第163話 演劇

俺が蘇原さんと話をしている時、バンドメンバーは・・・。


「楓、見て見てー!」


「なに、彩芽?」


「これ見てよー、高級ギターがこんなにたくさんあるよー!!」


相変わらず間伸びした喋り方をする彩芽だが、高級ギターを前に、珍しく興奮気味の様子。


「ほらほら凄いよー、FenderにGibson、Paul Reed Smith。有名な高級ギターがこんなに沢山あるよー。弾いてもいいのかなー!?」


もう触りたくて仕方ない様子で、彩芽は高級ギター達を眺めている。


「あ、晴翔と話が終わったみたいだぞ?こっちにさっきの女の人が来る。念のため、聞いてみるか?」


高級楽器達を前に、触れることすらできない状況を見かねて、俊介は蘇原さんに確認をとる。


「あれ、どうしたの?練習しないの??」


もうとっくに楽器を弾いてると思っていた蘇原さんは、キョトンとした表情で声をかける。


「あ、い、いえ。やろうかとは思ったんですけど・・・。ちょっと素人が使っていいものかと迷ってました」


「あぁ、全然大丈夫だよ。ここにある楽器は、アーティストの皆さんのお下がりだから。色んな人に使ってもらうためにここにあるの。だから壊さなければ自由に使って」


蘇原さんはそれだけ言うと、本当にこの場からいなくなってしまった。


「は、晴翔、本当に大丈夫なのか?」


「まぁ、蘇原さんがいいって言うんだし、大丈夫だよ」


「そ、そうか、じゃあ少し練習するか」


最初こそ高級楽器にビクビクしていた4人だったが、あまりの弾き心地に、すぐに楽しみ始めた。


「やべぇ、うちにあるアンプと音が全然違う。やっぱりプロが使うやつは音がいいよなぁ」


「まぁ、勅使河原先輩みたいな人には、初心者用の一万円くらいのベースがお似合いですよ?」


「んだとぉ!?いちいち突っかかってくんじゃねぇよ!?」


「それはこっちのセリフですよっ!」


ぐぬぬぬぬ、と睨み合う2人は相変わらずだ。そんな2人のことは気にする素振りも見せず、楓と彩芽は楽器の感触を確かめている。


俊介と紅葉さんは口を開けば、お互いの悪口を言う。そして、2人とも楓のことを気にしているのは一目瞭然だ。喧嘩してる時でさえ、2人はチラチラと楓の様子を伺っている。


「あぁ、南さん可愛いなぁ」


「気持ち悪いけど、それは同意します。楓先輩より素敵な人は居ませんからねっ!」


なんとか着地点を見つけたようで、2人の言い争いは早々に終わった。その後、用意された譜面をさらう俺達だったが、楽器がいいからと言って、演奏が上手くいくわけもなく、初スタジオ練習を終えた俺達は、しばらくは自主練をすることとなった。


ーーーーーーーーーー


また別の日。


今日は体育館に集まり、学園祭で行われる演劇の最終確認をしていた。


「晴翔様、どうですか?台本の方は覚えられましたか?」


「んー、大体はね。澪はどう?」


「私も9割程でしょうか?やっぱり、姫流めるさんの課題が心配です」


「あぁ、あれか。確かに」


姫流める先輩からの課題とは、それぞれに用意された課題のことだ。決して誰にも話してはいけないし、必ず劇中で課題を遂行すること。


そして、俺の課題は当日まで教えてくれないらしい。俺の台本には『秘密』とだけ書かれていた。


「そういえば、澪の課題は出来そう?」


「えっ、私のですか?」


「そう、みんな結構ふざけた課題が多いって言ってたから。大丈夫そう?」


余程変なのはないと思うが、それでも彼女のことは心配になる。


「えっと・・・わ、私は、大丈夫です」


なぜか顔を真っ赤にして恥ずかしがる澪。そんなに恥ずかしい課題なんだろうか?


