第162話 バンド

これは、俺達が学園祭の出し物として、バンドを結成した時まで遡る。


半ば強引にバンドを結成した俺達は、早速近所のファミレスで作戦会議を行った。


「俊介、進行よろしく」


「お、おう」


いつのまにか、楓は躊躇なく『俊介』と呼ぶようになったが、俊介の方は未だに『南さん』と呼んでいる。


この2人は一向に進む気配がないなぁ。まぁ、彩芽の方も進展はないようだけど。2人とも頑張れよ。


「えっと、じゃあまず何か注文するか。ドリンクバーとポテトとかでいいか?」


「「「「おっけー」」」」


注文は俊介が適当にしてくれたので、俺達はドリンクバーに飲み物を取りに行くことにした。


そして、ここで彩芽からみんなに注意事項が告げられた。


「みんな、炭酸は禁止だからねー」


「そうだな、炭酸はダメだな」


俺と彩芽はガッチリと握手をして、頷き合う。そんな俺達を見て、俊介と紅葉さんは不思議そうな顔をしている。


2人は前回カラオケに来ていない為、炭酸の恐ろしさを知らないようだ。炭酸がどれほどに恐ろしい飲み物なのか。


「俺、炭酸飲みたかったんだけどなぁ」


「私もです」


「そっかー、2人は炭酸飲みたいのかー。楓は炭酸大っ嫌いなのにねー」


「「えっ!?」」


彩芽の発言に、2人は驚いて勢いよく楓の方を見る。そんな2人の視線に、楓は若干気まずそうな表情をするが、先日の出来事が脳裏に浮かんだ楓は彩芽の話になることにした。


「そ、そう、私は炭酸が嫌い。もっと言うと、私の近くで炭酸飲まないでほしい(危ないから)」


「あ、そう言えば、私も炭酸飲めないんでした。すっかり忘れてました。勅使河原先輩は炭酸大好きそうですよね?」


「なっ!?お、俺だって飲まないぞ!?」


また、ムキになって張り合っている2人を放置して、楓と彩芽はそれぞれお茶とコーヒーを持って先に帰っていく。


「晴翔も早く」


「2人は放っておいて大丈夫だよー」


「お、おう」


俺は、自分の飲み物を持つと、未だに気づかない2人を放って席に戻った。


「まず、曲を決める」


「そうだねー、そこからだよねー」


「一応、前回のカラオケで決めた曲があったけど、あれじゃダメだったか?」


そう、前回若干2名は不参加だったが、3人でカラオケに行った時に決めた曲が何曲かあった。そして、俊介達も反対はしていなかった。


「選んだ曲も良かったけど、今回は晴翔がいる」


「そうそう、せっかくプロが居るんだからさー」


「どういうこと?」


「晴翔がいるなら、晴翔の持ち歌をやるべき」


「絶対に盛り上がるよー。欲を言えば六花さんとのデュエットが聞きたかったけどー」


なるほど、そういうことか。まぁ、それには事務所の了解を取らないといけないけど。俺の契約では、勝手にイベントなどで歌うことは禁止されている。他の歌手の歌なら別にいいんだけどね。


