第161話 学園祭初日④

「そういえば、姫流先輩はなんでこんなところに居るんですか?先輩のことだから屋上に居るのかと思ってましたよ」


「晴翔は私のことをよく理解してる。最初は屋上に居たけど、うるさくて眠れなかった」


「あー、なるほど。それで彷徨ってた訳ですね」


「まぁ、そうなる。だけど、私は晴翔を探していたんだ。ちょっと、学園祭とやらを経験してみたくて」


なるほど、今後の小説のための情報収集ってところかな?


「俺も、またクラスに戻らないといけないから、あと1時間半くらいですけど、一緒に回りますか?」


「ありがとう。でも、いいの?」


姫流先輩は、俺から視線を外すと香織と綾乃をみる。


視線に気付いた2人は、お互いに目を合わせ一瞬キョトンとするが、すぐに姫流先輩に向き直る。


「私はかまいませんよー。大勢の方が楽しいですから」


「私も大丈夫です」


「な、なんていい子達なの」


先輩は、すんなり受け入れてくれた2人に感動したようで、目をキラキラさせている。


「さて、時間もないし見て回ろうか?」


「「「おー」」」


俺達は、ゴミを片付けると4人で校舎に入り、学園祭を回った。


「とりあえず、どこ行こうかハルくん?」


「そうだなぁ。先輩、何か気になるところありますか?」


去年は香織と2人で静かに、ひっそりと見て回った学園祭。こんなに賑やかだったんだなぁ。以前とは全く違って見える。


「いいかどうかは別として、気になるものは一つある」


「へぇ、ちなみになんですか?」


珍しく姫流先輩が、興味を示したもの。気になり俺達は食い気味に訊ねる。すると、姫流先輩は、少し溜めを待たせ答える。


「それは、お化け屋敷だ」


「「「お化け屋敷??」」」


あれ?確かお化け屋敷って何年も前に禁止になったんじゃなかったっけ??


そんな俺の疑問に、同じことを思ったのか2人が口を開く。


「え、でもお化け屋敷って禁止でしたよね?」


「今年も、2年生がやろうとして却下されたって聞きましたけど」


「あぁ、クラスとしての出し物は禁止になったらしいけど、今年はプロを呼んだらしい」


「「「プロ?」」」


お化け屋敷にプロとかあるのか??


「最近のお化け屋敷は出張してくれるんだ。知らなかったのか?」


「いやいや、普通は知らないですよ」


「まぁ、私も今回の件で調べるまで知らなかったんだけど」


「先輩が調べたんですか?」


「そうだよ。どっかの誰かさんが、澪っちに何か吹き込んだせいで」


澪っちって、澪のことだよな?


