の姿がないことに気がついた。


キョロキョロとあたりを見渡す俺の袖をクイックイッと誰かが引く。後ろを振りまくと、そこには楓が居た。


「どうした、楓?」


「今日は、私が行く」


「えっ?」


俺は別に構わないが、さっきから香織が見当たらないんだよなぁ。


「香織を探してる?」


「あ、あぁ、見つからないなと思って」


「香織は大丈夫。生徒会室に行った」


生徒会室?澪のところか?


「晴翔、さっさと宣伝行く」


「あ、ちょっと」


教室を出て行った楓を追いかけて、俺も教室を後にした。楓や香織、それからこの状況で大人しくしてる俊介の様子を見るに、何か考えがあるのだろう。大人しく着いていくか。


楓のことだからどこかに寄り道をするのかと思ったが、大人しく校門へと向かう。


「なぁ、楓」


「ん、なに?」


「今日は何が狙いなんだ?」


「狙い?」


はて、なんのこと?とばかりに遠い目をする楓。何か企んでいるのは間違いない。


「言い方を変えるか。なんで楓がついてきたんだ?」


「あぁ、そういうこと」


楓は一度立ち止まると、こちらを振り向いた。


「イケメンを学園祭で連れ回すのが夢だった。だから晴翔を連れ回してる。ついでに(晴翔の隣が)空いてるか確かめに来た」


空いてるかどうか?何か食べたいのか?


「何か行きたい屋台があるのか?」


「・・・朴念仁」


「ぼ、朴念仁?俺ってそんなに無愛想か?」


「鈍感主人公か・・・それもアリ。それもまた晴翔の属性か」


「な、なんの話?」


朴念仁って、無愛想で無口な人って意味だよな?それに鈍感とか、属性とか何の意味が??


「とにかく、今日は私が晴翔の時間をもらった。私を香織だと思ってエスコートすべし」


「んー、が、頑張るよ」


流石に楓を香織と思うのは無理があるが、楓と2人きりというのは珍しいシチュエーションだ。たまには、楓のノリに付き合うのもアリなんだろうか。


「はいはい、じゃあどこから行く?」


俺は楓に話しかけながら、そっと手を差し出した。


「ん、まずは校門近くの屋台から攻める」


そう言って、楓は差し出された俺の手を取り歩き出した。


あまり表情が変わらない楓だが、少し口角が上がり心なしか楽しそうだ。


ーーーーーーーーーー


一方、俺と楓が宣伝を兼ねた屋台巡りをしているかたわら、体育館ではバンドのリハが行われていた。


「あぁ、楓先輩、楓先輩はどこですかぁぁぁ」


「い、今頃晴翔と居るんだよな!?だ、大丈夫だよな!?なぁ!?」


「ちょっと、2人ともうるさいよー」


他のバンドがリハをやっている近くで、残された3人は順番の確認や楽器、譜面の確認など最終チェックをしていた。


「楓先輩が足りない。楓先輩を補充しないと、紅葉は死んでしまいます」


「な、なぁ、やっぱり心配だから見にいこうぜ??」


「ちょ、ちょっと!」


彩芽の静止に聞く耳持たず、2人は楓と晴翔の後を追った。そして、1人残された彩芽は、4人が戻るまで1人で最終チェックをすることになった。


「はぁ、なんでうちのメンバーはあんなのしかしないのさー・・・早く終わして私も行こーっと」


結局、晴翔達のバンドは楽器や譜面の確認だけで、本番まで楽器を鳴らすことはなかった。


ーーーーーーーーーー


「いらっしゃいませーって、えっ!?齋藤先輩ですか!?」


「えっと、一応、俺は齋藤ではあるけど」


「きゃあぁぁぁ、握手して下さい!」


「え、は、はい」


俺は勢いに押されて、仕方なく握手をすることにした。流石に全生徒の顔を覚えてるわけではないし、後輩は特にわからないな。


「昨日のメイド服も素敵ですけど、執事も素敵ですねっ!」


「あ、ありがとう。フランク2本くれる?」


「あ、はい、すみませんっ!どうぞ、持って行ってください!」


「あ、えっと、お金は」


「握手で十分です!持っていって下さい!」


流石に「はい、そうですか」という訳にはいかないので、何度かお金を渡そうとするが、断固拒否されてしまった。


俺達の後ろには列が出来てしまっていたので、渋々屋台を後にした。


「ほい、フランク」


「ありがと」


俺からフランクを受け取ると、楓は立ち止まりフランクを食べ始める。小さな口でもぐもぐと食べる姿は、まるでリスのようだ。


「なぁ、楓」


「ふぁひぃ?」


口いっぱいに頬張っている為、聞き取りにくいが、おそらく「なに?」と言っているのだろう。


「ほっぺ触っていいか?」


「ぶぅぅぅぅ!!ごほっごぼっ!」


「だ、大丈夫かっ!?」


「い、いきなり、なに?」


「いや、なんというか、柔らかそうだなぁと思って。ダメか?」


「・・・や、優しく、なら」


そう言うと、プイッとそっぽをむいて、再び食べ始める楓。俺は邪魔しない程度にほっぺをつつく。


おぉ、やっぱり柔らかい。これは癖になる。しばらくつついていると、どこからともなく彼らは現れた。


「晴翔、ストーップ!!」


「楓先輩ー!!」


紅葉は楓に抱きつき、俊介は俺の腕を掴む。


「は、晴翔、とりあえず、その辺にしておこう。なっ?」


「お、おう」


俊介の必死な形相に、俺は頷くしかなかった。一方、楓はと言うと。


「あぁ、楓先輩ー。紅葉は寂しかったですぅ」


「くっつくな。あと、匂い嗅ぐな」


「ふわぁ、幸せですぅ。ずるいですよー、イケメン独占禁止法ですよ。イケメンはみんなで共有するものなんですからー」


そう言って、紅葉は楓から離れる気配が全くなかった。


「はぁ、なんでいつも邪魔が入る。・・・もう少し、触って欲しかった」


「えっ?先輩、何か言いました?」


「うるさい。クラスの方はいいの?」


「ぬわっ、忘れてましたっ!先輩方、午後のバンドはよろしくお願いしまーす!それじゃっ」


まるで嵐のような子だな、紅葉は。紅葉がクラスに戻ったあと、すぐに彩芽も合流した。しけし、すぐに俊介と彩芽はクラスから招集がかかり再び楓と2人になった。


「晴翔、宣伝にいく」


楓から差し出された手を取り、俺達は再び屋台巡りを再開した。


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