「それなら、事務所に確認とってみようか?」


「いいの?」


「せっかくの学園祭だしね」


「晴翔、ありがとう」


「晴翔くん、ありがとー!」


俺は一旦席を外すと、恵美さんに電話をかける。


『はいはーい、どうしたの?』


「こんにちは、あのお願いがあるんですけど」


『なに?』


「今度、学園祭があるのは知ってますよね?」


『うん、ちゃんと3日間スケジュール空けてあるよ?』


「ありがとうございます。それで、学園祭でバンドを組むことになったんですけど。ドラマの曲使いたいんですけど」


『あぁ、なるほどね。別に構わないわよ。あ、そうだ、蘇原さんが話があるみたいだから電話してあげてくれる?電話番号はー』


「はい、わかりました。じゃあかけてみます。ありがとうございます」


さてと、じゃあ連絡してみるか。俺はいま教えてもらったばかりの番号に、連絡をする。


『はい、蘇原ですが』


「あ、蘇原さん、晴翔です。恵美さんに聞いて、連絡したんですが」


『あぁ、晴翔くん!良かった、ちょっと時間もらいたいんだけどいいかな?』


「今からですか?今はちょっとですねー」


俺は今の状況を簡潔に説明する。すると、意外な返事が返ってくる。


『そうなんだ。じゃあ、みんなで来なよ。譜面もあげるし、スタジオも貸してあげるよ?』


「マジですか!?」


『マジマジ〜、待ってるから早く来てねぇ』


電話を終えた俺は、みんなの元に戻る。すると、もう喧嘩は終わったのか俊介と紅葉さんも席についていた。


「晴翔、おかえり」


「晴翔くん、どうだったー?」


「使っていいってさ。それで、ちょっと用事が出来ちゃってスタジオまで行かなきゃならないんだけどさ、みんなも来る?」


俺はスタジオが借りられることや、譜面ももらえることを話すと、みんな喜んで頷いてくれた。


それから、頼んだ料理を平らげた俺達は、バスに乗ってスタジオまで移動した。


バスに乗るのも久しぶりだったが、今日は1人じゃないため、少し気が楽だった。ドラマに出演してからというもの、どこに行ってもすぐ囲まれてしまうので、そんな時に知り合いがいると本当に助かる。


今も、チラチラと視線を感じるが、話しかけてくる人は居ない。友達を盾に使うようで悪いが、許してほしい。


「ふふふ、これはなかなか」


「だねー、気分がいいー」


「本当ですね、やっぱりイケメン最高です!」


俺が罪悪感を感じる一方で、この状況を楽しんでいる奴らもいた。


「晴翔、南さん達どうしたんだ?」


俊介は、まだ楓達のあのテンションに慣れておらず、何が起きているのか理解していない。


「あー、あれは放っておいて大丈夫なやつだよ。一瞬の病だ」


「そ、そうか?」


俺達は彼女達の様子を傍で見守ることにした。


「晴翔といる優越感、ハンパない」


「周りの視線がまた堪らないよねー」


「さすが晴翔さんです!あっ、楓先輩も素敵ですよ!」


この3人は似た者同士だな。昔から一緒だという理由がなんとなく分かった気がする。


ーーーーーーーーーー


「やっほー、晴翔くん。それと、バンド仲間かな?」


「こんにちは、蘇原さん。すみません、ゾロゾロと」


「いやいや、私が呼んだんだからいいんだよ。それより、楽器と譜面は用意してあるから使っていいからね」


「「「「ありがとうございます」」」」


俺は蘇原さんと話があるためこの場に残り、みんなはスタジオに移動した。


「ごめんね忙しいのに」


「いえ、大丈夫です。それで、話ってなんですか?」


「あぁ、新曲が出来たからサンプルと譜面渡しとこうと思って」


「もしかして、映画の主題歌ですか?」


「そうだよ。また、2人にお願いすることにしたからね」


2人って言うと、六花のことだよな。後で、時間取らないとな。


「六花ちゃんの分もあるから、渡しといて。私は仕事があるから帰るけど、スタジオは何時間でも使って大丈夫だからね。最後に受付に声かけて帰って」


「わかりました」


そこから、俺達は3時間ほど譜面をさらった。俺はボーカルだし、自分の持ち歌なのでそんなに苦はなかった。


しかし、即席バンドだけあって、全然揃わなかった。これは時間がかかるな。俺達の練習の日々は続いた。


ーーーーーーーーーー


バンド練習が終わったあと、自宅に帰った私はとある人物に電話をした。


「もしもし、香織?」


『もしもし、楓?どうしたの?』


「ちょっとお願いがある」


『改まってどうしたの?お願いって?』


私が香織に電話したのは他でもない。晴翔のマネージャーさんに連絡をとってもらうため。


「晴翔のマネージャーさん。名前は忘れたけど、その人に連絡とってほしい」


『安藤さん?別にいいけど、ハルくんに頼めばいいのに』


「これはちょっとしたサプライズだから、晴翔には内緒。香織も黙ってて」


『そういうことなら、了解。それで、何を伝えればいいの?』


「それはーーーー」


私は、晴翔ドッキリ計画の一部を香織に話した。予想通り香織は食いつき協力してくれることになった。


『あははっ楽しそうー!わかった、じゃあ安藤さんにも聞いてみる。もしかしたら、安藤さんにも協力してもらえるかも』


「よかった、じゃあ頼んだ」


『うん、バイバーイ』


よし、これで大体の準備は揃った。あとは、バンドの練習をしながら本番を待つのみ。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


あとがき


学園祭については、色々と予定を変更して書いていたのですが・・・。


例年と内容などが変わった経緯を書いたエピソードを載せ忘れていました(汗


これまでの話を少し編集するか、載せるはずだったエピソードを入れるか悩み中です。学園祭については、当初の設定と変わっている部分があり、あれ?と思うところもあると思います。すみませんm(_ _)m

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