誰か直談判したやつでもいたんだろうか。すごいやつもいたもんだ。


俺がそんなことを考えていると、姫流先輩はボソッとつぶやいた。


「これは自覚ないな」


そんな小言を、2人はしっかりと聞いていたようで、素早く食いついた。


「え、もしかしてハルくんなんですか?」


「まぁ、澪先輩に直談判出来るのは晴翔だけでしょ」


「恋は盲目って言うけど、あれは重症だな。晴翔が言ったことはなんでもやりそうで怖い」


俺を除け者にして盛り上がっていた3人も、ようやく話が終わったようで、4人でお化け屋敷を目指す。


ーーーーーーーーーー


「こ、これ、ですか?」


「や、やばくないですか?」


「本格的だね、これは」


驚く俺達とは裏腹に、姫流先輩はそこまで驚いていなかった。俺達の目の前にあるのは、遊園地などにある物と遜色ないほど立派なお化け屋敷だった。


壁からは青白い手が何本も突き出ており、赤い字で色々と文字が書かれている。


「あれ?皆さんいらっしゃったんですね」


俺達が、あまりのクオリティーに若干引いている時、警邏で訪れていた澪に遭遇した。


「澪先輩、これヤバくないですか!?」


「ふふ、確かに凄いですよね。でも、晴翔様がお化け屋敷を楽しみにしたらしたので、張り切っちゃいました。てへっ♪」


「いやいや、可愛く言ってもダメですよ。職権濫用ですよ先輩」


「これくらいは問題ありませんよ。皆さん楽しんでくれてますし。さて、私はもう行かなくてはいけないので、皆さんは楽しんで行ってください」


澪は名残り惜しそうにしながらも、生徒会の仕事が忙しいのか、すぐに行ってしまった。


残された俺達は、中から聞こえてくる悲鳴に、足がすくみながらも、入ることにした。


しばらく並んで順番を待つと、すぐに俺達の順番となった。しかし、すぐには入ることはできず、入口のところで、前の人達が進むのを少し待った。


「いらっしゃいませー、3名様でよろしいですか?」


あれ、4人のはずだけど。俺は後ろを振り向くと、姫流先輩が居ないことに気がついた。よく見ると、列から少し離れたところで待機していた。


「姫流先輩、どうしたんですか?」


「い、いや、お前らのデートを邪魔するのも悪いしな。私はここで待ってるから、3人で楽しんでこい」


廊下の窓から遠くを眺めながらそう言う先輩は、若干膝が笑っていた。


すると、香織がトコトコと姫流先輩に近づいて、耳元で何かを呟いた。


すると、気が変わったのか姫流先輩もお化け屋敷へと入ることになった。


「し、仕方ないな。先輩として、しっかりとお前達について行ってやる」


「はい、4名様ですね。ではそろそろ入って頂いて大丈夫です。ギブアップの時は、このボタンを押して下さい。スタッフが迎えに行きますね」


「「「「はーい」」」」


そして、足を踏み入れた俺達は、プロの本気を目の当たりにした。


正直、学園祭でやるレベルのものではなかった。実習室を4教室ぶち抜きで造られた大規模なものだった。


外観も相当なものだったが、中も本格的だった。遊園地などにあるお化け屋敷をそのまま移した感じだ。


女子3人が俺にしがみつき、怯えている一方で、俺は六花と行ったお化け屋敷を思い出していた。


六花と一緒だったら、お化けの方が怯えてただろうな。俺は思い出したら自然と笑みが溢れていた。


「ハ、ハルくん、これで笑うとかおかしいよ」


「晴翔、おかしくなったの?」


「は、晴翔、これは悪夢だぁ。私を起こしてくれぇ」


「いやいや、先輩。今日はちゃんと起きてますよ。ちゃんとノートにメモ取って下さいね」


結局、彼女達がビビりまくって、抜け出すまでに30分ほどかかった。


お化け屋敷を堪能した俺達は、それぞれクラスに戻る時間なので一度解散することとなった。


「それじゃあ、俺と香織はクラスに戻ります。もし良かったら、来て下さい」


「じゃあね、綾乃ちゃん、姫流先輩」


「私はまた焼きそばだ。手が空いたら見に行くね、波瑠ちゃん?」


「私は澪っちと合流するか。手が空いたら澪っちと見に行くよ波瑠ちゃん?」


最後まで揶揄われた俺は、苦笑いを浮かべクラスへと戻った。


その後、約束通り綾乃、澪、姫流先輩が俺達のクラスに来てくれた。


「うおぉぉぉぉぉ、我が校の美少女達が俺達のクラスに!!」


「すげぇ、これも齋藤のおかげか!?」


「でも、佐倉先輩以外はアイツの彼女だろ?」


「でも、俺達にはまだ佐倉先輩がいるんだ!」


勝手に盛り上がる男子達を尻目に、彼女達は晴翔のコミュニケーションスペースへ並ぶ。


「晴翔様、お約束通り参りましたぁ」


そう言って、俺の右隣に座る。


「私、ソース臭いかも」


「そんなの関係ないよ。こっちおいで」


「うん!」


綾乃は嬉しそうに左隣りに座る。


「じゃあ、私はここか。よいしょっと」


「なっ!?そこはちょっと!」


「別にいいじゃない。女の子同士なんだし」


俺の膝の上に座る姫流先輩。


「じゃあ、私はここかな」


座っている俺に、後ろから抱きつく香織。俺は、あっという間に囲まれてしまった。


「くそぉ、佐倉先輩もダメじゃねぇか!?」


「なんでアイツばっかり!」


「リア充め、爆ぜろ!」


こちらを睨んでくる男子達を尻目に、楓がカメラを持ってやってきた。表情は変わらないが、心なしかテンションが低い気がする。


「じゃあ、写真撮る。こっち見て」


淡々と写真を撮ろうとする楓。最初は楓も入ろうとしたが、俊介に必死に止められ諦めたらしい。もしかしたらそのせいなのか?


そんな時。


ガラガラガラッ!!


「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!!」


凄い勢いで教室のドアが開くと、そこには息を切らした桃華の姿があった。


「なんで、私を除け者にするんですかぁ!?」


やっと合流出来た桃華も一緒に、俺達は写真を撮った。その後も慌ただしく初日の学園祭を終えた俺達は、二日目の学園祭を迎えた。


二日目は、演劇やバンド演奏など、再び晴翔は忙しい学園祭を送ることとなる。

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