「そ、それよりも、今日は通し練習をするそうですよ?」


はぐらかされたな。ってことは、聞かない方がいいのかな?


「そうだったね。そういえば、あの2人の配役は結局元通りでいいんだっけ?」


あの2人というのは、もちろん西園寺と八乙女のことだ。最初、俺と澪が主演となり文句を言っていたため、姫流める先輩が台本を書き直したのだ。


しかし、何を企んでいるのか、結局元の台本でいいと言ってきた。なんだろう、不安しかない。


「はい、結局は元の配役でいいと連絡がありました。全く、何を考えているのやら」


「ま、まぁ、台本が戻ってむしろ助かったよ。シンプルな内容で覚えやすいし。それに、澪のシンデレラは楽しみだしね」


「も、もう、晴翔様ったら」


俺達が話しているのを周りの生徒達は、ただただ眺めているだけだった。とてもじゃないが、さっさと練習を始めようとは言い出せなかった。


俺と澪の話が終わった後、姫流める先輩からはお小言をもらった。あんまり2人の世界に入るなと怒られてしまった。


しかし、その後はスムーズに練習が進み、問題なく通し練習を終えることが出来た。


「はぁぁぁぁ、それにしても、やっぱり齋藤先輩って格好いいよねぇ」


「本当、本当っ!本物の王子様みたいだった」


「澪先輩も照れてる表情が、すっっっごく可愛いかったしね」


「あんなの見せられたら、男子達も大変だよねー」


結果として、練習は満足のいくものだったが、俺がセリフを喋る度に「きゃー!!」と無駄に声が上がるため、やりにくかった。


「晴翔様は相変わらず人気者ですねっ」


「ははは、ただやりにくいだけだけどね。澪だって、男子がずっと見てたよ?」


「本当にやめてほしいですね。鳥肌が立ちます。私は、晴翔様だけに見ていて欲しいです」


「俺は主演だからね。特等席で見てるよ」


「ふふ、それは私もです」


終始、和やかに終わった練習。いよいよ、本番に向けて細かいところをチェックして、より良い演劇となるよう、生徒一丸となって頑張った。


ーーーーーーーーーー


みんなが一丸となり、演劇の成功を目指す中、ベクトルが他に向いている生徒もいた。


その筆頭が、西園寺と八乙女だった。


日向ひなたさん」


「あぁ、雪花か。どうしたんだい??」


演劇の練習が終わった後、2人は教室に向かう途中の廊下にいた。


「どうして、元の台本に戻してしまったんですの?せっかく、私達が目立つチャンスでしたのに」


「あぁ、そのことか」


この女、面倒くさいな。不知火さんと良い関係が築けないせいで、こんな頭の弱そうな女と付き合うことになってしまったが、これはこれで役に立つ。今は我慢しなくては。


「まぁ、いいじゃないか。演劇なんかに割く時間がもったいないじゃないか」


「そ、それはそうですけど」


相変わらず扱いやすくて助かるな。俺がちょっと優しくしてやれば、それで十分だ。


この女は、不知火さんに対してライバル意識が強いようだが、当の不知火さんが全く相手にしていない。まぁ、僕に被害がなければ、好きにやってくれて構わないさ。齋藤の彼女達に対する嫌がらせなんかは特にね。


「ミスコンで色々考えてるみたいじゃないか。そっちに集中しなよ。頑張ってね」


「あ、ありがとうございます。不知火澪には絶対負けないですわっ!!」


「あぁ、頑張って。それじゃ、そろそろ教室に戻ろうか」


「はいっ!」


楽しい学園祭の裏側では、様々な思惑が飛び交い、学園祭二日目を迎えた。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


更新が遅くなり申し訳ありませんm(_ _)m


仕事が忙しく、中々更新できませんでした。仕事の方も落ち着いてきたので、毎日は・・・難しいかも知れませんが、もう少し頻繁に更新できるようになると思います。


引き続きよろしくお願いします^_^












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